29話
気絶後
ジャックが目覚めたのは、保健室のベッドの上だった。
窓からの光は薄暗く、どうやら夕暮れを過ぎて暗くなってきている時間帯のようである。
「痛ててて」
目が覚めたのはいいが、体中に鈍い痛みがあった。
デュラハン・クリムゾンの攻撃を利用して吹っ飛んだのはいいが、どうやらその分の負荷がかかっていたようだ。
「お、マスター目覚めたのじゃな」
「良かったですよ」
クロとシロの二人がベッドの横に立てかけてある椅子に座っていた。
以前のような潜り込んでいなかったのは内心助かったと思う。
「マスターは全身に負荷がかかってしまったため、全治3日ですよ」
「とはいっても、体に湿布を貼って過ごせばいいだけじゃよ」
怪我としては軽いようだ。
「そういえば、ルナの方はどうなんだ?」
「一時的に体が動けなくなるほどのショックを受けたために、病院の方に運ばれました」
「じゃが、一応大丈夫の様じゃ。頭を強く打ちつけたわけでもないし、体をぶった切られたわけでもないしのぅ。まあ、すでに動けるようになったじゃろうし、明日には授業に復帰できるそうじゃ」
つまり、無事だったということか。よかった。
今回の事件の後始末も聞いた。
デュラハンが現れたとき、最初から20体の群れで人のいるところに向かって進撃していたらしい。
ただ、あのデュラハン・クリムゾンは乗馬していなかったため、いくら他のデュラハンより強く早いとはいっても少し遅れて進んでいたらしい。
そのため、発見が遅れたそうだ。
その情報が伝わったのは、ちょうど学園長が9体目を葬り去った時らしい。
デュラハン・クリムゾンの向かう方向が学園だとわかったので急いで向かったそうだ。
そして、デュラハン・クリムゾンの姿を見つけた時に、ジャックとルナが吹っ飛んで行ったのを見かけた。
やられたのではなく、わざと受けて戦線離脱したのだと学園長はすぐにわかったので冷静にデュラハン・クリムゾンを葬り去った。
一応、すべてのデュラハンは適正者達によって倒されたらしく、これで今回のは収まったようだ。
なお、ロイス達は瓦礫に埋もれて気絶していたところを発見されたようである。
「ですが、ちょっとばかり問題が発生したようです」
デュラハンが暴れまわったせいで、繁華街の店の半分が半壊・全壊したそうだ。
復興費用は国からでるそうだが、完全復興には時間がかかるらしい。
「あと、帝国側からなのじゃが」
ルナは帝国の第3皇女。その皇女が危うく死にかけたところを助けたので、表彰したいとかいうことらしい。
いや、死にかけたのはルナ自身が原因なんですが。
俺は単に連れ戻しに行っただけですって。
まあ、表彰するのは日程が決まってかららしいので今はまだないらしいけど。
「・・・とりあえず、今日は以上か」
「はい」
「そうなのじゃ」
と、シロたちから聞き終わった時だった。
バァン‼︎
「ジャック‼︎大丈夫なのですの?」
ルナが保健室の扉を吹っ飛ばして入ってきた。
哀れな保健室の扉は砕けている。
「ルナか。びっくりしたぞいきなりで」
あまりにも突然だったので、一瞬警戒した。
警戒したからシロたちも剣の姿になりかけの中途半端な状態になっていた。すぐに中止したけど。
「だってわたくしのせいで負担をかけてしまったですもの」
若干目がウルウルしている様子だが、体は大丈夫になったようである。
「というか、俺が今起きたのをどうやって知ったんだ?」
「いえ、病院で気がついて体が動けるのを確認してから、居ても立っても居られずに走ってきたのですわ」
確か、首都の病院から学園までちょっと距離あるよな。走ってこれたならもう大丈夫か?
「今回のことに関してはごめんなさいですわ。わたくしが自信過剰すぎて・・・」
謝るルナ。
「まあ、命があるだけで儲けもんじゃん。死んだら意味がなくなるだろ?」
「本当にごめんなさいですわ‼︎」
メキィ
「ぐえっ⁉︎」
ルナが謝りながらジャックに抱きついた。
その瞬間、なんか嫌な音が。
「そんな風に言われても、悪いのはわたくしですわ」
メキッ メキィ メキィ
「ちょっ・・・苦し、」
「ですが、わたくしを助けに来てくれたのは感謝しきれませんわ」
メキィッ メキィッ・・・メキ
「ジャックには本当に感謝しきれなくて」
「ルナさん⁉︎マスターが死にかけてますよ‼︎」
「絞め殺しかけているのじゃ‼︎」
「へ?」
ボキャッ
薄れゆく意識の中で、ジャックはモンスターよりも人の方が命を奪いかねないんだなと思ったのであった・・・。
この後、病院送りにジャックはなった。
よく考えたらさ、ガントレットを軽々扱えているルナの力って結構あるんじゃ・・・




