閑話 とあるメイドゴーレムのメモリー:後編
やっと後編
長い長い年月が経ち、ようやく私は待ち望んでいたお方の魔力を感じ、迎えに上がった。
・・・けれども、もうすでに限界が来てやっと目の前まで行けたときには倒れて機能停止となった。
そこからどういう経緯があったのかは、再起動するその時まで知らない。
けれども、今はこうしてお仕えすることができるようになったからいいだろう。
「・・・・でも、先にクロ様の方がお会いできているというのがちょっと残念ですネ」
「お主は魔王城の方にずっとおったからのぅ。妾は武器としてその傍にすぐ仕えることができたのじゃが、場所が遠かったしな」
・・・・合宿終了から数日が経過し、あと3日ほどでジャックは夏の帰郷をすることになる。
合宿中のナンバー1適正者との戦闘訓練を終えて、少々その話は保留となったようで、昼間は武器を振るって訓練をし、今、この真夜中にシーラは、当時からの数少ない知り合いと言うか、クロと会話をしていた。
ジャックは現在熟睡中であり、聖剣・神剣・・・・シロとメゾンがその横で寝ている状態なので、一応ちょっと離れて屋上の方で会話をしているのだ。
学園の寮の屋上・・・あいかわらず誰も気がつかないで会話が可能な場所である。
「しかし、完全修復は済んだようじゃが、この今の時代の情報はしっかり得ておるのかのぅ?」
「はい、其の情報はすでに記録しており、魔族と人間の争いは現在ないことを確認済みデス」
シーラにとっては、其の情報が一番驚く情報でもあった。
当時、魔王と勇者がいた時代、魔族と人間が争っていた時代を考えれば物凄い変化でもあるのだ。
「魔王様は・・・・生まれ変わっている今は人間ですしネ」
「正確に言うならば、マスターは勇者と魔王様の両方の生まれ変わりのような者なのじゃが」
「はい、わかっていマス。ジャックと言う名前になり、勇者が使っていた聖剣を使用し、魔王様であって魔王様とはまた異なる方・・・・・それでも、私にとってはお仕えできるだけでもありがたいのデス」
魔王の記憶はすでになく、生まれ変わって人格などは全く別の存在であるのは事実である。
けれども、魔剣を扱い、同じような魔力を持ち、どこか似たような雰囲気を纏うジャックは、シーラにとっては魔王を思い浮かべることができる人物なのだ。
魔王ではない、けれど、生まれ変わっても中身は同じ。
魂はほとんど同じであり、似たようなところがあるのもよくわかっている。
「・・・根本的な、そう言ったところは当時の魔王様と同じでもあり、違うところでもある。でも、やはり魔王様だったのは間違いないでしょウ」
仕えるべき主が生まれ変わって再び仕えさせてくれたのは、シーラにとっては何よりもうれしい事である。
魔王城から離れた地ではあるのだが、それでもそばにお仕えできるということは幸せなのだ。
「メイドゴーレム・・・・・要は、人形のような存在なのに、心があるとはある意味不思議なモノじゃな」
「心があるからこそ、誠心誠意お仕えできる・・・・・・私の製作者にそこは感謝したいところデス」
「本音は?」
「せめて・・・・もう少し耐久性能を上げてほしかったデス」
やっと会えると思った瞬間に、限界が来て倒れたあの魔王城での絶望感は物凄いものである。
あともう少し耐久できればもっとよくお迎えに上がれたのだと思えば、そこは製作者の方に文句を言いたくなった。
「・・・・さてと、マスターは来年には学園を卒業し、貴族籍に完全に入る。となれば、領地にて屋敷住まいにもなるはずじゃ。その時は、そこのメイド長としてしっかりとしてほしいのぅ」
「わかっていマス。今世のご主人様の下にて、しっかりと働いて見せマス」
月が傾き、だいぶ時間が経っていた。
クロはそう言い残し、ジャックの部屋へと戻って魔剣の姿になって何食わぬ顔で寝る。
シーラは、魔王の生まれ変わりでもあるジャックのために、働き、忠誠を誓うことを心に、そのコアにしっかりと刻むのであった。
ついでに、ジャックの周囲の交際している人たちの世話もきちんとしようと思うのであった。
「・・・生涯をかけて、未来永劫お仕えさせていただきマス」
次回からはきちんと夏の帰郷プラス帝国での話をします。
夏の話はまだまだ続く。
・・・どことなく、このメイドゴーレムに似たようなやつが作者の他の作品でもいたな。製作者の方・・・次元を超えて何をしているのだろうか。




