27話
ちょっと長いかな
学園から抜けて、首都の繁華街の方へとジャックたちは向かった。
念のために、剣の姿に戻ったシロが自らを発光させてその光が強い方向へとジャックは走った。
あちこちでほかの適正者たちが戦闘しているのか、金属音や爆発音が鳴り響く。
繁華街にいた人たちは皆、安全なところに避難したようで人の姿を見れない。
「ほんとにこっちにルナがいるのかシロ?」
「はい、感じ取れます」
「妾はマスターの周囲にモンスターがいないか警戒しておるから、全力でマスターは走ればよいのじゃ」
クロは人間は感知できないそうなので、代わりに周囲の警戒をしてもらってジャックは全速力でルナのいるところへと向かった。
・・・結構距離があるな。組んだ時にわかったが、ルナはかなり足が速いようである。
ガントレットって結構見た目は重そうな武器だけどな・・・適正者の武器って何かしらの補正とか付与とかあるのだろうか?・・・あ、聖剣・魔剣も似たようなものか。
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「なかなか出会いませんわね・・・」
ルナは繁華街の奥の方を駆けていた。
強くなりたいという欲求が昔からルナにはあった。人間の三大欲求を押しのけそうなほどに。
普段は隠してふるまっている。だが、一皮むけばある意味戦闘狂みたいな本性があるのである。
強くなるためにどうすればよいのか、ルナは考えたことがあった。
帝国で兵法などに関する書物や、そういった強さに関する書物なども読みふけった。
また、帝国の将軍や軍曹達にも聞いてみたりしてみた。
その結果、得た答えは・・・・より格上のものと戦闘すること。
下手すると己が死ぬ。だが、勝てば高みをより目指せる。
しかし、ルナの立場は帝国の第3皇女。王位継承権が低い方だとはいえ、皇女なのでそれなりに守られてしまう。なので、そういった機会が巡ってくることはなかった。
だが、水晶の儀を受けたときにその立場は変わる。
ルナが適正者だとわかり、ガントレットが手にはいった。
そして、適正者はモンスターに対抗できる手段でもあり、同時に兵器のような存在でもある。
なので、ルナはこれを生かして父親・・・皇帝に直訴した。
自分をより強くすれば、帝国の戦力は高められると。
半分偽りだが。なぜなら、軍とかそういったものには縛られたくはないからだ。
しかし、そういえば皇帝は自分を強くしてくれる手段を模索してくれる。
そして、今回のエーラン学園の留学が決まったのである。
エーラン学園は国外では意外と有名人な学園長がいる。
その人はとんでもなく強いらしく、もしかしたら手合わせできるかもと思えた。
だが、帝国からなので少し警戒されているかもしれない。
どうしたらできるかなと思いながら、クラスに入ったときにルナは気が付いた。
自分が帝国の第3皇女だと言った時に、驚く人がいた中で一人だけがほとんど反応していなかった。
そして、その人物が持つ武器は二つの剣、しかもただの剣ではないことが分かるようなものだった。
クラスメイトとしてなるので、質問攻めされていた時にそれとなく、今の剣を持った人物についての情報を聞き出した。
名前はジャックといい、あの剣はただの武器ではなく、自立した自我を持った人の姿をとれるという勇者と魔王が使った聖剣・魔剣らしい。
その事実には内心ものすごく驚かされた。
聖剣・魔剣なんてものは帝国でも勇者と魔王が使っていた剣として伝わっているからだ。
帝国ではさらに物凄く書かれている。
聖剣・魔剣を所持する人・・・どれだけの実力があるのだろうか。
幸いにして、午後の訓練にて組んで戦うことができた。
作戦の立て方や、その実行するだけの実力。
ジャックとしては大したつもりはないのだろうが、この先もっと伸びると確信できた。
まるで、自分の目指す強さの頂点へと行けるような、そんな感じ。
さらに、学園長の訓練を受けているなどの話も聞いたので、その話も本ジャック自身の口からも聞けた。
・・・・さすが学園長なことあって無茶苦茶な感じだったけど、それについていけていること自体がすごいということに気がついていないのだろうか?
だが、その事実ともに、自分はより上を目指したいという欲が出た。
そのタイミングで起きた今回のモンスターの首都侵入。
しかも、モンスターの中ではかなりの強者にあたるアンデッド系のデュラハン。
まだ、適正者になって3ヶ月もたってはいないが、今の自分ならぎりぎりいいところまで戦えるだろう。
そう思い、こっそり避難中に抜け出し、首都の中でもかなりの爆発音などが聞こえた場所にまで駆けてきた。
戦闘が行われているのは間違いない。もしかしたら、そのうちに一体が目の前に現れて戦えるかもしれない。
自分が持つガントレットを装着し、いつでも戦えるように周囲を警戒しながら見渡す。
と、そんな時に唐突に建物の壁が爆散した。
警戒して構えると、そこには首がない馬に乗った、鎧の頭を手に抱えた鎧を着たモンスターがそこに現れた。
突っ込んできたらしく、まだ自分の存在には気がついてはいない。
「やるなら今ですわね・・・」
勢いよく、脚力を生かし殴り掛かった。
ガァァァァン!!
あたりに金属同士がぶつかり合った音が響く。
だが・・・・。
「な!?」
ルナは驚きのあまりに目を見開いた。
確かに手ごたえはあった。だが、デュラハンにはまったくのダメージが入っていなかった。
これがまだ適正者としての未熟な点だったといえよう。
適正者は確かにモンスターに対抗できる者たちである。
だが、彼らの武器に対するモンスターとの相性も存在するのだ。
剣が効きにくい相手がいれば、魔法が効きにくい相手も存在する。
ルナは、相手は鎧だけのモンスターだからガントレットで砕けるわよねとも思っていた。
しかし、デュラハンの防御力は予想よりはるかに上だったのだ。
また、適正者は戦えるようになる3ヶ月までの訓練の間に、相手に与えるダメージの効率を自然と身に着けていく。
ルナの場合、まだ日が浅い方だったのでそこまで身にはついていなかった。
ガントレットを無傷で受け止められたのに驚愕した時に隙ができた。
デュラハンは容赦なく、背負っていた剣を薙ぎ払うかのように振りかぶった。
ガントレットにあたり、そのまままとめてルナはふっ飛ばされた。
壁にたたきつけられ、鈍い痛みが体に走る。
血反吐は出なかったものの、今の一撃で体中に痛みが走り、まともに動けなくなった。
ルナは自分の実力に過信しすぎたと悟った。
どこが「いい勝負を取れる」だ。相手にもならなかったではないか。
そう後悔しながらも相手はモンスター、待ってはくれない。
デュラハン自身がトドメをさすのではなく、どうやらその乗馬されている首がない馬がルナを踏みつぶそうとしているらしい。
首がないとはいえ、馬の全体重を駆けられた前足で踏みつぶされたら、ルナの身体はつぶれた果実のようになるだろう。
しかも、その馬には鎧でさらに重いデュラハンが騎乗してその重さをより重くしている。
(確実に死にましたね・・・)
己の死を悟ったルナに、馬が前足を高く上げてルナを踏みつぶそうとしたその瞬間だった。
ザシュッツ!!
何かが宙を切り裂いた。
そして、馬の前足があっという間に切断されて、驚いた馬がそのまま後ろに倒れ込む。
乗っていたデュラハンもいきなりなので対応ができなかったのか、馬の下敷きとなった。
「・・・・え?」
驚くルナ。
何かが飛んできた方向を見ると、そこには自分に駆け寄ってくる人物の姿があった。
「ジャックですの・・・?」
「大丈夫か!!」
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正直言ってかなり危ないところだった。
ジャックは繁華街を走っていた時に、近くでなにかが砕けた音がした。
その聞こえた方向にルナを感じるとシロが言ったので、急いで駆け付けた。
その現場では、デュラハンの剣によって壁にたたきつけられたルナの姿が見えた。
そして、体が動かせないのか避けられないルナに対してデュラハンが己の馬で踏みつぶそうとしていたのだ。
このままでは間に合わない。
そう考えたジャックは、とっさにクロ・・・魔剣の方を投げた。
昨日の学園長との訓練で剣の投擲の感覚がまだあり、その感覚を頼りに投げたのだ。
魔剣はそのまま飛び、まっすぐ綺麗に馬の前足を切り落とした。
そのまま飛んで行かれると困ったが、素早くクロは人の姿をとって華麗に地面に着地し、こちらに戻って走ってきた。
剣の姿に戻って、再び手元に持つ。
「ルナ!動けるか!!」
「ちょっと・・・むりですわ。まだ痛みが鈍くてですわ」
「なら、ちょっと失礼!!」
「え、ちょっとジャック!?」
ルナを背中に背負った。なんか柔らかい物が背中にあたるし、重いと言ったらさすがに失礼なので言わないが今はそんな場合ではない。
「全力で逃げるぞ!!」
そのままルナを背負ったまま、ジャックはその場から逃走した。
バランスを崩して落馬させたとはいえ、相手はモンスター。この程度で死ぬような相手ではないだろうと思い、それに今の自分じゃまだまともに相手にならないだろうと思ってその場からの逃走をジャックは計った。
というか、命が優先なので逃げる選択しかない。
ジャックは後方を振り返りもせずに、全速力でその場を逃げたのであった・・・・・。
逃げ切れるかな・・・?
というか、背中に人を背負って良く走れるよな・・・・さすが適正者。
現実の作者だったら確実につぶれます。
 




