閑話 甘き聖なる戦い:後編
日付またいじゃった。
本当は昨日のうちに出したかったなぁ。
バレンタイン前夜。
「溶けたチョコはこのようにして型に流し込むのですよね」
「そのはずじゃよ。型はそれしか作っておらぬから慎重にせぬとな」
深夜、厨房でこっそり作業を行っている人影があった。
シロとクロの2人であり、真夜中こっそりと忍び込んで作成していたのだ。
メゾンは現在枕元にて順番が来るのを待って、交代で行っているのである。
何せ、彼女たちはジャックの武器であり、こうして離れて活動することができるとはいえ、やはり万が一の事態を恐れて交代でチョコづくりをしなければならなかったのである。
「・・・交代、今度はシロだよ」
と、交代の時間となり、メゾンが戻ってきたので素早くシロは部屋へと戻る。
「マスターに仕える剣同士でこうして作業を行うのも良いのぅ」
「我は元々対立はしていたが、こうして仕えるべき主ができたのはうれしい事でもある。その感謝を伝えるためにもしっかりとしないとな」
「・・・ところでメゾン、この型を作製するアイディは良いのじゃが・・・ちょっと恥ずかしくはないかのぅ?」
「我らをそのまま食べてくれているような錯覚になるから?直に自身にコーティングする案から妥協したでしょう?」
「まあそうじゃが・・・うーむ」
深夜の作業は、誰にも見つかることなく行われていたのであった。
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バレンタイン当日、学園内では朝から甘い香りが漂いまくっていた。
あちらこちらでは知れ渡っていたようなカップルたちがチョコを渡していたり、意外な組み合わせでチョコが送られたりなどと、甘い光景が漂い、皆青春を謳歌していた。
・・・ここで怨嗟の目線を飛ばす男性陣もいたのだが、義理チョコと言う存在もあり、一応チョコは全員1個は確実にもらえていた。
女子全員が男子全員の義理チョコを渡していないのは、まあ単純にそこまで強制されていないからである。
まあ、ここで手渡しをするのも恥ずかしいのか机の上に置かれていたり、移動する合間に粘着物が付いたチョコを投げて渡してきたりなどと言う物もあったが。
急所に直撃して悶絶した生徒もいたということも・・・・・・・・
「ジャック、バレンタインですわ」
「そのため」
「私たちからですのん」
「チョコをプレゼントするぜよ!」
「作ッタヨ!!」
ジャックはルナ、カレン、ヨナ、ミツ、スカーレットの5人からは確定の本命チョコをもらえていた。
「ありがとう、うれしいよ」
微笑み返し、ジャックはうれしいと本気で思えていた。
ルナが作ってくれたのは、綺麗な王道ともいえるハート形のチョコ。
カレンが作ってくれたのは、きっちりとしているけど、綺麗な四角形のチョコ。
ヨナが作ったのは、様々な種類のチョコを小さく一口サイズにしてたくさん詰めた、チョコで出来た入れ物。
ミツが作ったのは・・・・なんかやや緑色を帯びたチョコ。抹茶が混ぜられているようで、葉っぱの形でそれっぽくなっていた。
そして、スカーレットが作っていたのは・・・・・
「初メテヤッテミタヨ!」
「意外と言うか、すごいな・・・」
自身のモチーフなのか、ドラゴンの姿に固められてできていたチョコ細工。
今にも動き出しそうなその出来栄えに、食べるのがもったいないほどである。
・・・ただ、炎を吐いている造形にしてあるようだけど、その炎の部分のチョコが異常なほど真っ赤。
「タバスコ、唐辛子、ハバネロ、モンスターリーパー、デスソース・・・その他もろもろおいしくて辛いものが投下されていくのを、止めることはできませんでしたわ・・・」
「ああ、なるほど・・・・・食べるのは危険すぎるな」
ルナがこっそりとその真っ赤になった部分が何で出来ているのかを耳打ちし、ジャックは大変納得した。
彼女にとっておいしいものを混ぜたのであろうが・・・・・真っ赤に燃えているかのような見た目のチョコは、まさしく人を物理的にも燃やせそうな炎のチョコでもあるようだった。
スカーレット、造形のセンスはあるが、食に関してのセンスはルナたちのサポートがなければやばいことになっていた可能性がある・・なんて恐ろしい子。
「いいよなジャックは、彼女たちから本命をもらえてさ」
「義理がもらえるだけでもいいのに、本命とは羨ましいぜ!」
他の男子生徒たちとしては、クラスの中でも美少女たちであるルナたちから本命をもらえているジャックに対してうらやましいというような声が上がった。
ほとんどの意見としては、それ以上に机の上に高く積もったチョコの山を見て嫉妬も混じっていたが・・・
「俺の方は朝から悲惨だぞ・・・・リンにチョコを投げられて、それがヒット・・・してな」
ロイスは机にうつ伏したまま、悶絶が続いているのかぐったりしていた。
メイスで爆発四散させるほどの力を持っているリンからの、剛速球の義理と叫んでいたチョコが当たった痛み・・・・・。
しかも、そのチョコはなぜか超ガッチガチの鉄の塊並みに硬くて重く、威力を倍増させていた。
いくら煮ても焼いても死ななにようなロイスでも、やはり痛みはあるのだ。
その悲惨さに、男性陣全員心から哀れに思うのであった・・・・。
放課後、学園の授業が終わり、皆それぞれ寮へと戻り自室にてジャックは先に今日の課題をやっていた時であった。
「マスター、私たちも実は・・」
と、シロが人の姿になって話してきて、あらかじめ仕込んでいたかのように、クロ、メゾンも人の姿になって、彼女たちはそれぞれどこからか少し長細い大きな箱を持ってきた。
それぞれジャックに渡してきた小さな箱の中から漂うのは甘いチョコの香り。それぞれを開けてみると・・・・
「うわぁ・・なんかすごいな」
その中身を見て、ジャックは感嘆の声を上げ驚く。
中に入っていたのは、原寸大の聖剣、魔剣、神剣それぞれにそっくりな形をしたチョコ。
しかも、再現するかのようにそれぞれのチョコの色もきちんと作られていた。
「まるで型を取ったかのような・・・・・・って」
ここでジャックは気がついた。
「・・・・まさかさ、本当に自分たちで自身を型にはめたのか?」
「そのとおりです」
「アイディアはメゾンじゃがのぅ」
「こうしておどろかせるのもいいかと」
彼女たちはどうやら自身を型にしてチョコを創り上げたそうだ。
本物のような造形というか、本物から直接型を取っていればそうなるであろう。
これはこれで食べるのがもったいなくなるような代物であった。
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深夜、皆が寝静まり、もうすぐ日付が変わろうかと言う時であった。
「ふふふふ・・・・まさかジャックもこれは考えていないわよね」
アンド学園長が、寮内の廊下を歩いてきてジャックの部屋の前に立っていた。
身に着けているのは、チョコで出来ている衣服。
・・・・・ぶっ飛んだ発想で、自身が贈り物みたいにしていたのである。ただつくるのに思ったよりも手間がかかり、こうして遅くなっていたのだが。
「さてと、合いカギは学園長として持っているし、これで忍び込んで」
「・・・何をしようとしているのかしら?」
「そりゃもう、私をプレゼントといって、チョコと一緒においしく・・・・ん?」
ふと、気がついて後ろを学園長が振り向くと、そこにはルナ、カレン、ミツ、ヨナ、シロ、クロ、メゾンたちがいた。
その気配に気がついたシロたちが天井裏をつたって皆に知らせ、こうして背後から忍び寄ったのである。
その顔は全員微笑みを浮かべながらも、明らかに乙女としての嫉妬と言うか、抜け駆け禁止のような・・・
「あら?・・・・・それじゃあお休みね」
すばやく逃げようとする学園長を、皆素早く拘束した。
「さてと、いくら学園長でも・・・」
「前科はあるし」
「それは流石にですのん」
「ずるいと言えばずるいぜよ」
「というか、寝ているマスターの睡眠を妨害するようなことですし」
「日付を超えるしのぅ」
「・・・滅殺、もしくは処刑」
「え、え、あれ?」
・・・・・・・・そのまま学園長は皆に引きずられて、立場は本来は学園長が上なのだが、恋する乙女たちにとっては関係なく、朝まで長い長い長い説教を延々と続けられるのであった。
ちなみに、この時の学園長がやろうとした「私を食して」のアイディアは、後日他の皆もやってみようかと思って騒動が起きるのだが・・・・・これはまた別のお話。
きちんと本編へ戻ります。
たまにはこういう季節ネタも出してみたくなるんですよね。
そしてお笑い要素も入れたくなる




