245話
・・・大体どのあたりから学園長は計画をしていたのだろうか。
(・・・眠れん!!)
深夜、宿の一室の布団の中に深く潜り込み、ジャックはそう思った。
いつもなら簡単に熟睡ができ、滅多なことでは起きないのだがなぜか目がさえて眠ることができないのである。
いや、むしろ寝ようとすればするほど眠気が遠のき、体が暑いように感じられた。
季節は現在春であり、暖かいはずだが夏のように暑く感じられたのである。
(・・・・あーもうっ!!眠れん本気で眠れん!!)
ジャックにとっては眠りを妨害されているような気分となり、どことなく虫の居所が悪くなった。
とはいえ、隣にはアンド学園長が眠っているわけであり、下手に暴れることができない。
「・・・・って待てよ?」
ふとここでジャックの脳裏に浮かんだのは、寝る前に学園長が水分補給だからと渡してきた飲み水。
ここまで眠れないのは流石におかしいような気がして、考えてみれば・・・・それが原因の可能性があった。
「・・・まさかだけど」
「・・・・ふふふ、眠れないようねジャック」
なんとなく予測が付き、寝返りをうって後ろを振り向いたらそこにはこちらを見て微笑む学園長の姿があった。
・・・・予想通り、あの飲み水の中には学園長が薬を仕込んでいた。
とはいっても毒薬の様なものではないし、命の危険性があるわけでもない。
しかしどこにでもないようなある特殊な薬品が入れられていたのである。
「ねぇ・・・ジャック、エイミスってこのことを覚えている?」
どことなく艶っぽい様子で、学園長が急にジャックにそう尋ねてきた。
「エイミス・・・・確か、下の学年の適正者で吹き矢の武器を持ち・・・・・」
「そして考えた通りの薬品を製造できるって子だったわよね?」
「・・・・まさかっ!?」
エイミスが使う武器は吹き矢であり、その矢に薬を塗って使用するのである。
武器その物が作製するのか、その薬は彼女が思い浮かべた通りの薬品となり、学内では薬屋としても働いているのだ。
「ええ、彼女に学園長としての権げふんげふん、お願でちょーっと私の思った薬を作ってもらったのよ」
「職権乱用ですが!?」
てへっと舌を出す学園長にジャックはツッコミを入れた。
だいたいここまで来れば予想ができる。
おそらくだが、エイミスに薬を作ってもらい、その薬をあの飲み水の中に投入して自然とジャックにのませたのであろう。
そして、その薬品の効果と言うのは・・・・・・。
「流石にムリヤリとかはないからね。『ある程度自分が好意を持った異性がいると、自然と・・・』な感じの薬品を濃い目で入れたのよ。時間が経過してやっと効き目が出るタイプのだけどうまくいったようね」
それで飲んですぐには効果が出ず、こうして誰もが寝静まる深夜にやっと薬の効果が出てきたのだ。
キラン!!と学園長の目が猟奇的に光ったようにジャックはそう見えた。
さすがに体が熱くなっており、手を出したくなるが相手がマズイ。
というか、確実にそれを分かって学園長はやっているのだろうか。
「ふふふふふ・・・別に良いのよ?私だってもう年齢はかなりあるわけで、いつまでも独身と言うわけにはいかないもの。それに・・・・私だってわかってやっているのよ」
妖艶なほほえみを学園長は浮かべ、寝巻に手をかける。
・・・・どことなく感じ取れるが、学園長は拒絶の意思はなく、むしろ来いと言っているかのようにジャックは思えた。
「くっ!!」
体の鼓動が激しくなり、上は大火事下は大水の、据え膳喰わねばなんとやらみたいな、理性と本能の板挟みの状態になっていた。
と、ここでジャックは気が付いた。
ここまで騒いでいるのなら、シロ達が止めてくれそうなものである。
剣を置いてある方を見ると・・・・
「すいません、風呂場で話を聞いていてつい・・」
「まあ妾たちも受け入れ可能じゃよ。いつでも来るのじゃマスター!!」
「・・・・来てくれないともぐ」
すでに人の姿になってスタンバイしていました。しかもメゾンが何か恐ろしいような言葉をつぶやいた。
実は、風呂上りにのぼせていたのは学園長のこの計画を聞いており、阻止しようと思ったのだが、逆に自分たちがもつマスターへの思いをさらけ出されてあれよあれよという間に乗せられて、浸かり過ぎただけであった。
・・・つまり、現在ジャックの周囲は肉食系が4人。
ジャック自身も薬の作用もあって・・・・・・
前門の虎後門の狼。据え膳喰わねばなんとやら。人間の3大欲求の一つが抑えられ、もう一つにその分流されている状態。
・・・この夜、学園長の策略に、ジャックはわずかな抵抗を見せたが、かなわなかったのであった・・・・・。
その頃、学園の方では乙女の勘の様なものが働き、恐怖の波動に寮で気絶する生徒が多く出たという。
学園長の計画性には誰もがかなわないよ。




