237話
あーーーーーーーーーーーシリアスがあって気持ちが重い。
自称「神」に向かっての総攻撃が始まる。
魔法が飛び、銃弾が飛び、炎のブレスが飛び、剣の軌跡が飛んでめがけていく。
大剣を振りおろし、刀で居合切りし、ハリセンで張り倒す。
ガントレットで殴り、メイスで潰し、鞭で首を締め上げ、砲弾も飛び交う。
それぞれの全力攻撃がさく裂していき、自称「神」にも、その周囲に呼び出された半透明の化け物たちも巻き込んでの混沌とした状態となる。
再生をする半透明の化け物たちでも、流石にまとまった攻撃によって肉片が飛び散り、再生する先からえぐられ斬られ焼かれていく。
「ぎゅぁぁぁぁっつ!」
「でしゃかぁぁぁぁぁ!!」
「ぜすぅぁぁぁぁぁ!!」
それぞれ断末魔の様な叫び声をあげ、犀星が追い付かなくなってきたのか次第に動きが鈍くなる。
「くっつ・・・まさかここまでとは・・」
自称「神」も流石にここまでの総攻撃を喰らって防ぎきれないのか、あちこちに切り傷や打撲痕があるが・・・
「だが、所詮神には勝てん!!」
舐めるのをやめて、完全に本気になった。
一気にあたりの空気が収束するような感覚がし、ジャックは嫌な予感がした。
「全員防御しろ!!」
慌てて叫び、全員が防御の体制を取った瞬間、
「『神の爆発!!』」
ドガァァァァァァァン!!
自称「神」がそう叫び、その周囲に大爆発が起きた・・・・・
「・・・ぐっ・・」
煙がはれ、周囲を見渡しと誰もがボロボロになっていた。
「何が『神の』だよ・・・ただの自爆の様なものじゃん・・」
だが、その自称「神」とやらは爆発の中心部でぴんぴんした姿で立っていた。
いつのまにかダメージも回復しているようで、傷一つない。
しかも、周囲の動きが鈍くなったことで余裕を持ったのか、いつでもとどめを刺せるはずなのに、気持ちの悪い笑みを浮かべて全員の行動を観察していた。
指先一つ動かさず、もう余裕でいつでも殺せるかのような・・・・最後の瞬間をどうするのかと興味を持っているようなそんな感じである。
反対に、ジャックたちは防御をとっさに取ったとはいえ、先ほどの爆発はすさまじく、瓦礫の破片や、半透明の化け物たちからちぎれ飛んできた爪や牙が直撃し、全員けがをしている。
爪の様なものが突き刺さって血を流している物や、持っている武器その物にひびが入ってしまっているのもいた。
そして・・・ジャックやメゾンも。
「痛っ・・・」
「・・・ぐっ」
ジャックの方は瓦礫の破片が額にあたって血を流して、目にかかって見にくく、
メゾンの方は神剣そのものにひびが入っていた。
「大丈夫かよメゾン・・・」
「・・・無理だな。使用不可能だ」
これ以上神剣を使えば確実に剣が砕ける。
ジャックとメゾンはその神剣の状態を見てそう思えた。
聖剣と魔剣の方はひびが入っていないが、こちらは爆発寸前に魔力を流して一気に強度が上がっていたせいであろう。
ただ、神剣を扱うメゾンの方は魔力の消費がジャックよりもどうやら激しかったようで、そのような防御の仕方ができなかったせいで、強度が不十分で爆発の威力によって、剣にひびが入ったのだ。
「・・・私と神剣は一心同体。神剣が砕ければ、私も死ぬ」
先ほど、あの自称「神」が話した内容によるとメゾンはこの剣と一体化しているような者・・・連動していると言ってもいいらしい。
そして、剣が砕ける・・・つまり、武器としての死はメゾンの死と同意義らしい。
「あの神野郎・・・どうすれば確実に殺せるか」
「・・・一つだけ方法がないこともない」
ジャックのつぶやきに、メゾンが何か思いついたようである。
その内容に耳を傾け・・・・ジャックは驚く。
「そんなことをしたら・・・メゾン、お前確実に死ぬだろ」
確実かもしれないが、その方法だとメゾンの死も同時に起きる。
「・・・ふっ、私は今は共闘しているが、元はお前たちの敵だ。・・・敵が死んでも何か悪いことはあるか?」
どことなく自虐的な笑みを口に浮かべたメゾン。
自身が作られた存在であり、その体もとうの昔に死んでいたのを研究者たちが神剣の完成のために使用して一心同体させられた存在でもある。
・・・もしかしたら、メゾンは・・・
「・・・武器として、主がいないから死にたいのか」
「・・・」
ジャックが予想して尋ねたその言葉に、メゾンは言葉を発しないでうなずくような仕草をした。
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・・・・・メゾンのその体は元々神剣を扱える人物の身体である。
だが、神剣と同化した存在となったことでその人としての定義が消え、武器としての命となった。
適正者が持つ武器は自身でその主を選び、仕える。
・・・しかし、神剣のメゾンはその主を選ぶことがない。いや、主の予定だった魂そのものが武器と一緒になっていることによって、自身が主のようだが、武器であるという矛盾を抱えているようなものだ。
そして・・・・それはつまり、本当の意味での主が存在しないことになる。
・・・・いつしかメゾンは自身の完全なる死を望むようになっていた。
だが、自殺をしなかったのはある記憶が原因である。
「・・・かつての勇者と魔王の戦い。その光景が神剣としてなのかしっかりと覚えているのだ」
そうつぶやくメゾンの声は、どことなくうらやましかったような声である。
聖剣・魔剣と言う主を持つ武器たちが、その主と共に全力の、まさに主の命を削るかのような戦いを繰り広げていたその光景。
武器としてうらやましいようなものであり、自身もその戦いに加わりたかった。
・・・だが、勇者と魔王が死に、その戦いに加わることはかなわない。
長い長い年月が経ち、メゾンはある日研究所を出たときからその計画を立てた。
いつか、聖剣・魔剣を扱える適正者が出たら・・・・剣技を極め、聖剣・魔剣それぞれの力をフルに活用できるものが出たら、あの勇者と魔王の戦いのように互いに死闘を繰り広げたい。
その思いをもとに対魔勇団を結成し、わざと聖剣・魔剣の所持者と敵対関係になれるような行為をした。
メゾンは死にたい。だが、自殺するのではなく互いに高めた技量で、本当に死力を振り絞って戦いたかった。
あの日、対魔勇団が壊滅したその時、本当なら戦闘したかったのだが、まだジャックの聖剣・魔剣の力も完全ではないため、一時的にその場を引いた。
そして、今日この場にいたのは・・・・聖剣・魔剣が力を完全に取り戻して、更にジャックの実力も向上していると思って、そしてその場で戦闘を仕掛けて死力を振り絞りたかったらしい。
・・・だが、それももはやかなわない。
適正者の武器は壊れても、その持ち主である主が水晶に手をかざすことによって再びこの世に顕現できる。
しかし、作られた神剣であり、主もいないメゾンは・・・・もう二度とこの世に顕現することはできない。
そして、その神剣自体もすでにひびが入り、ボロボロと欠片がこぼれている。
もともと長い年月が経っているのもあり、剣そのもの、メゾンの体そのものが限界へと近づいているのだ。
・・・けれども、それでもいい。せめて、自身をこの世に誕生させた研究者の一人でもあり、自称「神」を殺すことさえできればもうそんなことはどうでもよかった。
生まれたくはなかった。この世に顕現したくなかった、なぜ自身がこの世にいるのか、なぜ主を持てぬ武器が存在しなければならないのだろうか・・・・
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メゾンのその悲痛な思いをジャックは感じ取った。
主もおらず、利用の目的だけで誕生させられ・・・そして、結果として神剣を作るために、この世界に適正者とモンスターと言う存在が生まれた。
自身が生まれたことにより、モンスターも生まれたことによって奪われた命もメゾンは悔やんでいるのだろう。
本当は、心優しいただの剣。
寂しがり屋の武器・・・・心を持った存在なのだ。
「・・・・なあメゾン。この戦いが終わったら、お前の主を俺にしてくれないか」
「・・マスター!?」
「なんじゃと!?」
ジャックのその言葉に、シロとクロは驚く。
今は共闘しているとはいえ、敵同士であり、そしてその出生もモンスターが生まれた原因となった存在である。
そんなメゾンを・・・・自身の武器に加えようといったことに、シロとクロは驚いた。
「・・・・は?」
メゾンの方も、そのジャックの言葉に目を丸くした。
こちらはこちらで予想外だったのだろう。
「・・・なぜだ?私が生まれたからこそ、今のような状況となりモンスターも、このような争いも起きた。それなのに、そんな罪がある私を・・・・仕えさせてくれるのか?」
「はぁっ・・・そんなどうでもいいことは良いんだよ」
「「「え」」」
そのため息をついて言うジャックの言葉に、メゾン、シロ、クロの3人は思わず言葉を詰まらせた。
「大体生まれた原因だろうが、適正者がこの世に生まれたきっかけでもあるじゃん。最初は俺だって適正者に何でなったのかはわからなかったよ」
ジャックは思い出す。
あの日、水晶の儀にて適正者なったことを。
そして、その後学園にして剣が人の姿となり、聖剣・魔剣と言うとんでもない剣だったということを。
「なんで聖剣と魔剣に選ばれたのか、なんで俺が適正者になったんだろうか。そんなぎもんはたくさんでてきたし、モンスターと戦わされることにも嫌だと思っていた。逃げ出したいとも思っていた」
しかし、学園で過ごすうちにそんな思いもなくなり、いつの間にか周りには友人と・・・愛する人たちができていた。
「そして、『聖剣と魔剣に選ばれてしまった俺はどうしたらいいのだろうか?』と思っていた過去の自分にこうはっきりと言えるね。『選ばれたからこそ、今の自分があり、仲間があり、恋人もいる。その選ばれた瞬間から、俺は始まった』とね」
もう悩むこともない。
逃げ出したいと思うようなこともない。
ただ、守りたい人を守るために武器があるのだ。
「そして、メゾン。お前も元は敵だが、今は仲間でもあり、そもそもお前が居なければ今の俺も・・・この聖剣と魔剣、シロとクロ、そして仲間も恋人もいなかった」
ここでジャックは息を吸い込み、一気に言葉を出す。
「そのきっかけを作ってくれたようなやつをどうして仕えさせないのか?主がいないなら、俺がお前の主となってやる!!そして、俺達の仲間になってその力を・・・・皆を守るために貸してくれ!!」
ジャックのその叫び・・・嘘偽りがない、正真正銘の真の心からのその言葉に、メゾンはいつしか涙を流していた。
自身は主がいないし、このような状況になった原因でもあった。
死に場所も求め、さらにて期待してたのに・・・・自分の力を必要としてくれている。
「・・・・・わかった。私・・・メゾン、いや、神剣はお前の武器になってやる!!」
そうメゾンが叫んだ瞬間、神剣が一気に輝き・・・メゾンの身体が神剣に吸収された。
「なにっつ!?」
その光景を余裕ぶって傍観していた自称「神」や、周囲の適正者たちもその光景に目を見開いて驚く。
そして、驚く合間に神剣はさらに二つに分かれ、それぞれ輝きながら聖剣と魔剣に吸収された。
「ふぇっ!?なんかはいってきます!!」
「浸食・・・ではないのぅ・・」
聖剣と魔剣がそれぞれ神剣を吸収し・・・・姿を変える。
聖剣は白き輝きを纏った剣の姿から、さらに進化し、その輝きを増して、灰色の宝石が一つ装飾に追加され、その印象をより清廉潔白に。
魔剣は黒き輝きを纏った剣の姿から、さらに進化し、その輝きを増して、灰色の宝石が一つ装飾に追加され、その印象をより闇のように漆黒へ。
勇者と魔王が使っていたころよりも剣の力を増し、その様子はまさに白い星と黒い星が同時に地上に降り立ったかのようである。
「・・・・融合して、さらに力を増したのか」
神剣に蓄えられていた力が、聖剣と魔剣の力を増す力となった。
そして、そのついでの余波なのか、ジャックの魔力も体力も回復し、ボロボロの姿から万全の状態へと戻る。
「・・よしっ、これなら!!」
聖剣・魔剣を鎌え、ジャックは自称「神」に再びはっきりと対峙する。
自称「神」は、その様子に余裕をなくして完全に全力の状態へと移るようだ。
『・・・・マスター、メゾンの・・・この神剣の力を・・・お貸します』
消えたメゾンの声が聞こえたような気がして、ジャックはさらに魔力を聖剣と魔剣に込める。
力を聖剣・魔剣に分けてくれたメゾンの為にも・・・・・ジャックはその攻撃の一歩を踏み出した。
神剣の力を取り込み、聖剣と魔剣がさらに力を増す。
ジャックのコンディションも最高潮へとなり、自称「神」への戦いを挑む!!
これまでの元凶の一員でもある相手に、今安らかな・・・いや、後悔させるかのような死をいざなう!!
次回に続く!
・・・あ、先に言っておきますけどこの戦いが終わっても最終回はまだないですよ。結構不安される方がいたのであらかじめお知らせしておきます。
ついでに宣伝として
NコードN6625DT「魔物使いでチート野郎!!」
という作者に取って3作目の魔物使いシリーズを投稿し始めました。




