218話
「でっかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ジャックたち一同は、魔王城に襲い掛かってきた巨大なミミズのようなモンスターに対してそう叫んだ。
「あのモンスターって何だよ!!」
「似たような物なら『ギガントワーム』なのがあるのじゃが・・・・サイズがでかすぎるのじゃ!」
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「ギガントワーム」
巨大なミミズのモンスターであり、全長が20メートルほど。
体のあちこちから自身の体によく似た小さな触手を出し、あたりの生物を狙って捕食するために捕まえる。無差別に生きているモノののみを狙うため、相手が自分よりも大きかろうと強かろうとひるむことなく、忠実にその食欲に従う。
頭の方に小さな口があるが、小さなといっても人一人は飲みこめる。
さわりごこちは恐ろしく気持ち悪く、トラウマを抱える人がかならずでる。
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そういうふうに習ってはいるが、あのミミズのようなモンスター・・・・ギガントワームのようなモンスターの全長は明らかに20メートルどころか1キロ以上はある。
・・・20メートルでもでかいけど。
「%”$&&’#%!!」
鳴き声は、通常のモンスターの様な鳴き声ではなく、あきらかに異常ともいえる異様な声であった。
「魔王城の正面以外から体当たりを仕掛けておるようじゃが・・・ちとまずいのぅ」
この魔王城の仕掛けに、正面門以外からだと死なない程度の電撃や炎が襲い掛かってくるというものがある。
そして、ギガントワームは正面門以外の城壁から思いっきり体当たりを仕掛けてきており、自身が魔王城の仕掛けによって電撃や炎を浴びていた。
だが、それでもひるむことなく何度も攻撃をしてくるものだから城中にその衝撃音が伝わってくる。
どっしぃぃぃぃん!!
ずっしぃぃぃぃぃん!!
「このままだとどうなる?」
「魔王城の耐久性能からじゃと・・・あまり持たんのぅ」
ギガントワームの狙いは生きた生物。
つまり、今一番その数が多いこの城に狙って攻撃をしてきているのだ。
「全員総攻撃!!」
流石にこのまま籠城しても意味がない。
ジャックたちは全員窓から飛び出し、ギガントワームに対して攻撃を仕掛けることにした。
「えぃやぁ!!」
ぐにょうゆよん
「せい!!」
ぶよーん
「「「「「気持ち悪ッツ!!」」」」
それぞれの武器で攻撃する適正者たち。
しかし、誰もがギガントワームのぶよぶよのような、得体のしれない感触に鳥肌を立てた。
普通のモンスター相手なら、その斬る感触とかははっきりとしている。
しかし、このギガントワームは本当にその感触が最悪のモンスターであった。
「%’#%$&’#&$”&!!」
「おい!!再生までするのかよ!!」
しかも、せっかく傷つけて血を流したと思ったら、すぐさまその部分がふさがって元通りへとなる。
「異常さを感じるというか、得体のしれない気持ち悪さがあるな!!」
「うぇぇぇ・・・・聖剣の姿ですけどなんか伝わるですよ・・・」
「キモイキモイキモイキモイキモイキモイキモ・・・」
ジャックもその異常さに嫌悪感を示す。聖剣・魔剣の姿になっているシロとクロは普段はその感覚はないはずだが、回りの反応から自身にもしっかりとその感触が分かってしまうようである。
「学園長の魔法とかでぶっ飛ばせないのかな?」
「学園長も魔法攻撃をしているけど、今一つな効き目のようだ」
見上げると、学園長が上空から様々な魔法攻撃を仕掛けているようだが、このギガントワームの表面に焦げ目がつくぐらいでいまいちの様だ。
「魔法に対しての耐性の高さ・・・・これも異常ですね」
「なんかこう、牛男とかの時に似ているのじゃよ」
シロとクロのそのつぶやきに、ふとジャックは思った。
(・・・もしかしてだけど、このギガントワームもアレと似たような物じゃないか?)
魔法が効きにくい、防御力も再生能力も異常という点で考えるならば、あの牛男のちょっと改良した感じにも取れたからである。
まあ、同じようなものとは限らないし、そもそも考える余裕がない。
「マスター!!右上に触手です!!」
「あぶなっ!?」
慌ててシロのその声にはっと反応して、迫ってきた触手を切り落とす。
切った感触は・・・・すんごいブヨンギュニョンとしており、ジャックは鳥肌が立った。
「超気持ち悪すぎる・・・・」
戦況としては思わしくない状況で、触手につかまる人を助けたりするようにと次第に追い込まれている。
「グギュゥーーー!!」
上の方で、スカーレットが飛び回りながら炎のブレスをギガントワームに当てているが、ものすごく臭い焦げ付きの臭いがする以外は今一つのようである。
シュルルルルル!!!!
パシッツ
「しまった!!」
触手の攻撃も出てきたところで、ついにジャックはその攻撃の一つに巻き付かれた。
どうやらそこそこ知能もあるようで、誰がどれだけ危険なのかを判断してジャックを狙ったようである。
ブニュングニュンモニュン・・・・・
(---------------------ッ!!)
その全身に巻き付いてきた感触に、ジャックは声にならない悲鳴を上げる。
さすがに男には需要がないだろと思いつつも、それでもかなり気色悪い感触が襲う。
ぶよぶよのぐにょぐにょのもう得体のしれない気持ち悪さが・・・・・
(気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪イ気持チ悪イキモチワルイキモチワルイキモチワルイ!!)
「マスター!!早く脱出を!!」
「まだ逃れ・・・・・・・・マスター?」
シロとクロがジャックに対し、早めに切って脱出を促そうとした時であった。
ブチッツ
「「え?」」
何かが切れた音がした。
その場にいた全員も、その音が聞こえたような気がする。
「・・・マスター・・・?」
剣の状態で、シロとクロがジャックの顔を見ると表情が消えていた。いや、目が完全にキレた目である。
((あ))
ここでシロとクロは悟った。あまりの気持ちの悪さに、ジャックが逆ギレをしたということに・・・・。
「・・・・だよ」
「き・・・・・・・だ・・・」
「気持ち悪いわこのぶよぐにょやろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉう!!」
ジャックが叫び、剣に一気に魔力が流し込まれて聖剣と魔剣の輝きが最高潮になる。
「「「「「ジャックがブチギレしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」
そのジャックの様子を見たクラスメイト達は、そのジャックのあまりの威圧感にビビった。
心なしか、ギガントワームもびくっと震えた。
食欲に忠実であり、相手がだれであろうとひるむことがないと言われるギガントワーム。
そのワームでさえ、ブチギレのマジギレしたジャックにひるんだ。
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「・・・アノモンスター、終ワッタネ」
その様子を見て、スカーレットはそうつぶやいた。スカーレットは元々、ジャックの恐ろしさを悟ってから殺されないように工夫して今の姿になったモンスターである。
適正者と対峙するモンスターであり、知能もあったためにジャックのそのモンスターにとっての危険性をよく理解していた。
そのジャックを完全にぶちっとさせたギガントワームのこれからを思うと、別種とはいえ、モンスターだから哀れみを感じたのであった・・・・。
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「せぇいやっつ!!」
すばやく力づくで巻き付いてきていた触手をジャックは素早く切り払う。
地面に落ちて、素早く蹴り上げてギガントワームに対して・・・
「どりゃぁぁぁっつ!!」
ドゴォォォォォン!!
「「「「はぁぁぁぁ!?」」」」
剣を使わずにジャックは思いっきりワームのその長い胴体に蹴りを入れ、ワームが吹っ飛ぶ。
いくら適正者とはいえ、全長が1キロ以上ほどの大きさであり、重量もあるワームを蹴り上げたその姿に、全員が驚愕を隠せない。
「マスター!?」
「無茶苦茶じゃよ!!」
ジャックの手に持たれている聖剣と魔剣・・。シロとクロもさすがにその光景に驚く。
だが、余りの気持ち悪さにブチギレしているジャックには届いていなかった。
「『うなれ光の集まりよ・・」
「『喰らえ闇の集まりよ・・」
「「「「「魔法!?」」」」」」
キレた衝撃か、ジャックが何やら詠唱を開始し始めた。
その詠唱に合わせるかのように、聖剣・魔剣の輝きが強くなっていく。
・・・適正者の中には、魔法を使う者がいる。
自身の魔力を詠唱によって魔法へと変換し、攻撃を行うのである。
しかし、魔法を使う適正者の武器は基本的に杖やメイスであり、ジャックのように剣を武器としている適正者が使うことはほとんどない。
だが、必ずしも使わないわけではなく、武器が剣や斧でも使う時は使う人がいるのである。
ジャックはこの時ほぼ無意識で、キレたその勢いで偶然魔法の詠唱が使えているのであった。
けど、並行詠唱と言うのは魔法を使う者にとっても高難易度なものである。
同属性の魔法ならまだしも、今ジャックが使おうとしているのは光と闇の全く異なる属性の魔法。
無意識ゆえに、別に気にすることもなく使っていたのだ。
「%#’&$&#%#%&&%$#!!」
しかし、魔法の詠唱にはそれなりに時間がかかる。
この魔法に危機感をはっきりと感じ取ったギガントワームは、詠唱を完了させる前にジャックに攻撃を仕掛けようと根性で体当たりを仕掛けようとした。
・・・が、時すでに遅し。
詠唱が完了し、ジャックは聖剣と魔剣をワームに突き出し、狙いを定めて発動させた。
「『聖なる衝撃波』!!」
「『悪夢の嘲笑』!!」
・・・以前、ジャックは聖剣・魔剣で剣技を使う際に魔力をぶっ放して空中に大爆発を起こしたことがあった。
その時から頑張って、斬撃を飛ばす剣技ができていたと思っていたが、それは勘違いである。
もともと魔法無しだと使えない技であったのだ。
魔法の発動と同時に、聖剣と魔剣からそれぞれ白い光線、黒い光線が飛び出す。
そのまま真っ直ぐ綺麗に進み、ワームに直撃する。
だが、そこで終わりというわけではない。
ギガントワームの表面を突き破り、その魔法は突き進む。
ワームの身体が膨らんでいき、段々空へと浮かび上がっていく。
行き場をなくした魔法はその内部を暴れまわり、上へ上へとむけていきそして・・限界は訪れる。
ドガァァァァァァァァァァァァン!!
突如起きる大爆発。
ギガントワームは内部から爆発四散し、あたりに肉片・・・いや、魔法の余波か肉片すらも残さず、大空に白と黒の光が入り混じった花火ができたのであった。
「・・・・えぐいですね」
「えぐいのじゃ・・・」
そのモンスターと言えども哀れな最後に、その場にいた全員は同情を得なかった。
「・・・・・ふにゃぁ・・・」
バタン
「マスター!?」
「ジャック!!」
キレすぎてたのか、魔力を使い過ぎたのか、ジャックはそのままばったりと気絶して倒れるのであった・・・・。
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「・・・・うわぁ、予想以上と言うかやっぱとんでもないな彼は」
その光景を、安全な場所から見ていた者がいた。
「あれもずいぶん改良したやつだったけどな・・・。まあ、彼の血液サンプルを取ったのが残っているけど、次はこいつを使ってみたほうが良いかな・・・」
怪しげな笑みを浮かべ、己の好奇心を満たすためにその人物は白衣を翻し、その場から気が付かれないように気配を消しながらその人物はその場を離れていったのであった。
今回は需要なかったような気がする。ノクターンとかは免れたかったからなぁ・・・・
というか、なにげに無意識での行動をした方がジャックが強いような気がする。
・・・なお、ワームのさわり心地は本当に気色悪いものにしております。書いていたら想像して鳥肌立ったわ。




