177話
さて、今回の帰郷は1年目の夏休みとはまた違ったものになるのかな?
ゴドゥルウ山の噴火もあり、今年の2年生の合宿はここで中止となった。
他の場所に行くということも考えられたのだが、学園長のきつい訓練の効果はあるので別にいいかもしれないということでそのまま合宿は終了。
それから3日ほどたち、後学期の開始まで夏休みを自由にできるのでジャックたちは故郷の村に里帰りする用意をしていた。
「拙者は往復時間を考えるとそこまで長くはおれぬぜよがね」
「私の方は、結構いるつもりですのんけど・・・」
昨日、それぞれの故郷にいったん戻るミツとヨナに別れの挨拶をするときに、何やらカレン、ルナの二人と輪になって何かひそひそ話していた。
(私たちがいない間でも、ジャックに変な人が付かないようにできますのん?)
(任せるがいいですわ。途中から帝国に戻る際に、ジャックと一緒にまた行くのですけどそこでも言い寄るコバエは寄らせませんですわ!!)
(村でも、一応ジャックの人気はあったから、私もジャックの彼女になれたのは知っているだろうし、同郷の女子に気を付ける)
一致団結したようで、互いに誓い合ったようだが、いったい何を話していたのだろうか?
「こんなものかな」
持っていくものを鞄に詰め込み、だいたいの用意をジャックは終えた。
今回も去年同様馬車で行こうかと思っていたのだが・・・・ちょっと問題があった。
『・・・・金がない』
『『『はあっ!?』』』
ロイスのその一言により、今年も村に行こうとしていたジャック、ルナ、リン、カレンが呆れた声を出した。
ロイスの所持金が無くなっているらしく、馬車代がロイス分不足するのである。
どうやら、あの火山の噴火の際にどこかで財布を落としていたらしく、金欠状態になっていたようだ。
「でも、シラタマグッズの売り上げはロイスの懐にあるでしょ?」
シラタマグッズとは、ロイスに常日頃くっ付いているシラタマを模したグッズであり、成鳥とシラタマはなったが、その姿までもがグッズ化されていて大儲けしているはずである。
「いや、実はさ・・・・」
ロイスが言うには、シラタマは自分の子供の様であり、その子供のおかげで生活するのは親として何処か失格のように思えて手を付けていないらしい。
かと言って、貯め続けるのもどうかと思ったので、孤児院なども慈善事業関係にいきわたるようにしてもらい、今はそこから金を引き出しにくいんだとか。
「・・・・なんか、意外なところに金を出していたんだな」
「ロイスなのに、慈善事業を手助けしていたのね」
「そういえば、ボランティアなども活発になっているらしいですわ」
「意外過ぎる社会貢献」
「うっさいな!!俺だってたまにはそういうことをするよ!!」
「カァーッ!!」
皆の言葉に、ロイスが照れたように怒り、シラタマも同様に鳴く。
シラタマもすっかり成鳥と化して1メートルほどのサイズになったので、今ではロイスの頭の上にはとまっていないが、その横にきちんといるのは可愛らしい。
とはいえ・・・・金がないって・・・・
適正者は国からお金をもらっており、その収入から考えると余裕はあるのだが、合宿から3日もたっているのに気が付かないにもほどがある。
一応、それぞれから少しづつ金を出し合って解決はしたのだが、ロイスには皆の合意の元、学園長に学園から戻ったら1週間は訓練を受けてもらおうと決めるのであった。
・・・まあ、考えるとおそろしい利息分となるが、この際根性と性格をたたき直してもらうつもりである(学園長に頼んだら気軽にしてくれると言ってくれました)。
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「ふむ、やはり記録にはほとんどないわね」
アンド学園長は合宿の後から、しばし調べ物をしていた。
調べているのは、合宿の時に出た少女の姿をしたモンスターの事である。
見逃されて、現在行方不明なのだが、あのモンスターのような前例がないか気になって学園長は調べていた。
翼や角の特徴からすると、近いモンスターとして『火炎龍』というモノが当てはまりそうだが、外見が怖ろしく違い過ぎる。
しかも、火炎龍は凶暴性も高く、あたり一面を火の海にすることができるほどのモンスターのようだが、あの少女は凶暴そうではないし、むしろおびえているように見られた。
なんとなく、適正者でありなおかつ強力な武器である聖剣・魔剣を所持しているジャックに対しておびえていたようだが、おそらく本能的なところでその恐怖を感じ取ったのだと考えることができた。
だが、そもそも人型のモンスターの例はいくつもあるのだが、あそこまで人間に近い見た目というのは聞いたことがない。
魔族でもあるのかと思いきや、魔族を感知できるクロは「魔族ではない」と断言していたし、人間の可能性は、人間を感知できるシロが同じく「人間ではない」と断言していた。
では、あの存在はいったい何なのか?
モンスターの感じはすれども、知性はしっかりしているようだし・・・・・
「シラタマの様なものかしらね・・・・?」
ここで思いつくのが、ロイスに懐いているシラタマの例である。
シラタマは元々「ヤタガラス」というモンスターの様で、そのヤタガラスとはまた違った特徴として全身が白く、回復魔法や防御魔法にとっても優れているのだ。
いわゆるその種族の「上位種」でもあるようで、もし普通にモンスターの群れに居たら、恐ろしい脅威となりえたのであろう。
偶然ロイスを親と認識し、今は危険性がないような感じだが、今回のモンスターの少女も同じような例であるかもしれないと学園長は思えた。
「『火炎龍』の上位種・・・・・いえ、あの見た目からすると『変異種』と言えばいいのかしら?」
とにもかくにも、今は行方知れずであり、詳しく調べたいとは思ったのだが、今の居場所は見当がつかないのであった。
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そのモンスターは飛んでいた。
見逃してもらったが、自分はこのままでは生き延びれないだろうと思い、ならばどうすればいいのかと考えた結果・・・・
「・・・・・!!」
上空からほのかに風に漂ってくる匂いを根性でたどり、その目的の人物の居場所を感じ取って向かうのであった・・・・・。
さて、今年のジャックたちの帰郷は騒動が起こりそうです。
ルナの故郷でもある帝国でも一波乱ありそうで・・・・・
主人公、この夏生き残れるかな・・・・・・というか、こういう小説の主人公ってよく色々と巻き込まれたり、向こうから面倒ごとなどがやってくるよね。
メンタル物凄いような気がする。




