160話
明らかにとんでもないコンビできるかも
・・・誰しもが一体何が起きたのかはわからなかったであろう。
一瞬にして突風があたりに吹き、何かが通過したのを感じられた人は相当視力がよかったなどと考えられるだろう。
彼らは今、風のように走っていた。
「シロ!!こっちの方向で良いのか!!」
「はい、そのはずです。ルナさん探知は以前にもしていますし」
「その剣がルナの居所を分かるってほんとだよね!!」
「そのはずです!!」
ジャックとミヤゲは明らかに常人以上のスピードで駆け抜けていた。
カレンとデート中、嫌な予感がした後ミヤゲと遭遇。
事情を聴き、その服屋にいったん行ってみると試着室の一つに何か仕掛けを発見し、そこにはいると空洞になっており、シロとクロの見立てでは何かガスが充満していた形跡があるらしい。
そして、そこから階段を見つけて出た場所は空き家の中。
明らかに怪しい仕掛けだったが、その先を追跡するには無理があった。
だが、ここでジャックは聖剣の機能に人を探知することがあったのを思い出し、シロにルナの反応場所を索敵してもらい、その場所めがけて駆けだしていた。
ミヤゲも付いてきたのだが、適正者ではないのに物凄く速く走っている。
「妹のためならばあたしはドラゴンでも素手で殴り倒して見せるほどよ!!」
なお、実際にその経験はないそうな。ありそうな気迫だったけど・・・・
とにもかくにも、互いにルナを想う心は一致したのでルナの居場所めがけて疾風のごとく駆け抜けるのであった・・・・
ちなみに、カレンはその試着室の仕掛けを見つけてから学園長に連絡しに行った。
(もしもルナのみに何か危険な目があったら・・・)
(もしもかわゆい私の妹にないかあったら・・・・)
((その犯人、ただじゃすまさん!!))
彼氏と姉、立場は違えどルナを想う気持ちは同じ。
そのまま加速を続けるのであった・・・・・・。
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(・・・どうやらついたようですわね)
目隠しをされている状態のルナだったが、馬車の揺れ具合からどうやら目的地に着いたような感覚があった。
そのまま自分が入った箱ごと運びだされる。
そのままどこかの部屋の中に運び込まれたようで、箱の中から状況を推測していく。
武器もなく、手錠で手足を拘束された今のルナに出来るのは状況分析のみ。
だが、これだけでも確実にしなければと思った。
ぎぃっ・・・・・
と、箱のふたが開けられた気配がした。
目隠しをされていても、そのわずかな光量の変化は確認できる。
おそらくだが、部屋に窓は小さくある感じで、そこまで明るくはないようだが地下室と仮想いった場所ではない感じだ。
「・・・ほぅ。やはりルナ=ギアス第3皇女様でしたか」
「・・・・」
突然耳に入ってきた声。
皇女として、他の貴族ともそれなりに話してきたルナは今の声で誰なのか分析する。
口を防いでいた布と、目隠しが外されて、その人物の姿をはっきりと見ることができた。
「お久しぶりですな・・・第3皇女様」
「あなたは・・・確かディモールト=ヴェイン伯爵ですわね」
「ふむ、わたしの事を覚えてもらっていたとは光栄ですな」
意外とでもいうかのようなそぶりを見せたのは、目の前にいる男性であった。
やや小太りだが、手足の筋肉はほどほどについており、一応それなりには鍛えてあるらしいからだ。
年齢的にはそろそろ50代で頭頂部が寂しくなってきているその見た目。
ルナの記憶に間違いがなければこの男は・・・・・
「去年のお父様・・・・皇帝陛下殺害未遂の裏で検挙されて貴族籍剥奪を受けた一人でしたわね」
去年の夏、ジャックが帝国に来て表彰式を受ける際にあったレント皇帝殺害未遂のクーデターともいえる事件。
その裏で動いていた貴族たちを皇帝は全て捕らえ上げ、貴族籍を剥奪したりなどの処分を下した。
そして、目の前にいるディモールト伯爵もその中の一人で、貴族籍を剥奪されているので正確には伯爵と呼べなかった。
「あの貴族籍剥奪には参ったよ。こちらの権利もすべてなくなり、着の身着のまま帝国からここまで逃亡してきたからねぇ」
「逃亡・・・逃げた貴族ですか」
もちろん、おとなしく処分を受けなかった貴族もいた。
そして、国外へ逃亡・亡命した貴族もいたのだ。
「あれからわたしは苦労したよ。持っていた者をすべて売り払って金を作り、親しくしていた商人の下へ行き商売を手伝い、こうして何とか生活をしているのだからねぇ」
「・・・でしたら、なぜこのようなことを?」
まじめに働いているのならまだいいのだが・・・・この感じからすると・・・。
「さすがにねぇ、貴族の時の生活習慣って抜けないんだよねぇ。特に、女遊びなんかはねぇ」
にやりと笑みを浮かべたディモールトに、ルナは寒気を覚えた。
「あの試着室の仕掛け、うちの商会で設置したもので知っているのはわたしとその商人の幹部たちの一部だけなんだよねぇ」
ぐふふと自慢するかのようにディモールトは話した。
あの試着室の仕掛けは、彼が女遊びをするために持ちかけたものらしい。
ターゲットはその時の気分によって変え、出来るだけ独身とかそう言った女性をあらかじめ調べ上げて、来店してどうしようかと判断したのちに、作動させ、今のルナのように拘束するらしい。
そして、今ここは何処かはルナには予測はできないが、おそらくは首都からある程度離れた屋敷である。
ここにその捕らえた女性たちを連れ込み・・・・・あとは考えなくても大体わかった。
その行為がばれていないのは、不定期かつあらかじめ計画的にされた犯行だからである。
「だけどぉ、わたしが一番に狙っていたのは第3皇女様なんだよねぇ」
色欲にまみれた目で見られて、ルナにかつてないほどの悪寒が走った。
「まさか・・・」
「そう、最初からの目標だったんだよねぇ」
あの服屋はルナもよく利用していた。
なので、いつでもあの試着室の仕掛けを作動させることはできたはずである。
だが、ディモールトは用心した。
ルナは適正者、常人とは違うため、その仕掛けも普通の物ではだめな可能性がある。
なので、改良に改良を重ねて、今日この日その仕掛けを作動させてルナを連れ込んだのだ。
「・・・そういえばさ、体が熱くなってないかい?」
「!?」
気が付くと、ルナは体のほてりを覚えていた。
どうやらこの部屋には先ほどから・・・・過去にジャックと旅した際に受けたピンクの靄の薬のようなものがものすごく薄くして漂わせていたようだ。
「一応念のために、ジャックとかいう聖剣・魔剣所持者対策にこの部屋は全部特殊合金製で出来ているんだよねぇ。聖剣・魔剣でもさすがにそう簡単にはこの部屋を破壊できないはずさ」
どうやらすでに対策もされているようだ。
「それにぃ、いざとなったらわたし自身がまともにぶつかり合っても倒せるような秘密の薬をある所から横流ししてもらっているんだよねぇ」
(秘密の薬・・?適正者であるジャックとまともにぶつかり合っても・・・・おかしいような感じですわね)
その言葉に疑問を覚えたが、今の状況を分析する限り・・・・
「わたくしを・・・・・日の目につかないような体にするつもりですの?」
「そのとおりさぁ・・・・さあ、覚悟するんだねぇ」
服に手を伸ばされる。
(・・・・・ジャック)
自分がどうなるかを悟り、ルナがものすごく強く祈った瞬間であった。
どっごぉぉぉぉぉん!
「なんだぁ!?」
「!?」
いきなりものすごい爆発音が外から聞こえてきた。
「まさかぁジャックとかいうやつか!!だがぁ、この部屋は特殊合金でできているから壊せないは、」
ずばぁぁぁあぁん!!
「はず・・・だけどぉ!?」
ディモールトが言い切る前に、いきなり頭上を白色と黒色に輝く線が走り、天井が吹っ飛んだ。
そのあまりにもあっけなく吹き飛んだ天井に、ディモールトは驚愕のあまり目を見開く。
ルナはその技を見たことがある。
ジャックが過去にクラーケンとの戦いで使用した・・・・その技を。
大空が見えるようになった部屋に、その壁が切れたところから二人の影が入ってきた。
一人はミヤゲ。手にはどこからか持ってきた爆弾のようなものを持っていた。
「ルナ・・・・見つけたわよ」
どこかほっとしたかのような顔をして、すぐに今の状況を理解して険しい顔つきになる。
そして・・・・
「なるほど、何かしらの怪しい薬の成分を感知か・・・しかも、あのピンクの靄の時と同じのか」
シロとクロの解析を聞き、状況を理解したであろうルナにとって愛しい人。
ジャックはその状況から判断したのか、物凄い怒気を吹き出していた。
魔力もあふれだしているのか、周囲に風が起こり、手に持っている聖剣と魔剣の輝きが今までに見たことがないほど光り輝いていた。
「何をされようとしていたのかは理解できた・・・・てめぇ・・・覚悟はできているんだろうなぁっ!!」
今までに聞いたことがないほど強い怒りを含んだ言葉。
その気迫と怒気にディモールトは恐れた。
だが・・・・彼にはこの事態は念のために予測していたため、その対処方法をすぐ実行しようとしていたのであった・・・・
書いていて気が付いた。
主人公、初めての超激怒状態。聖剣と魔剣最初からフルパワー。
この怒りに燃える主人公とそのルナの姉ミヤゲに対し、ディモールトはどうするのか・・・・




