158話
こういうシスコンな人って現実にもいるのかな?
「・・・・いつまでいるんですかね?ミヤゲ姉様?」
「うん?あたしはまだまだ妹と居たいんだけどなー」
「それを言ってもう1週間経っているのですわ・・・・」
きゃははと笑うミヤゲに対し、ルナは思いっきりはぁっと溜息をついた。
ミヤゲが学園のルナの部屋に無理やり同室して1週間。
全くミヤゲはルナから離れる様子もなく、もはや学園の居候と化していた。
「かわゆい妹のそばにこうしているのが至福なんだよねぇ、くんかくんかくんかすうはぁすうは!!」
「いい加減にしてくださいですわ!!」
言い訳をしながら抱き着いて来る姉にルナは怒って拳を振るったがかわされた。
初日は鼻血過多による貧血でぶっ倒れておとなしくなっていたはずなのだが、なぜか翌日完全回復していた。
「これも妹成分のおかげよ!!姉の心と体に至福を与え!!その成分がしみわたって血液が増産されたのよ!!」
「そんなバカな話はないですわ!!」
「・・・・というわけでして、100発目の拳でようやく命中して何とか気絶させたのですわ。念のために布団で簀巻きにしたのですが・・・」
「・・・・苦労しているね」
物凄く疲れた顔で寮の食堂に朝食を取りに来たルナに、その食堂で朝食をとっていた全員がものすごく同情した。
「ふと思ったんだけどさジャック」
「なんだロイス?」
「いや、お前さルナと結婚したとしたらあれが義姉になるんじゃないか?」
「そういえばそうなるね・・・・」
ロイスの珍しくまともな指摘にジャックも頭を抱えた。
ジャックはルナが好きだが、ミヤゲにどうも苦手意識を持ったのである。
「ここ1週間、ルナと過ごそうとするときに必ず物陰からものすごい視線を感じるし・・・・」
「私たちの方もあった」
「あー・・・ジャックの彼女としては拙者たちもあるからぜよな。その彼氏の彼女の関係をしっかり記録している感じぜよ」
「可愛い妹の彼氏の交際関係を調べたい姉の気持ちが原因・・・・ですのん?」
「「「「いや、それわかりきっているから」」」」
とにもかくにも、ここ1週間ほどミヤゲがうろつくのである。
当初は2,3日ほどここにとどまる予定だったらしいが・・・・・「ルナから離れられないのよ!!」と叫んでいまだに滞在しているのだ。
「見た目はいい人なんだけどなぁ。少なくとも|師匠よりも若く見えるし」
「そりゃまだ18歳だからでしょ」
ロイスのつぶやきに、リンがツッコミを入れる。そういえば、ロイスの師匠って現在行方不明となっているんだっけ。
すっかり忘れ去られているなその人・・・・・。
「かといって、ミヤゲさんを力づくでここから追い出すのも無理そうなんだよな」
適正者ではないはずなのに、物凄く強いミヤゲ。
ジャックとの勝負では木刀破損により引き分けとなってはいるが、それでもその実力は並ではなかった。
(・・・・これって遺伝かな?)
なんとなく、去年皇帝と出会った時のことをジャックは思い出す。
強さも見ているのだが、その戦い方といい、どことなくレント皇帝に似た部分があるのだ。
「適正者でもないのに適正者並・・・・・なんかシスコンていう部分も当てはまる人物がいましたね・・」
「案外、子孫かもしれぬな」
と、いつの間にか剣の姿から人の姿になって隣の席に座っていたシロとクロが会話にはいってきた。
「子孫?」
「ええ、昔勇者様の仲間に似たようなシスコンを超えたネオシスコンと呼ばれた姉妹がいたんですよね」
「魔王様の立場から見ても、あれは異常じゃったが・・・・・ナントナクに多様なレベルじゃよ」
「そういえば、そんなこと言っていたけ?その人たちって何て名前だったかな?」
「ゼノ姉妹と聞いたのぅ」
「フルネームはバルン=ゼノとダイン=ゼノでしたかね?バルンが姉で、ダインが妹です」
「勇者と魔王の話に出てくる伝説の姉妹か・・・」
いわく、姉妹そろってとんでもなく強く、当時勇者側で魔王の仲間相手に善戦したらしい。
「でも、あれは二人とも相思相愛じゃったな」
「ええ、あれは正直引くレベルでしたよ・・・・。互いにナンパしてきた人たちを半殺しにしたりしましたし、勇者様とはいえ軽く触れただけでも速攻で回し蹴りをしてきましたからね・・」
どことなくめんどくさそうな人物を話すような感じである。
「一応子孫ではないですわね。というか、その二人は勇者と魔王の死後、結局夫をとることなく同時に死んだとも伝わっているのですわ」
「案外、転生に近いものだったりして」
そういう話はある。だが・・・・
「転生現象が確認されているのは適正者だけだったはずだ。そもそも生まれ変わっても正確とか容姿まで一致しないしな」
「まあ、ジャックが言うと説得力があるかな」
「そういえば、一応勇者と魔王の生まれ変わりと同様でしたね」
「・・・・正直、自分でも忘れかけていたんだけど」
転生現象・・・・適正者の中には、昔の適正者が使っていた武器と同様の武器が顕現するものがおり、そのことからその武器を使っていた人の生まれ変わりだと言われているのだ。
身近な例で言うならばジャックがそれにあてはまる。
聖剣はかつて勇者が使っていた武器であり、魔剣はかつて魔王が使っていた武器。
この二剣は勇者と魔王の死後長い事顕現しなかったのだが、ジャックが顕現させたことによってジャックがどうもその二人ともの生まれ変わりみたいなことを言われているのである。
それに、現在ジャックは当時の勇者と魔王が使っていた剣技を少々扱え、魔力の質もその二人と同じだと聖剣・魔剣の両剣から太鼓判が押されているのだ。
「だいたい、ミヤゲさんは適正者ではなかっただろう?」
「学園長が念のために水晶を触らせてみたところ、何も変化なしだったよね」
水晶の反応も適正者の有無を見分けるものである。
「適正者でないのにあの強さか・・・・はっきり言ってとんでもない化け物だな」
「それってジャックが言えることかぁ?俺達から言わせてもらえばジャックの強さも最近物凄く化け物じみてきたような気がするんだが?」
そのロイスの言葉に、その食堂にいる一同が一斉にうんうんとうなずいた。
「え・・・・」
(化け物じみているって・・・・全員一致でうなずかれるとちょっとショックなんだけど)
その一同の様子に、ジャックは軽くショックを受けた。
まあ、自重する気はないけど。
とりあえず、今日は休日となっていたのでルナは首都内を歩くことにした。
ジャックの方は今日、カレンとのデートになっている。
そして、ルナのそばには・・・・
「はぁっ、妹のそばにいるのはほんとに至福だわ・・・」
「ミヤゲ姉様が何でついてきているんですかね・・・・・・?」
ミヤゲがぴったりとルナのそばについて歩いていた。
「ん?あたしは明日にはここから出ていくよ。さすがにずっと1か所にとどまれないしね」
「本当ですか!!」
ぱあっと顔を輝かせるルナ。周囲の通行人が見れば、その笑顔は物凄くきれいに見えたであろう。
シスコンのミヤゲがなぜ明日出ていくのかという理由は・・・・
「いくらルナが好き好き好きで、なんかこうずっと同じ場所にいるのがむずがゆくなるのよ」
どうやら放浪癖のような部分があるらしい。
いくら妹が好きなシスコンでも、ずっと同じ場所に滞在し続けるのは体の感覚的に無理があったようだ。
それを聞くと、ちょっと寂しいかなとルナは思ったが、まあこの1週間付きまとわれて煩わしいと思えたぶん、開放感があってうれしく思えた。
「そうですか、それは残念ですわね!!」
残念そうな声ではなく、うれしそうな声で言うルナ。
「でしたら、せっかくですし服屋に行って旅路の服を見繕いましょうかミヤゲ姉様!!」
「ほんとに!?良いのルナ!!」
まあ、姉だし一応は最後くらいは親切にとルナは思い、ミヤゲと共に服屋に行ったのだが・・・・・・
「ねぇねえル・・・・・ナ?」
服屋の試着室からミヤゲがルナにこの服はどうかな?と聞こうとしたのだが、その時、ルナの姿はそこから消えていた・・・・・・・・
・・・・・事件は突然やってくる。




