156話
愛は地球を救う・・・とかそういうフレーズってあるよね
「なぜこうなった」
夕暮れが近づいてきてはいるがまだ明るい中、学園の校庭にてジャックは木刀を二刀流で構えながらそうつぶやいた。
「それはあたしの妹への愛の力ゆえよ!!それはだれにも止められないわ!!」
びしぃっ!!っと、木刀を構えて言い切るミヤゲさん。
結局、ごり押しされてこうして学園の校庭でその力を見るということになったので、こうしてこの場にいるけど、持っているのが聖剣・魔剣ではなく木刀なのでジャックは少々手に違和感を覚えた。
この木刀、実は最初のころに学園長との訓練で、聖剣・魔剣と全く同じ重さのやつにされてはいたのだが・・・・違和感がやはりある。
そもそも、学園の校庭には特殊な仕掛けが施されており、死なない限り(例外もあり)は無傷になるはずだが、なぜジャックが木刀を持たされているかというと、ミヤゲの発言が原因である。
「聖剣・魔剣は物凄い力と帝国で聞くわ!!あなたの強さが武器に頼り切っているだけのものなら!!あたしが今すぐにでも愛しの妹をあなたから奪い返してそのまま持ち去るからね!!」
・・・・その行為はもう犯罪だという事にはツッコミを入れないとして、「武器に頼り切って」という部分が心に来た。
ジャック自身、最近聖剣・魔剣の力をコントロールしてきてはいるのだが、頼り切りなような気もしないわけではなかったのである。
其のため、今回木刀で真剣勝負ということにしたのであった。
とは言えども、ミヤゲさんは皇帝のごとく強いらしいがそれでも適正者ではない。
身体能力に差があるため、その辺も考慮してある程度は近い実力で挑むつもりである。
が、なーんとなくジャックの勘は警鐘を鳴らしていた。
(どう考えてもやばそうな気もするけど・・・・まあいいか)
全力で対応することも考えて、互いに構える。
ちなみに、当初の案は殴り合い。木刀にまで持ち込んだ学園長の話術に感謝したいが、それならこの戦いを止めさせられなかったのが悔やまれる。
「それでは、両者とも準備はいいわね?」
審判は学園長が務める。
「ルールは単純明快に、どちらかの武器が破壊、もしくは気絶、降参で勝敗が決定。ジャックが勝てば、ミヤゲさんはおとなしくここから去り、ミヤゲさんが勝つ、もしくは引き分けに持ち込めばルナと同室を許可するわ」
まあ、そもそも帝国の皇女が友好国とはいえ他国の適正者の育成機関に来ること自体がまずいんだけど。機密とかそういう関係で。
ルナの場合、一応留学生扱いだから大丈夫なことになっているのである。
このルール、ジャックの方が不利な気がするが適正者とそうでない人の戦いと考えれば公平なような気もする。
「それでは、試合開始!」
学園長が開始の合図をかけた瞬間であった。
「せぇぇんてぇぇぇえひっしょぉぉぉう!!」
「!?」
物凄いスピードでミヤゲがいっきにジャックに迫って木刀を振るった。
(速い!?)
その速度にジャックは驚きつつも、受け止めきった。
がぁぁぁぁん!!
木刀全体が痺れ、明らかにとんでもない力で殴ってきているのは間違いない。
というか・・・・
(適正者でもないのに適正者並なんだけど!!)
明らかにミヤゲの身体能力は今年度の新入生適正者なんかよりも上である。
そのことに気が付いた学園長と周囲の観客も驚く。
なお、観客はルナといつの間にかいたヨナ、ミツ、カレン、リン、ぼっこぼこになって気絶しているロイスである。なにがあったんだよ一体。後その他学園で面白そうなものが見れると思って寮から出てきた学生適正者たち。
「ふっふっふっふっふっふ!!妹を想う気持ちはどんなものよりも強いってことを証明してやるのよ!!」
「それだけの想いでそれだけの力を出しているのかよ・・・・」
思うだけで適正者の身体能力に匹敵するとはどういうことだ。
そうその場にいた全員は心のツッコミを入れた。
「ジャック!!ルナの事を想う気持ちは姉である私の方が上なのよ!!」
「・・・へぇ、だったらこっちも本気で行くよ!!」
すこしカチンとジャックはきたので、この際本気を出すことにした。
いつもの聖剣・魔剣ではなく木刀での戦いなので勝手が少々違うが、それでも戦える。
『さーっ!!いまのミヤゲさんの言葉にむかついたのかマスターがどうやら本気を出して相手をするようです!!』
『何気にそういうところの欲はあるんじゃのぅ』
横からシロとクロの解説が入る。
今回、彼女たちは試合の実況役を務めているのであった。
其の実況を聞き、ルナが恥ずかしそうに頬を赤らめたが・・・・。
「でぇいや!!」
「せいっ!!」
がきぃぃん!
がぁぁん!!
『両者、激しい木刀での打ち合いです!!』
『マスターのあの剣戟を受けきったり、カウンターを狙ったりしておるとは・・・適正者でもないのに、物凄い奴じゃのうミヤゲよやらは』
『ミヤゲさん曰く、「妹を想う力は星をも砕く」そうですが・・・そういった無茶苦茶なことをやれる人っていましたっけ?』
『うーん、似たような例で言うなれば、大昔、勇者側にそんなことを言いながら突撃してきたやつがおったような』
『あー・・・あのウルトラシスコンと勇者様の仲間内でも言われていたあの人ですか』
無いやら大昔の話にはいってきているようだけど、ミヤゲの相手はジャックにとって大変であった。
そもそも、気迫負けしているような感じで、実力としてはジャックの方が上だが、若干おされそうになっていた。
それでも負けていないのは、ジャック自身の強さもある。
(くっ・・・・まさかここまで強くなるとは)
(愛する心はこの世を制するんですよ!)
互いにそのようなことを考えながらも、木刀での打ち合いは続いていたのだが・・・
「はぁぁっ!!」
「せいぃぃ!!」
がっつばきぃっつ!!
「「あ」」
どちらも力が強すぎて、木刀が折れてしまった。
さすがに、適正者であるジャックの本気と、自称「妹パワー」で強化されていたミヤゲの打ち合いに木刀の耐久限界が来たようであった。
そして、この勝敗ルールには「どちらかの武器を破壊」というモノがある。
で、この場合両者とも同時に壊れたので・・・・・
「・・・・引き分けね」
「はぁぁぁっ!?」
「いよしゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
その学園長の審判により、ジャックはルナをこのシスコンから守り切れなかったことに膝を崩して落ち込み、ミヤゲは同室ということが決定したので歓喜の声を上げたのであった・・・・・・。
(・・・って、私がそう簡単にさせるわけがないでしょう)
心の中で、学園長はこっそりそうつぶやいていたが・・・・
まさかの結末だが、学園長も何やら企んでいる御様子。
そもそも、学園長がそうやすやすと譲歩する人ですかね?
明らかにろくでもないことを企んでいそうですよこの人。




