111話
やや長め
ジャックたちは、ラドムスコ男爵らを救ったお礼に彼らが治めている町の宿泊所へ泊まれることができた。
宿泊するのは、『ゴルスラの宿』。この町にある宿泊施設の中でもかなりの人気があるのである。
「ここにはかなりの宿泊所などがあるけど」
「ほとんどが満室でしたから、こうして泊まれるってのは良いのですけれども」
そう、ラドムスコ男爵らのお礼によって、泊まる部屋は確保できた。
「全員同室なのよね・・・」
そう、確保できたのは一部屋だけ。
大方、ジャックたちがまとまって動いているところを見て何か勘違いでもしたのではないだろうかと疑いたい。
いつもなら、ジャックたちはそれぞれ別室か、男女に分かれる。
野宿の際にも、ジャックだけ離れて寝ている。
だが・・・・・この状態はなんというか、廃村での一夜以来というべきか。
他の宿屋なども満室で、今更探せない。
かと言って、ジャックだけが出ていくのも・・
「もうそろそろ対魔勇団にかぎつけられる可能性があるぜよからな」
「まとまっていたほうが安全ですのん」
そう、その心配があるのだ。
日数的にも考えて、もうそろそろまた襲撃してきてもおかしくはない。
以前、学園祭の時に対魔勇団からの暗殺者としてきたペドラ。あの人物は適正者であった。
普通の人間とかならまだ対処しやすいが、適正者となると格段に難しくなる。
それに、今は休学中扱いの学生の身分であるジャックたちに対し、相手側の方が格段に戦闘経験が多い。
状況的には、複数で対処できる方が好ましいので離れにくいのであった。
まあ、女子数名はそのことよりもこの一緒にできる機会をできるだけ活かしたいと思っているのだが。
「とりあえず、風呂に入るか・・・」
「この宿泊所の風呂はちゃんと分かれているのですわよね」
「混浴もあるのじゃがのぅ」
クロが人の姿になってつぶやいたことは、全員無視した。気になりはするけどね。
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「これが、今日のバイト代だ」
「ありがとうございます!!」
「あー!!(ありがとうございます!!)」
ラドムスコ男爵の屋敷で、真面目に仕事をしたので今日はここまででいいと言われた対魔勇団所属のバイトをしていた二人は、セスバから今日のバイト代をもらっていた。
「いやー、かなりてきぱきと素早く片付きまして、助かりましたよ」
「あはははは、このぐらいならできますから」
というか、適正者の身体能力はこういうところで役に立つ。
社会的なバランスはどうなのかと言われると、実はそこまで悪いわけでもない。
適正者はモンスターを倒すの本業、その出るまでの間にやる副業と仕事を分けてはいるのだが、やはり仕事の熟練者には及ばない点などがあるので、そこまで格差が出ることはないのだ。
「とりあえず、また明日も頼みますよ」
「はい」
屋敷から出て、二人は町の方にある宿泊施設へと向かう。
「・・・って、何処も満室か」
「いー(いっぱいだよね)」
だがまあ、こうなることを見越して先に予約を入れているので関係なかったが。
「予約を入れていたのは・・・ここだ『ゴルスラの宿』」
「おー(おー結構いいじゃん)」
予約料金の一部はバイト代から出し、残りを組織へと貢ぐために郵送した。
そのため、そこまでいい部屋に泊まれないが悪くもない部屋に泊まることになった。
「さて、汗もかいたし風呂に入るか」
「こー(混浴もあるけど)」
「いや・・・さすがに止めておくぞ。いい加減一人で入らないといけないぞ」
「むー(むーっ)」
頬を膨らます連れに、もう片方はかわいらしさを覚えたが、とりあえず分かれて風呂に入りに行くのであった。
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男湯
「風呂はやっぱりいいものだよな・・」
湯船につかりながら、ジャックは体の力を思いっきり抜いていた。
一応これでも、普段から気は張っているのでそれなりに浸かれており、こうして風呂に浸かるってのは唯一楽にできる状態であった。
この宿、今日は満室のようだけど今の時間帯には誰も入ってきていないようで、それなりに広い湯船を独り占めにできている。
泳ぎたくはなるけど・・・さすがにマナー違反だ。
なお、この風呂場は男湯、混浴、女湯と横につながっており、男湯からの覗きはできないようになっている。
男湯の方に誰もいない理由としては、隣接している混浴の方に行っている人が多いというのも原因であるのだが・・・。
まあ、出来るだけ今の全員との距離を保ちたいため、男湯の方にジャックは浸かっているのであった。
と、ふと気が付くといつの間にかもう一人湯に浸かっていた。
それなりにガタイがよく、体中に傷がある感じで歴戦の戦士風な感じである。
「あー、やはり風呂はいいものだ」
「・・・そっちもそう思いますか」
つぶやいたその男に、ついジャックは声に出していた。
「ああ、風呂というのは世界すべてでいいものだと思う」
「まあ、そこまで行きませんけど、ある程度ならどういですね」
そこで沈黙が流れる。
そこまで話は続かなかったが、風呂はいいものだと共感していた。
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女湯
「はぁっ・・・こうしてゆっくり浸かるのはいいですわよね」
「もうちょっと熱めなのが好みなのよね」
「でも、気持ちいい」
「ジポンの温泉をほうふつとさせるぜよ・・・」
「のん・・」
ルナたちは全員女湯の方で浸かっていた。
「目にシャンプーが―――!!」
「ほれ、シャワーじゃよ」
シロとクロは髪を洗ってから入るようである。元は剣なのに、髪を洗っている最中に目に入って悶えるとはこれいかに。
「というか、剣の姿で入ったほうが効率がいいと思うんだけど・・・」
リンが素朴な疑問を言う。
聖剣・魔剣の姿で湯に全身浸かれば、変わらないような気がするが・・・
「錆びるじゃろ」
「錆びますからね。この体の状態のほうが良いのですよ」
まあ、適正者の武器が錆びたりするってのはあまり聞かないし、聖剣・魔剣が錆びるというのはないと思うが・・・・そのあたりは武器としての思いがあるのであろう。
「それに、こうして人の姿をとって入ったほうがいいですからね」
「人とは感覚は違えど、こうして風呂に入るのは気持ちいいと思えるのじゃよ」
それが本音である。
「ほんと、シロとクロってどこか変わっているわよね」
「聖剣・魔剣だから違う感覚のところがある」
まあ、もう慣れたのであるが。
「ところで・・・・皆に聞きたいことがあるんじゃが良いかのぅ?」
と、髪を洗い終えて湯船につかってきた風呂が全員に向き合った。
少しニヤリとしている顔は、明らかに何かたくらんでいそうな感じである。
過去にクロは風呂場で悪戯した前科があるので、全員少し身構えた。
「のぅ・・・お主たちの中で、我がマスター・・・・ジャックに対する思いはどうなのじゃ?」
予想外というか、予想無いというか判別しにくい質問で、全員あっけにとられた。
(ジャック?)
この時、もう一人風呂場に入ってきていた少女が、この名前に反応して聞き耳を立てていた・・・・・。
風呂場でのクロの質問。なぜ、いきなり言い出したのか?
一同はどう答えるべきか悩む。
そんな中、その話に聞き耳を立てる者が・・・・
次回に続く!!
・・・なお、シロとクロは風呂上りに聖剣・魔剣の姿に戻って拭いてもらうことで髪を乾かす手間が省けるという利点持ち。




