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99回目の人生は異世界で  作者: 発狂シナモン
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気力

去年の今頃はなにをしていたでしょうか。


 さて、儂が二歳になるまで鏡も見ずになにをしておったか、というと。

 気を練っておった。

 文字通り、「気」じゃ。


 「気」または「気力」ともよんでおる。


 これこそが数多くの人生を剣の道に捧げ、儂を剣豪などと言わせしめた一因。


 誰しもが持っており、しかし誰しもがその存在に気がつかず生涯を閉じる。

 

 それが、「気力」じゃ。

 


 今まで気力を操ることのできた人間を、儂は10人も見たことがない。


 一人は戦国の世で景虎、と呼ばれておった。

 貪欲で、燃えるような気を纏う、惚れ惚れするような男じゃったわい。


 あれにかなう人間はそうそうおるまいて。

 

 気力を纏った者の前では、人間は紙切れに等しい。

 思えば、一度目の人生で儂は気力の一端を垣間見ていた。


 常人では気力を感じることも見ることもできぬ。

 しかし、気力は命の力、といっても過言ではない。

 


 気力を覚醒したてのものは、ただ殴るだけで岩を破壊し、鉄を砕く。


 しかし、それは言うてみれば気力に目覚めたばかりの赤子。

 気力を真に極めしものは、赤子などとるにたらん存在となる。


 逆を言えば、気力に覚醒するだけで常人の域を超える、ということじゃ。

 

 そのことを知っている儂は、立つことができるようになった一歳を区切りに、気の鍛錬を開始した。


 言わずもがな、これはめっちゃきつい。


 気は、肉体に依存するため、最初はストローでプリンを吸っているようなもんじゃ。

 

 要は、気の量も少なければ、気が通る道も狭い。

 儂が、一歳という年で気力を体に通せるのは、その感覚を知っておるからじゃ。


 なぜ一歳か、というと以前生後三日で気を通そうとしたことがあった。


 鼻と、耳から血がめっちゃでた。

 それはもうドバドバと。

 儂死ぬかと思った。



 つまり、ある程度体ができなければ、肉体の方が気に耐えることができんのじゃ。


 正直一歳というのは速すぎる。

 しかしそこは経験じゃて。

 なんとか死にはしないが、気を通すことができる。

 そのぎりぎりのラインが一歳であると、検証した結果じゃ。



 難しく言ったが用は筋肉と同じじゃ。


 限界を超えて使えば、気力の量が増え。

 繰り返し気を通すことで、道が広がる。

 細かい作業をすることで、コントロールが身につく。

 

 ほらの?筋肉とそっくりじゃ。





 そうして普段から体内で気を練り、一日の終わりには使い果たし、遊んどるように見えても、修行を欠かさない日々を送ったある日のこと。

 その時儂は二歳をちょっと過ぎた頃で走ることもできたので、屋敷の庭でミリィと母上と鬼ごっこをしておった。


 ミリィは本来メイドじゃが、母上の火の消し忘れを防いだ日から、母と仲良くなり、またミリィ自身儂と仲が良かったので、母のお付き、という形になった。

 イヴァンでいうセバスチャン的ポジションじゃな。



「メルティ、捕まったらメルティが鬼ですよ。」

 鬼であるミリィが息を切らしながら儂を追いかけてくる。


「うきゃーー!ままー!たすけてーー!」


 儂はきゃっきゃと笑いながら母上の足にひしっとしがみつく。

 ほっほ!楽しいの!

 

「ああ!メルティ!!なんてかわいいの!食べちゃいたい!」


 ギラリ、と目を光らせ今にもよだれが出そうな母上。


 あ、これあかんやつじゃ。


 儂はすぐさま母上から離れると、足に気を巡らせ走り出す。


 一年しか修行してないが、それでも並みの大人と同じくらいの速さは出るわい。


 ふぉっふぉっ!母上よ!儂とていつまでも食われる身じゃないんじゃよ!!


 果たしてこの儂に追いつけるかの!?


 年甲斐もなく本気を出す儂。

 しかしその儂についてくる母上。

 なんじゃ、ただのバケモノじゃの。

 

 いつの間にか鬼が二人になった鬼ごっこは唐突に終わりを告げた。



「おっとぉ!嬢ちゃん足が速いんだな!」


 ひょいっと持ち上げられ、足だけがバタバタと空を駆ける!

 はなせ!こちとら命がかかっとるんじゃ!!


「はっはっは!さすがランスロッド家のお子さんだ!噂にたがわぬ可愛らしい子じゃないか!」


 見れば身長は180㎝はあるであろう肉付きのいい男が箒と帽子を身に着け、立っていた。


 その姿はまるで。

 まるで魔法少女のコスプレをした中年の男に見えて。


 儂は泣き出した。


「う・・うえぇぇぇええええええええん!!」

 

 なんじゃろう。

 儂こんなことで泣く男ではないんじゃがの。

 なんか自然に泣き叫んでしまうんじゃが。

 これが本能ってやつかの。


「おいおい・・・怖がらせてしまったかい?まいったなぁ・・・。」


 そういいつつ儂を抱えたままの男。

 いいから早く下ろせ。


「う゛えぇぇええええん!ぇぇえ゛え゛えええん!!」


「ほ~ら、おにぃちゅぁんでよぉ~!べろべろ~・・・ばぁ!!」


 この世界に来て初めて殺意というのを覚えた。

 あまりの恐怖に儂は気力のこもった腕で全力で男の腕から逃れる。


「あら?ボブソンさんじゃありませんか。お勤めご苦労様です。」


 すっかり頭の冷えた母上が追いついてきた。見れば横に息の切れたミリィがいる。


「みーりぃぃい゛い゛い゛い゛!!!」

 儂は泣きながらミリィに駆け寄る。

 一刻もはやくこの悪夢を忘れたかった。


「よしよし、メルティ大丈夫ですよ、ボブソンさんです。」


 ミリィあいつめっちゃキモイ。

 あとすっごい唾ちった・・。

 おじいちゃん慰めてほしいんじゃ。


 儂を遠目に語りだすボブソンという男。

「ランスロット婦人、申し訳ありません、お嬢様を怖がらせてしまったようで・・・。」


「あら、大丈夫ですわ。メルティは家の者以外と会うのは初めてだったでしょうから・・ちょっと驚いただけですわ。それに、お嬢さん、ではなくて、お子さんですわね。」


「なんと!それは失礼いたした!これほど可愛く、しかも・・その・・白いワンピースを着ていらしたもので、てっきりお嬢様かと。」


 言われ、儂は思い出す。

 ああ、そういえば今日は女の子の日じゃったな。


「いえ、いいんですのよ。親のわがままで着せているものですから、勘違いなさるのも無理ありませんわ。」


「いえいえ、お気持ちはわかります。可愛い時期でしょうからな!」


「ええ、それはもう・・!」


「今日は怖がらせてしまったみたいなので、また今度仲良くなりに来ます!」


 もうこんでええ。


「はい、お待ちしていますわ。」


 その後、ボブソンと名乗る男は母とひとしきり話すと、カバンから何通かの手紙を取り出して母に渡す。

 どうやら、配達にきたらしい。


「メルティ君!驚かしてすまない!またくるよ!」

 

 もうこんでええ。


 男はそういうと、ミリィの陰に隠れる儂にウィンクして、


 箒にまたがり空へ飛んで行った。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ほ?


 何事もなかったようにミリィも母上も屋敷に戻ろうとする。


 え?ちょっとまってミリィたん。

 

 「ミリィ!?ミリィ!?」


 「はい、メルティ。どうしました?」

 いつもと変わらぬ声でわしに答えるミリィ。


 「そら!そら!飛んでる!!」

 

 そこで、「ああ」と、何かに納得したように笑顔をむけるミリィ。


 



 「あれは、魔法ですよ。」


 ふふん、とミリィは誇らしげに答えるのであった。




改めて、文字だけで伝えるということの難しさを感じます。

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