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99回目の人生は異世界で  作者: 発狂シナモン
5/28

1/99 ある男の一生 B

説明回です。


 旅の修行僧がその村を訪れたとき見たものは、凄惨そのものだった。


「・・・なんとむごい・・。」


 思わず言葉が漏れる。


 およそ300ほどの死体がそこにあった。


 ここに来る途中、すれ違った人々から話は聞いていた。



 鬼がでた、と。


 

 話の内容はこうだ。

 一週間ほど前、盗賊まがいのことを繰り返していた村が、近くにあったこの村を占領しようとしたらしい。

 ただ一つ誤算があったのは、鬼がいたことだ。


 一方の村が相手の村の戦力をほとんど殲滅しかけたころ、それは現れた。



 100の敵をものともせず、刃を用いて命を狩る。

 その鬼、刃が欠ければ拳を貫き。

 その鬼、腕を斬られど痛みを知らず。

 

 どうやら村にいた人間を皆殺しにしたらしい。


(恐ろしい・・・。)


 ここに来るまでに覚悟は決めていたが、いざ目にしてみるとそんなものあって無いに等しかった。


 かろうじて、戦から何とか逃げ延びることのできた村人がここに来る途中数人いた。

 村人は皆、ひどいものであった。


 恐怖に怯えるもの、親を失い泣き続けるもの、どこか遠くを見ている者。


 すれ違った人々は私が村に行く、と言うと顔を真っ青にして引き止めた。

 私はその制止を振り切ってやってきた。

 修行僧として、務めを果たすためである。



 数分ほどあっけにとられ、我にかえる。

 死者たちを弔わねばならん。

 そのために私は来たのだ。


 私は旅の荷物を置き、死体を火葬するため動き出した。


 300にも及ぶ死体をすべて墓に入れてやるのは大変な作業になるだろう。

 さらに、まだ鬼がいるかもしれない恐怖はあった。

 だがここにある死体をこのままにし、誰が墓をつくってやるのだろうか。

 私しかいないのだ。

 この者たちを弔ってやることのできる人間は私しかいない。




 二日ほどすると、気が付いたことがった。


 死体の傷のつき方に差があるのだ。


 灰色の布の服を着た女子供、中には鎧の内側に着ている男たち。

 おそらく、この村の者だろう。

 ここに来るまでにすれ違った人々も同じ服を着ていた。

 この者たちは傷が浅い。


 いや、もちろん致命傷なのだが、死体が人の形を保っている。

 見れば刀で切り殺されたのだとわかる。



 対して紺色の布を着た男たち。

 彼らは人の形を保てていない。


 肩から対の腰にかけてまで綺麗に分断されているのだ。



 私にはこれがあり得ないことだとわかる。


 いくら刀を用いて、生身の人間を斬り殺すことはできても、分断することはできない。

 人を斬る、という行為は想像以上の体力と技を必要とする。


 そう、生身の人間ですらありえないことだ。


 ましてや防具を着込んだ人間を鎧ごと切るなど、人の力では到底出来ぬことだ。



 が、目の前の死体は、鎧ごと分断されている。

 


 人の力ではありない。

 まさしく鬼でもなければこんなことはできないはずだ。

 ここにある200以上の死体。

 そのすべてを鬼がやったのだとしたら・・・。

 

 背中に嫌な汗を感じる・・。

 今すぐにでも村を逃げ出したかった。




 そうして、死者を火葬し続け、ようやく終わりが見えてきたかというころ。

 ひときわ死体が積み重なった上に、それはあった。


 年は20歳くらいだろうか。

 若く、しかし年齢の割にはよい体をしていた。

 周りの死者同様、血が抜け顔が青白くなっているが、整った顔立ちをしていた。

 男の死体だ。


 目を見張ったのはその男の衣が、血に染まり、赤黒く変色していたことだ。

 見ればとてつもない量の返り血を浴びていることがわかる。


 かろうじて腰の帯の、血の染まってない部分を見ると、男の布が元は、灰色だったのがわかる。


(この村の・・人間か・・?)


 異様としか言いようのない男の赤黒い服から目を反らし、気づく。


 右腕がない。


 見ると後方に、刀を握りしめたままの腕が落ちていた。

 刀は根元から折れている。


 そして左手は上に被さった死体の下に敷かれているのか、見えない。


 私はまず、男の左手に被さるように倒れている死体から燃やそうと思い、引きずるようにして運ぶ。

 やけに重い。


 いくら鎧をきているとはいえ、まるで人間二人をいっぺんに運んでいるような・・。

 そこまで考え、死体に目を下ろした。

 

 見てしまった。


 男の胸から腕が生えていたのだ。


「ひぃっっ!!」


 思わず飛びのくも、腰が抜け、思った以上に距離をとれない。


 私は、死体が動かないことを確認し、もう一度それをみる。



 生えているのではない。


 刺さっているのだ。

 腕が、鎧を貫き、胸骨をへし折り、その先にある、心臓へ。


 そして、その腕は。



 赤黒い服を着た、あの死体の左手だった。



 私は理解した。


 鬼は、こいつだと。


 分断された死体をつくり。

 200を超える人間を葬り。

 皆殺しにしたバケモノは。


 この人間なのだと。









 私はそこからさらに5日かけて、4つの墓を作った。


 できればひとりひとり墓をつくってやりたかったが、私一人では到底無理だ。



 ひとつは、村を襲った者たちだけを集めた墓。

 200を超える数だったので苦労した。

 人の形を成していないのと、紺色の服を着ていたので、区別しやすかった。



 ふたつは、この村に住んでいたであろう者たちを集めた墓。

 こちらも同様、灰色の服と、傷の具合をみて判断した。


 村を襲った敵と同じ墓に入れられたら、この村の人も浮かばれないだろう、という考えに至った。


 そして最後に、鬼と思われる青年の墓と、ある少女を入れた墓。



 これには訳がある。



 血に染まった服を着たあの青年が鬼だと気が付いて、恐怖のあまり、立てないでいた。

 死んでいるとわかっても、これをやったのがすべて一人の人間。

 そう考えると恐れずにいられなかった。

 

 もう墓を作るのはやめて逃げ出してしまおうか、と情けないことを考え始めたときだった。


 私の所へ、一匹の黒猫が現れた。


 驚くことに、黒猫は、青年の千切れた右腕をくわえて駆け出したのだ。

ぎょっとした私はふらつきながらも、猫を追いかける。


「こ、これ!ホトケになんてことをする!!」


 言いながら、追いかけたが本心は別にあった。


(鬼の腕を猫の餌になんかしてしまったら・・・!罰当たりどころか、殺されてしまう!)


 そう考える私をしり目に、猫はかけていく。

 途中何度か立ち止まり、私を待つようなしぐさを見せた。


 私は遊ばれているように感じ、憤りを覚えるも、必死に走り、猫が小屋に入っていくのをみて自分も後に続く。


 そこには、一人の少女と、首のない死体があった。


 少女はこの村の人間だ。

 服を見ればわかる。

 わかっていたことだが、死んでいる。


 対する首のない死体は、村を襲った側だろう。

 紺の服が見える。


 見ると、猫は鬼の手を少女のそばにそっと置き、動かない少女の手をぺろぺろと舐める。


 猫が鬼の手を置いたのを見て、そーっと取ろうと試みる。


 正直触れるのも怖かったが、このまま猫に食われる方が、やってはいけないことに感じたのだ。


 その様子を見て猫は牙をむきだして威嚇してくる。


「シャー!!」


「やめろ!ホトケを粗末にするんじゃねぇ!しかもこりぁ鬼の腕だ!食っていいもんじゃねぇ!」

 叫ぶ私に、猫は爪を立ててまで抵抗してくる。





 仕方がないので、先に首のない死体から運ぶことにする。


 そちらに目を向ける。

 切り口を見ればわかる。

 これは鬼の仕業だ。


 背負うようにして運び、小屋の外に出て気づく。


(この小屋から鬼のいたところまで、妙に死体が少なくないか・・?)


 見れば小屋から鬼のいるところまで、500メートルほどだろうか、多少曲がってはいるが、死体のない道のようなものができている。

 

(来るときは、あの猫に必死で気づきもしなかった・・。)

 


 あたり一面死体だらけのこの村で、これはおかしなことだった。

 

 何かがわかりそうな気がする。


 おかしいと言えばこの死体。

 鬼にやられたのだろうが、鬼にやられた死体が屋内にあるのはこれが初めてだった。

 加えて、あの猫の態度と小屋の中の少女の死体。


 ひとつの考えがよぎる。

(あの鬼は・・・この小屋から出てきたのではないだろうか・・・)

(すると、あの少女は・・・)


 詳しいことはわからない。

 だが、そこまで考えて、私は今まで恐れていた鬼が、急に人間に思えた。







 その後、死体を運んでもう一度小屋に戻り、少女と、鬼の手を一緒に運んだ。


 黒猫はその時ずっとついてきていたが、最初のように、爪を立ててくることはなく、ただじっと私のすることを見ていた。


 鬼の墓は、山の奥の静かな場所に建てた。

 その後、鬼の墓のすぐそばに、少女の墓をつくった。

 気が付くと黒猫の姿は見えなくなっていた。





 これは後から気づいたことだが、灰色の布の服を着た人間。つまり、この村の人間は全て人の形のまま死んでいた。

 

 鬼は、いやあの青年は、皆殺しなんてことはしなかったのではないだろうか。

 鬼に殺されれば少なくとも腕の1、2本は千切れていただろう。


 村人のほとんどは攻めてきた敵に殺されたのではないだろうか。

 いや、そうに違いない。


 そして、あの青年が鬼になった原因はおそらく・・・。


 いや、よそう。

 私はできることをした。

 正しいかどうかはわからないが、不思議とこれでよかった、と思う自分がいる。

 


 あとは、彼らが安らかに眠れるよう、祈るだけだ。


 





 その後、ある地方ではある言い伝えができた。

 山を荒らすと鬼に食われるという言い伝え。

 

 


 なぜそんな言い伝えができたのか、今となっては知る人はいない。



おじいちゃんにはやくしゃべってほしいです。

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