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99回目の人生は異世界で  作者: 発狂シナモン
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1/99 ある男の一生

メリークリスマスです。


 ある男の話をしよう。



 とある村で、妹と兄である男は暮らしていた。


 兄は妹のことが大好きだった。

 妹も兄のことを好きなようだった。


 兄妹は親がいなかったので二人で支えあいながら生きていた。

 しんどかったのは子供のころで、村から残飯をもらって飢えをしのいでいたが、兄の体が大きくなり村の働き手として数えられるようになったころには、なんとか生活できるようになった。




 妹は16歳の時、猫を拾ってきた。

 黒猫だ。



 不気味なほど真っ黒な毛でありながら、野良猫とは思えない美しい毛のつや。

 それに男は一瞬違和感のようなものを感じるが、頭はすぐに別のことを考え始める。


 猫を飼う余裕があるか。


 男は当時20歳になり、妹を養うだけの稼ぎはあった。

 しかし、それで精一杯だった。


 男は動物を飼う余裕などないと思い、


「逃がしてやりなさい。」


 と言った。しかし妹はどうしても飼いたいという。

 普段わがままを言わない妹だけに、男は驚いた。



「あんちゃん・・おねがい・・。ちゃんと世話するから・・」


 妹はうるんだ瞳で男を見つめる。

 妹も無理を言っている自覚があるのだろう。

 そのうえでのお願いであった。


「好きにしなさい。」


 男は言った。それはもう笑顔で言った。


(かわいい妹の頼みだ。それぐらいできなくて何が兄か。貧しくなるというなら私がその分働けばいい。)


 そんな思いが見て取れる表情であった。

 男はそのあと、妹の輝く笑顔を見て実に満足げにうなずくのであった。




 妹は晩飯のあと、黒猫を可愛がるのが常になっていた。

 妹は黒猫のことをクロと呼んだ。


「よしよし、クロはかわいいねー。」


 にへらっと緩んだ顔で膝を抱えたままクロの首を搔いてやる妹。


 そんな妹を見てほほ笑む男。


 



 生活は苦しかったが、そこには温かいものがあった。







 しばらくして村の近くで戦が始まった。


 男は戦は嫌いなようであった。

 普段の男の生活を見るに、命を奪うことも、奪われることも、恐れているようであった。


 男の望みは、家で妹を守ることだった。

 しかし、戦に参加しなければ村八分にされてしまう。男は、自分はまだしも妹をそんな目にあわすわけにはいかない、と考えた。



 戦は圧倒的だった。

 男は村では体が大きく、普段から力仕事を生業にしていたのでそこそこ腕もたつ。

 加えて不思議なほど敵の数は少なく、村総出の男衆たちにかかればあっという間だった。

 残党は逃げていき、男たちも帰路についた。


 帰る途中、仲間に先に行くよう促し、男は1人川辺に寄った。

 深手は追っていないがところどころ傷はある。そこから血が流れていた。



 妹は血が苦手だ。

 というより野蛮なことが嫌いで戦に行くこと自体反対していた。


 以前男が鹿を狩ったときに、血抜きをしくじり服を赤に染めて帰ったときは、妹は泡を吹いて倒れてしまった。

 目が覚めると泣きながら、

 

「け、ケガじでなくてよがっだよぉ」


 と、わんわん泣くのだ。


 そんな妹の所に、今の姿で帰ると、傷が治るまで家に監禁されてしまう。


 そんなことを考えながら川で体を洗い、傷口に布を巻く。



 すると近くで、ガサッと音がした。


 男はすぐさま刀を持ち、音のする草むらへ切りかかった。


「ひっ・・・!」


 敵の残党がいた。

 肩に矢を受け、腕から血を流している。

 とても戦える状態ではない。

 怯えながらも、残党は叫ぶ。

 

「み・・見逃してくれ・・!頼む!!」


 男は、切り捨てようとした。

 


「か・・家族がいるんだ!し・・死にたくないぃ・・!!」


 一瞬ためらう。



「お願いします・・・!おらが死んだら・・あいつら・・身寄りがなくなっちまう・・お願いします・・!!お願いします・・!!」


 残党は、ぶるぶると震え、土下座しながら命を乞う。



「・・・・行け・・」

 男は刀を収め、つぶやくように言う。


「っ!・・」

 残党は顔を上げ、勢いよく駆け出す。


 男の顔は実に複雑であった。

 優しさと、信念に揺れる表情だった。


 男は1人、仲間の後を追うため歩き出す。






 自分がしたことの意味も知らずに。










 煙が上がっていた。



 村の方角だ。

 男は・・・まさか、と思った。

 嫌な予感がする。

 心臓の鼓動が妙に実感を持ってせまる。

 


 気が付けば男は走り出していた。

 戦の後で疲れた体にも関わらず、全力で。


(・・・まさか、まさか・・・!!頼む・・無事で・・!!)


 そんな願いをよそに、嫌な予感は当たった。




 村は敵に襲われていた。


 いたるところから上がる火の手。

 動かなくなった母親の傍で泣き続ける子供。

 さきほどの戦の倍はあるであろう敵の軍勢。


 男は瞬時に理解した。こちらが本隊だったと。

 なんてことはない、戦で戦力になる男衆をおびき寄せ、そのすきに村を主力が襲う。

 そういう策であった。


 男は駆けだす。

 止まらない。

 ただひたすら家に。


 男の家は燃えていなかった。


(よかった・・・!!)


 と思うもつかの間、敵の軍はすでに村のあちこちに伸びていた。


(はやく、妹を連れて逃げねば・・!)


 勢いよく扉をあけ、そこで見たのは。



 血だまりに沈む妹と、あの時見逃した残党が刀を振りかぶっているところであった。





 一瞬であった。

 男は刀が自分の手のように動くのを感じた。

 残党の首を切る。

 嫌にゆっくりと感じられ、驚くほど肉が柔らかい。



 刀が首を斬る一瞬。

 一瞬が永遠のように感じられる中、男は思う。



(なんで見逃した・・!)

(なんで・・ころした・・!)

(もっとはやくついてれば・・!)

(なんで・・・なんで・・・・!!)



 振り抜いた刀を鞘に納める時、すでに怒りはない。

 思うのは、妹のことだけ。



 男は妹に駆け寄る。


「っ・・!!あぁ・・・!」

 一目見てわかる。

 助からない。


 かろうじて息はしているが血を流しすぎている。

 そんな状態にもかかわらず、妹はどこかほっとして、兄に向ってしゃべろうとする。


「あん・・ちゃ・・・ごめ・・ん・・・ね・・?」

 目に涙を浮かべ、こちらを見つめながら一言一言、必死に言葉を出す。


(ああ、もうしゃべらないでくれ。血がとまらない。)

 という男の思いは、声にならない。


「あ゛ぁ・・!!すまない!・・すまない!頼む、頼む!死ぬな!死ぬな!死ぬな!死ぬな!死ぬな!死ぬな!」


 男は自分が何を言っているかもはやわからなかった。


 男の体をとてつもない感情が駆け巡る。


(あの時見逃さなければ・・!)

(もっと早く駆けつけていれば・・!)

(いや、村八分にされようと戦になぞ行かずに自分が妹を守っていれば・・!)



 手の中でどんどん冷たくなっていく妹。


 頬に触れようとする妹の手を、握る。


 強く、握る。

 

 どこにも行かないでくれと、願うように。


 妹は、すでに声はでない。

 だが、男にはわかった。


「いま・・・あ・・りがと・・・幸せ・・・にな・・・」


 口だけが、小さく動いた。


「まっ・・・」


 男の手を握る力が、なくなる。

 





 妹はそれきり動かなくなった。













 男は、気が付けばあおむけに倒れていた。

 空が見える。


 すでにあたりは暗くなり、燃やすものの無くなった火がパチパチと小さな音を立てている。

 村は襲われたというのに、ずいぶんと静かだった。


 ふと、傍に気配を感じる。

 なぜか体は動かないので、男は頭だけ横に向ける。



 あの黒猫がいた。

 


 もしかしたら妹はこの黒猫をかばって死んだのかもしれない。

 男はふと、そんなことを思う。

 

 妹はこの黒猫の面倒をよく見ていた。

 黒猫も妹になついていた。

 男にはあまり寄ってこなかったが、男が奇妙に思っていることが伝わっていたのかもしれない。

 雨の日外から帰ってきても汚れ一つない猫を訝しむ男を、妹は「考えすぎだよ」といっていたが、どうにも男にはこの猫がほかの猫と同じには思えなかった。

 だからといって男は猫を嫌いなわけではなかったが。


 男はそんなことを思い出し、黒猫が妹の残した形見のように思え、急に愛おしくなった。


 撫でてやろうとと右手を伸ばす。

 いや、手を伸ばしたつもりだった。


 男の腕はなかった。


 肘から先がばっさりとなくなっていた。


 ああ、これじゃ撫でられないじゃないか、と男が思っていると、黒猫の方からこちらに寄ってきた。

 

 珍しいこともあるもんだと思っていると、ぺろぺろと頬を舐めてくる。

 妹が最後触れた男の頬を。


 なんだ、かわいい奴じゃないか、と男は思う。


 猫は、

 

「にゃーん」


 と一鳴きする。


 その声を聴くと男はだんだん眠くなってきて。

 



 瞼を、閉じた。


文法とか、難しいので訂正いただけれ感謝です。

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