猫の小路カフェ ~社~
設定回ですよ
そもそもの初めは、一人の男が『神隠し』にあったことだった。
そこで、乞われるままに、魑魅魍魎を切り伏せ、魔を払い、遂には異界の神をも滅ぼしたその男は--自らをその異界へと喚んだ巫女たる娘を連れて、元の世界へと帰還した。
そんな経緯があった為にか、夫婦となった二人の子、孫、曾孫……血族たちには、因果が深く根付くに至った。
男は『喚ばれ』、女は『喚ぶ』のである。
既に人の枠を超えた域にある初代は、そんな子々孫々に『加護』--その万能のちからを用いての護り--を遺した。そして、初代の妻であった異界の巫女は、そんな夫を正しく祀り、神格として後世に遺したのである。自らの祭司としての技術と共に。
端的にぶっちゃけるならば、彼ら一族は、異世界トリップ体質一族となったのである。
そんな、世間様に助言を求める訳にもいかなる超常のトラブル体質だが、最大の理解者はすぐそばにいる。
そう。先駆者たる、既にトリップ体験をした親戚たちであった。
そしてそんな家族や親戚を呼び戻す方法もまた、一族が所持している。
その結果、彼ら一族は、現代社会に於いて珍しいほどに、『一族』というくくりと付き合いを、密にする集団となっていた。
初代の神殿がある本家に盆暮れ正月と、集まることも当たり前なのである。
その場で宴会芸として繰り広げられる光景は、文字通り『この世のものではない』のだが、彼ら一族には『当たり前』であったりもするのである。
そんな中、初の事態が起こった。
初代の長男の曾孫にあたる女性と、初代の次男の孫にあたる男性が夫婦となったのだ。親戚であるが、関係を尋ねられれば正直答えるのが面倒くさい。それほどの関係だ。
だが、この一族に於いては、少々別の問題を内包する。『喚ぶ』因果を持つ者と『喚ばれる』因果を持つ者が、共に歩もうというのである。
初の事態に、万が一を危惧した本家--初代の長女の家系の者が、代々女子によって継いでいる。それは『召喚術』を後世に伝える為であった--により、初代を祀る神殿を分社して、二人の守護としたのであった。
もしかしたら、それこそが最大の元凶なのかもしれなかった。
何故ならば、最初に異界に喚ばれた初代こそが、最大のトラブル体質と言っても良いのだから。
二人が新居を構え、そこに開いた小さなカフェは、数多の世界と繋がる--限りなく異界と近しい混沌とした場と化したのであった。
だから、庭の向こうにハリウッド映画も真っ青な、巨大な怪物が歩闊歩しても、ガチの3Dで見れたとしても、この店では誰も驚かなかったりする。
たまたま訪れていた店主の再従兄弟とその友人が、魔眼的な中二臭い必殺技を発動させたり、超常の能力を駆使して、その怪物とバトルしていたとしても、特に不思議ではなかったりするのである。
最近の高校生は、頑張るなぁ、位のものなのである。
野菜を配達に来る、お兄さんの頭に立派な角があっても。荷物の箱を運んでいるのが、どう見ても人間どころか、生き物かも定かではない容姿だとしても、慣れてしまえば何てことはないのだ。
ただ、『他のお客さんのご迷惑になるので、店内の撮影はご遠慮ください』というルールがあるだけなのだった。
ということで、基本的には『異世界トリップ一族』シリーズのくくりの位置付けであったりします。
過去作のキャラクターとかが、裏でちょこちょこしているという『遊び』を入れております。……とはいえ本筋とはあんまり関わって参りません。ゆるーくお付き合い頂ければ幸いと存じます。




