05 王女と童貞と王女
05 王女と童貞と王女
短いが長く感じる時間が過ぎて、モルがお茶を運んできた。
多分、まだまだ世間的には高級品の紅茶だった。
ここは貧しい漁村だったが、代官の所は一応各国の使節が来るぐらいの格式だから、全体的に貧しい村々のなかにあっても贅沢品が置いてある。
輸入品でもだ。
無論、裕福なのだ。
だからこそ、難民が居着いている面もある。
但し、それはこの時代の裕福さであり、それは飢えないことである。
俺の知っている裕福さではない。
もっとも、俺は貧しい人間だったけれど……
例え、奴隷制度があっても、モテるとは限らないだろう?
(そのとおり!)
うるせえ。
とは言え、地位とか権力とか財産をもって『女性に関係を強要する』ことは、最低でもセクハラに該当する。
(じゃ、駄目じゃん)
でも、イケメンならセクハラにはならない。
この世は『但しイケメンに限る』の絶対的な法則があるからだ。
ア・プリオリでも、
弁証法的にも、
定言命法でも、
唯一絶対の真実である。
ジョン・ステュアート・ミルは言った。
『醜い豚よりもイケメンであるべきだ』
(言ってないからね)
イマヌエル・カントは言った。
『崇高なものは我々を感動させ、美しいものは我々を魅了する。
イケメンは崇高であり、美しい』
(違ってるからね)
平時忠は言った。(清盛の弟)
『イケメンにあらずんば人にあらず』
(そこまでは言ってないって!)
故事に曰く、
『氏よりイケメン』
(育ち、だからね)
つーことはだ。
少なくとも努力して手に入れた地位とか権力とか財産より、生まれつきイケメンの方が上だと言うことになる。
(やっぱり、駄目じゃん)
だけど、女性って、地位とか権力とか財産を持った男に惹かれるんじゃなかったっけ?
いや、違うな。
財産をイケメンに貢ぐために財産を欲するのだ。
ある意味で、富の再分配が女性によってなされるのである。
ある資産家の男が、美女3000人に貢いだのに、誰も結婚してくれなかった、とか言う悲劇が何処かにあったではないか。
(誤解・曲解の類いだと思うよ)
現代女性は自分で生きる分は自分で稼ぐことが可能だから、イケメンに貢ぐのでなければ、それほど財産は必要としない。
つまり、少子化、晩婚化、高齢化社会の原因は、イケメン不足にあるのだ。
失敗した。
世界を伯爵じゃなくてイケメンにしてもらうんだった。
美容整形とかして……
(美容整形ではなく、人体改造レベルなんじゃ?)
うるせえや!
泣くぞ!
「クズ兄様、いい加減に帰ってきてください」
「ああ、いや、申し訳ない。少しテンパってました」
でも、この時代に庶民や奴隷が何の準備も訓練もなしに、簡単に紅茶を淹れてこれるとは思えなかった。
しかも、一応だが全裸である。
(全裸は紅茶と関係ないけど、理解はできる)
緊張する、いや興奮する。
どっちだ?
いずれにせよ、挙動不審になりそうだ。
無知で唐変木でクズな俺だが、流石にモルがおかしいことはわかった。
(いや、全裸のことではない)
それに、炊事場で綺麗にしたのか、モルは先程までの妖艶な感じの外見ではなくなっていて、雰囲気が変わって見える。
清楚な感じである。
気品を感じると言うべきだろうか?
背筋を伸ばして堂々とした態度であり、しかも優雅でもあり、とても性奴隷とは思えない。
まあ、全身に毛が生えている獣人だから全裸だけど全裸だとは思わせない。
いや、全裸なのは良くわかるけど、丸出しで剥き出しの亜人たちとは違っている。
何だろう、下着姿くらいに緩和されていると言えばいいのだろうか?
水着かな?
それに、清楚になっても体型が凄い。
二十歳過ぎの女でないと獲得できないようなプロポーションをしている。
メリハリが凄いのだけど、ガッチリしている訳ではない。
何と言うのか、アメコミのヒロインみたいである。
コブラとかに出てきそうだった。
サイコガンよりも威力がありそうだ。
コブラより大ブラだろう。
Fカップよりでかいのだ。
(カップの見分け方なんてしらないけど)
ああ、お尻に触りたい。
(クズだな)
女の基本的な体型は15歳ぐらいで完成し、その後はあまり成長はしない。
だけど、16歳からは成熟していくのだ。
メリハリが付き、角が取れて、全体に丸みを帯びてくびれも強調され、充実してくる。
モルは既にそんな感じである。
痛々しさや卑屈さは元々感じられなかった。
それでも今のモルは先程までの妖艶さが、豪華さに変わっているのがわかる。
薄褐色の髪はなでつけて後ろで纏めてあり、ちょっとケバい感じの化粧はすべて落とされていた。
額はやや狭い感じだが、瞳が丸く大きくて、ちょっぴりと膨らんだ頬が幼げに可愛く見え、全体的には丸顔なのだが、それでも獣人らしく精悍さも備わっている。
獣人の持つ強さと怖さと可愛さが同居している不思議な魅力だった。
体毛は顔や首まで覆われているわけではない。
細めの丸首のウェットスーツをまとっているような感じである。
手先や足先にも体毛はない。
柔らかく明るい健康的な肌をしているのがよくわかる。
体毛も同じ薄褐色だけど、光が良く反射する分だけ陰影が濃くなり、艶めかしい。
特に背や肩などより柔らかいお腹などの部分は更に白っぽく、更に柔らかそうだった。
モルはテーブルに座る俺に、優雅に紅茶を置いた。
手先に体毛はないから、少女の手だったが、少し荒れた感じがあって、苦労してきたことが忍ばれる。
「折角だから、一緒に飲もうよ」
俺が何とかそう言うと、ユキナは隣に腰掛け、モルはユキナと自分の分を用意した。
陶器の壺が置かれ、ユキナは竹製のスプーンで中身を掬い、小振りの茶碗に入れてかき回した。
どうやら、蜂蜜のようだ。
乾杯ではなかったが、俺が先に一口飲むと、ユキナも飲み、モルは向かいの席に座ってから恐る恐る飲んで、小さく溜め息を漏らした。
「王女殿下かしら?」
ユキナは紅茶を見ながら呟くように言った。
確信が持てないというよりは、モルの反応を少し気にしてる気がした。
モルはユキナの言葉に驚いたようだ。
獣人だから凶暴な歯を剥き出したりするのかと思ったのだが、別にそんなことはなくて、ちょっと前歯が可愛く印象的なぐらいだった。
けれども、丸いお目々が更に見開かれている。
「ど、どうして?」
「所作というのかしら、使用人のまねをしてる感じだけど優雅さが隠しきれていないわ。紅茶だって常時飲めるのは南方の国だけど、やはり上流階級だけでしょう? それで栗鼠族となればミリ国人か、精々お隣の兄弟国アルサケス朝パルティアよね」
栗鼠族は猫族よりもずっと西方の民族だが、東方に流れてきて独自の国を作り上げたらしい。
元々はアレクサンドロス大王(アレキサンダーとかイスカンダルとも)の遠征後に部下たちが作った国々だと思う。
アレキサンダーって、ギタリストみたいだけど、誰だっけ?
「そこまで遠国だと、ただの貴族が来るとは思えないわ。交易商人なら『お嬢様』を連れてこないでしょうし、たまたま連れていたとしても、使用人まで離れたり、異国で難儀するようなことはあり得ないと思うの。残るはミリ王族の施設団だけ。モルが奴隷として売られていないなら、可能性は王女様しか残らないわ」
ユキナは良く勉強しているが、どうやって調べたのだろうか?
それにしても、どうして異国の王女が性奴隷をやっているのだろう?
獣人は奴隷だからだろうか?
「ユキナは少し準備をしてきます。その間、クズ兄様はモルの身の上話でも聞いてやってください」
「ええっ、ユキナも一緒に」
「モル、兄様に何もかも話しなさいね。仲良くするのよ」
それで、ユキナは出て行ってしまった。
獣人とは言え、知り合い未満の少女と二人きりにされて、俺はコミュ障をぶり返した。
体毛で覆われていてもおっぱいの形はわかるし、乳首らしきものも見えるのだ。
ノーブラのモフモフと言えば、感触は半端ではないだろう。
わぉぉん!
いや、そうではないな。
思い返せば、誰と会ってもユキナが交渉してくれて、俺は自分の考えをユキナに伝えてもらっているだけだった。
これじゃ、今後も支障が出ると思ったが、やはりモルに話を振ることなどできなかった。
「あ、あの……」
「何でしょうか、伯爵様?」
駄目だ。
更に緊張してきた。
「あの、股間の毛は長いんですね?」
「きゅー」
モルは股間を押さえて涙目になった。
きゃわいい!
「も、もう、エッチな人なんですね!」
「ごめん、緊張すると、何言っていいのかわからなくなるんだ」
「……」
「いや、本当にそうなんだ、ごめん」
「……」
「モルさん、ごめんよ。謝るから、もう泣かないで……」
「なんで奴隷相手に緊張するんです?」
「えっ? しょれは、君が美人だし…… 偉い美人だし…… きれいだし…… 」
噛んだ。
「くすくす」
「えっ?」
「冗談です。亜人も人間も体毛がないから獣人が珍しかったんですよね?」
「ああ、そう言えば……」
「獣人の奴隷の毛は、お守りにするって本当ですか?」
「しょーなの! い、いや、違うぞ、そ、そんなことしらない! 経験ないし、俺は知らない!」
「そうなんですか?」
「そうなんですぅ」
モルは涙を指先で拭ってから、顔を上げた。
モルは本当に王女なのか、それだけで気持ちを落ち着けると、きちんと簡潔に正確に、しかもわかりやすく今までの経緯を話し始めた。
(聞き手はテンパっていた)
ミリンダ朝は本国から来た者たちで建てた王朝であること。
隣のアルサケス朝は、同族であり支援してもらったので借りがあること。
そのアルサケス朝は、ユキナの出身国である猫族の大月氏に圧迫されていること。
(ユキナは周王朝の西のホランに定住している別の月氏であると言っておく)
ミリンダ朝が倒したマウリア(牛族の王朝)は、半分を北のマガダ(シュンガ朝:牛族)に乗っ取られたこと。
本国のマケドニアは、既に浪漫(帝国)の支配下にあること。
俺はお茶を飲みながら、小さくなって聞いていた。
(モルの方が、お茶より香り高い気がする。官能的なフレーバーだ)
しかし、ローマ帝国なんて地球の裏側の話とか思っていたけど、意外と繋がるものだ。
地続きって、何が起こるかわからないから怖いよね。
俺の不確かな知識では、今後、小アジア辺りで丁零の子孫とローマ帝国が争っていると、凶族(匈奴)が攻め込んで来て、ローマ帝国はぶっ飛ばされる。
大月氏が南下しているのが、その証拠である。
その後、凶族が帰って行き、再びローマ帝国が侵攻してくるが、今度は北からゴート人(多分、ゲルマン人)が南下してきて、再びローマ帝国はぶっ飛ばされる。
その時に、その地を追われた丁零の子孫たちがサカ人として(現代の)イランやパキスタン地域に入り込んでくる。
まあ、それまではモルの母国は近隣との争いくらいで、何とか動乱には巻き込まれない、と思う。
当面の敵であるシュンガ朝のプシャミトラ・シュンガは、宗教上の対立から抜け出せない。
何しろ、マウリアが仏教国だったのに、対立するバラモンたちに使嗾されて同族とは言え主筋だったマウリアの王を暗殺してのけたのだ。
インドの半分を継承したのは形式だけである。
その半分はマウリアとして、仏教国として、また、栗鼠族のミリンダ王を敵として纏まっていたのだから、空中分解である。
マガタはインドでは名門だけど、それだけでインドの半分は纏められない。
しかも、確か後継者選びも、バラモンたちの思惑で上手くはいかない。
それに、主筋を暗殺したのは、この世界では凄いことなのだけど、因果応報で自分に帰って来やすいと思う。
気が休まらないだろう。
俺の知識では、なのだが。
「私は、ミリンダ王の娘でしたが、父が叔父に嫁がせようとしたので逃げ出しました。丁度お兄様が周への使節団として出航するところだったので、密かに連れて行ってもらうことにしました」
この世界の妹は、兄が好きなのだろうか?
叔父よりはいいのかもしれないけど。
「私は兄の女になり、異国で暮らせると言うことで舞い上がっておりました。幸せを掴んだと思ったのです。でも、使節団の船旅は過酷でした。外洋で皆病気になり、船も迷走して、嵐で陸地に打ち上げられた時は、お兄様も側近たちも女たちも、もう……」
モルは静かに涙を流していた。
しかし、俺には慰めるとか宥めるとかのスキルがない。
こんな時は、おっぱいを触るとかお尻を撫でるとかの技術があれば良かったのかもしれないが、それもなかった。
(それはスキルじゃないぞ)
モルはお茶のお替わりを出してくれたが、ぬるくて苦くなっていた。
「兄に死なれた私は、正式な使節団員でもなかったので、この国ではただの奴隷でした。それも主人を亡くした性奴隷扱いです。そんな身分では、難民と一緒に生きていくしか逃げ道はありません。僅かな金品で、ここ1年半を暮らしてきましたが…… もう限界です」
生き残りは下っ端ばかりだったから、散り散りになってしまったらしい。
目的や権限を持つ偉い人が死んでしまったからだろう。
モルは国を密かに抜け出してきたから、付き人はいなかったのだ。
しかし、俺の船は倭国行きだ。
南方に行く予定はない。
ユキナはモルをどうするつもりだったのだろう。
それとも、やはり、性奴隷として買ったのだろうか?
この場合は、同意したと考えるべきなのだろうか?
「ミリンダ王は、その、次の使節とかは」
俺は何とかそれだけの言葉を捻り出した。
間が持たないどころか、気まずくて窒息しそうなレベルだったからだ。
本音を言えば、性奴隷として見たい。
(やりたい、だろう?)
でも、無理だろう。
『一緒にいよう』
『俺についてきてくれ』
と、言うべきなんだろうが。
『おっぱい揉ませて』
だろうか?
(クズだな)
「早くても5年はかかるでしょう。それに、私は逃亡したので王女には戻れません。名乗り出ても相手にされないでしょう」
「少しだけならお金の援助を」
しかし、モルは首を振るだけだった。
性奴隷は、もう王族には戻れないのだろうか?
周は天竺と貿易している。
周は絹織物、天竺は木綿と香辛料を輸出している。
正式な国交を結んでいたのはマウリアだろう。
けど、マウリアは飢饉で滅んでしまった。
その後の動乱は周は関知してないと思う。
でも、その動乱のお陰で、天竺木綿が格安で入ってくるのだ。
(古着屋のトリビアだけど……)
シュンガ朝より先にミリンダ王が使節団を派遣してきたのは、シュンガ朝より先に既得権を持つつもりだからだろう。
そう言えば、紀元前の時代、衣服の素材は中国の絹、インドの木綿、中央アジアから南ヨーロッパで使われるウール(ローマ人はこれを着ている)、エジプトのリネン(亜麻)が有名である。
後は毛皮や革製品、大麻、苧麻、木の皮、鳥の羽である。
面白いのは、文明のないところで一般的な毛皮が、文明のある場所で最も高価な衣裳であることだ。
絹織物がいくら高価だと言っても、虎やミンクにはかなわない。
けれど、文明が栄えた場所では人口が多いので、狩猟で得られる毛皮では数が足りない。
それで、多くの者は裸に近い恰好をしている。
(衣服が誰にでもいくらでも手に入るようになるには、後2000年くらいかかる。産業革命後だ)
暑い地方は特に不自由しないから、階級が低いほど裸に近い。
エジプト文明でも、男女共に腰布だけだった。
(後に女性は筒型のワンピースになる)
倭国は葉っぱを編んだり、木の皮に革製の糸を通して作った衣裳である。
腰蓑もあったかもしれない。
羽根飾りは、お祭りの時の晴れ着である。
(そして、キングコング用かも?)
そこにユキナが戻ってきた。
「兄様、今日の収支報告書を書いておいて」
「なんで? 今?」
「ええ、そうしてください」
きっぱりと言われて、渋々だが机に向かって用意された竹簡?に墨で出入り帳から、今日の分だけを書き始めた。
なんだったんだよ!
ユキナはお湯を手桶に汲んできていて、モルを拭い始めたので、俺はそちらを見ないようにして収支報告に集中するようにした。
気になる。
時々、二人は小声で何かを話していたが、内容まではわからなかった。
気になる。
夕日は沈み、今夜は輝く満月が出ていた。
灯芯だけのランプに月明かりが加わって、仕事は捗った。
「えー、二一は天作の五と…… 銭と布は…… もう船に積んだから、残りの穀物類を確認すれば…… 払いましては…… 残金と合うなあ。農機具と大工道具は調達したいけれど、青銅器しか手に入らないんだっけな」
帳簿付けが終わって今後のことを考え始めた。
伯爵領がどんなところかわからないので、必要物資が想像できない。
基本的な農機具の幾つかは、鋳掛け屋に頼んで集めてもらった。
中古品、廃棄品、作りかけ、原料など、金属部分はすべて買い取った。
修理品は新品に買い換えてもらうように頼んだ。
使えなくても量さえあれば、鋳融かして作り直せるだろう。
「待てよ。モルは船で病気になったような話をしていたよな。想像だが、壊血病かもしれない」
独り言は自慢じゃないが癖である。
クズ人生にはつきものだった。
いや、壊血病は、確かビタミンC不足で起こるのだ。
果物が必要だが、日持ちしない。
柑橘類をアルコールで拭いて樽詰めしてもらうか?
野菜類はすぐに駄目になるだろう。
船で栽培とかできないだろうな。
水耕栽培ならどうだろう。
水が貴重すぎるか。
もやしとかはビタミンCを含んでいるのだっけ?
そもそもビタミンCって何だっけな。
意識がそれると、もう大事なことは思い出せない。
このクズ頭は欠陥だらけである。
「クズ兄様、準備が整いましたよ」
「いや、ユキナ。もやしは難しいかもしれないぞ」
「何、変なことを言ってるんです? 今はもっと大切なことがあるのですよ」
「そうか。それなら樽柿だな」
「もう、クズなんだから、正気に戻りなさい!」
ぱあん。
再び、紅葉マークをいただきました。
「ああ、ユキナ。何だっけ?」
「モルのことですよ」
「ぷふっ」
ユキナの後ろからモルが出てきた。
月明かりの陰になっていたので、姿が見えなかったのだ。
彼女は可笑しそうに笑っていた。
凄く可愛いぞ。
モルは獣人だったので裸でも違和感がなかったのだが、今は違和感があった。
何故、ビキニを着ているんだ?
だが、よく見ると違った。
ビキニを着ているように見えるが、ビキニの部分が裸なのだ。
いや、元からモルは裸だった。
つまり、ビキニのように体毛を剃っていて、ビキニ以外の部分は体毛を残してあるのだ。
うーん、こんなこと、上手く説明できないよ。
「も、モル」
俺はそのまま絶句した。
よく考えてみれば、おっぱいを見たのは生まれて初めてである。
ユキナとは毎晩キスするだけで誤魔化している。
(何故かおっぱいには抵抗があるようだが、お尻は触ってもいいらしい)
最初は挨拶みたいなものだったが、段々、濃厚なやつになってきてはいる。
だけど、短衣を脱がしたりはしていない。
(脱がしたいけど)
ディスプレイではずいぶんと見たのだが、生は初めてである。
ディスプレイって何だっけ?
俺は緊張からか、2つの意識を行き来しているかのようだった。
喜んでいるのは、どっちの意識だ?
ぐへへへ。
ぐへへへ。
(両方だった)
モルの身体は月明かりで陰影が濃くなり、女らしいラインが強調されていた。
ナイスバディというよりは、ダイナマイトボディである。
てか、どえりゃぁものである。
しかも、ビキニを着ているように見えて、実は全裸とか、童貞の心臓には悪すぎる。
ぐへへへ。
ぐへへへ。
「さあ、クズ兄様の女にしてあげてください」
「な、何だって?」
「女です。ユキナに一度したでしょう?」
「ええっ、で、でもさあ、拙いんじゃない?」
「じゃあ、性奴隷になるしかないですね」
モルの身体がピクリと動き、小刻みに震えだした。
大きな瞳が潤み、ぽろりと大粒の涙がこぼれた。
俺が、悪いのだろうか?
「兄様、モルの境遇はお聞きになったのでしょう?」
「ああ、お兄さんの女になったが、船が難破して亡くなったとか」
「では、どうしてモルには紋章がないのでしょう?」
俺がチラリとモルの下半身に目をやると、モルは両手で隠したが、すぐに恥ずかしそうに手をどけた。
どどん。
その仕草はとても可愛かった。
俺と同様に、経験がないように見える。
ドキドキなんてレベルではない。
卒倒か?
(きゃほーい!)
(きゃほーい!)
やかましい!
モルの女の子の部分に紋章は見られなかった。
(部分の上部だからな!)
その確認のために体毛を剃ったのだろうか?
しかし、モルは兄の女になったと言ってなかったか?
「モル?」
「お兄様には既に妻が二人いて、個人奴隷も何人かいましたので、私の、そのぅ『順番』はずっと後でした。それでも待っていれば何とかなるはずでしたが、運悪く船が流されてそれどころではなくなり、そのうちにお兄様も具合が悪くなり、船は難破して、必死に逃げ出して…… それで、私、そのまま……」
「それじゃあ、モルは」
「そうですよ、クズ兄様。モルは処女のまま2年近くも我慢してきたのです」
「我慢って?」
「ここは、女には惨い世界です。いつまでも男なしではいられません」
「どゆこと?」
「まあ、それはともかく、モルも一応は王女ですから、お相手は亜人というわけにはいかないと思います」
「い、一応じゃありません! 本当に王女ですぅ」
「同族の外国人がいなければ、人間の貴族の個人奴隷くらいが限度でしょうか? それとも同族の亜人でも裕福ならば何とかなるのでしょうか?」
ユキナがスルーした。
「そうなのか?」
ユキナがモルを見つめる。
モルは首を振った。
くびれも振った。
乳首も……
ごほん。
「しかし、この国では亜人はみんな奴隷ですから、モルのお相手は無理です。それに周王国付近では栗鼠族も栗鼠人の混血も珍しいのです」
「そうなのか?」
「兄様、性奴隷とは夫がいない女のことです」
「それって、男がいないってこと?」
「クズですねぇ、性奴隷に男がいないのはおかしいでしょう? いえ、厳密にはいないのでしょうか? とにかく、貴族やお金持ちのお相手をすることに特化した女のことです。村代表とかの場合が多いですけど……」
娼婦だろうか?
しかし、地位が上ならば、亜人は好きにできるんじゃないのか?
できないと俺が困るんだが。
(奴隷制度に反対じゃないのか!)
(セクハラの話はどうなった?)
(奴隷制度があるんだから、便乗してもいいだろう?)
(なら、セクハラなんて、何千年も先の話になるからいいな)
(大丈夫なのだな?)
(大丈夫だと思うぞ)
やかましいぞ、お前ら!
「でも、貴族と契れば紋章は現れるんじゃないの?」
「王族や貴族、正式な領民の個人奴隷でなければ奴隷紋しか現れません。正式な許可なくしては個人奴隷にはなれないのです」
「そうなのか?」
『それに、奴隷にするには儀式的な……』
ユキナはゴニョゴニョと何かを言いかけたが、俺はテンパっているので聞き取れなかった。
「そうなのか?」
何しろ、目の前の美少女が手に入るかどうかの瀬戸際なのだ。
童貞にとっては、死ぬか生きるかよりも重要な分岐点である。
「兄様はクズです!」
「そうなのか?」
ユキナが呆れているようだが、それどころではなかった。
視野狭窄というのだろうか?
肝心なことが肝心なことに塗り潰されていた。
王族には王の許可、貴族や平民には領主の許可が必要らしい。
許可なしとか、無理矢理に契れば、奴隷紋である。
(無理矢理が増えそうだな)
「許可なく奴隷紋にした領民は、奴隷紋にした女を養い続けなくてはなりませんし、キチンと養っていけなければ、自分も家族も奴隷に転落します」
「そうなのか?」
(うまくはいかないものだ)
「でも、王族は大抵は破産することはありませんし、奴隷を売ったりもしません」
「そうなのか?」
「ですから、王族の奴隷は普通は個人奴隷です」
「そうなのか?」
「人間の奴隷でも亜人の奴隷でも、そして獣人の奴隷でも、王族の奴隷なら変わりません」
「そうなのか?」
「個人奴隷になるには領主の許可がいります。貴族でも領民でも許可制です」
「そうなのか?」
「奴隷同士では野合です。奴隷には財産(女)を所有する権利がないからなのです」
「そうなのか?」
ユキナは元々俺の個人奴隷として父上が許可したのだった。
個人奴隷は妻と同じだが、身分上はやはり奴隷である。
それでも、俺には養う義務が生じ、養えないと男も奴隷に落ちるそうである。
(あー、早送りしたい)
奴隷、子供、妻の順に売られて落ちていく。
貧乏貴族は、個人奴隷を増やして一家全員が奴隷に落ちるくらいなら、奴隷紋を持つ性奴隷を呼んだ方が良いと言うことらしい。
(もう、いいよね)
良くはわからないが、奴隷にも色々あるのだった。
しかも、獣人の国では、獣人と人間の身分のルールが逆転するらしい。
亜人はどちらの国でも奴隷である。
「独身とかは選べないのか?」
「それは死ねと言うようなものです」
「そうなのか?」
「王族でも奴隷でも女は皆同じです。兄様はモルが可哀想ではないのですか」
「そうなのか?」
「クズ!」
「そうなのか?」
「もう、その『そうなのか』はやめてください! イライラします」
「そうなの、だったのか!」
あまり、うまくいかなかった。
「モルが気に入りましたか?」
「はい!」
「美人だと思いますか?」
「はい!」
「では、お手」
「はい!」
「お座り」
「はあ、はあ、はあ」
「ちんちん」
「で、できるかー!」
俺は立ち上がって、深呼吸をした。
立ちっぱなしだった。
「少しだけ、戻って来ましたね」
「意地が悪いよ」
「もっと意地悪できますよ」
「ごめんなさい。俺が間違っていました。勘弁してください」
「まったく、恥も外聞もないんですねぇ。そんなにモルが欲しいのですか?」
「はい」
「はあ~」
まったくだ。
うるせえ。
「男って、みんなこうなのでしょうか?」
「こうなのです」
「はぁ、モルは?」
「は、はい」
「奴隷身分でもいいのですか?」
「はい」
「はぁ、女もこうなのですね」
「こうなのです」
「クズが言うべき言葉ではないでしょう?」
「すみません、つい」
「何となく、予感がしたんですよね」
「予感?」
「モルなら兄様に命を懸けてくれる味方になるでしょう」
「味方?」
「ま、いつかはわかるでしょう。ではクズ兄様?」
「はい!」
「おあずけ!」
「おい!」
「ウソですよ。好きにしなさい」
そう言われると、何か……
「でも、モルの紋章はどうなるの?」
「兄様は既に伯爵なんですよ。自分自身が領主じゃないですか。既に誰の許可もいらないのです。モルが欲しいかどうか、兄様の気持ちが重要なんですよ」
ちらっとモルを見ると、俯いてしまった。
モルは俺の個人奴隷になんかには、なりたくないのではないか?
だが、嫌なら最初からここにいないだろうし、ユキナも嫌なら連れては来ないだろう。
(伯爵、最高!)
クズだな。
てか、女の子が向こうから現れるのはギャルゲーだからではないだろうか?
しかも、妹の紹介とか推薦とかお墨付きとかは、現実ではあり得ない設定である。
(有難い設定かも?)
クズだな。
「さあ、モル。頑張りなさい」
ユキナは席を外してくれるようだ。
どうして、と言うのもおかしな話だろう。
ありがとう、というのもおかしいよな。
そして、モルが顔を上げた。
瞳が潤み、上気している。
モルはユキナより背が高く、体つきも細身のユキナとは違って自己主張が激しい。
というか、ユキナとはタイプが違い過ぎて何処も比べられない。
それなのに、欲しい。
違うから欲しいのだろうか?
経験がなさ過ぎて、何もわからない。
モルは、身体を震わせながら、そっと抱きついてきた。
体毛は見た目と違ってもの凄く柔らかく、剃り上げた部分は吸い付くような柔肌だった。
俺も少し震えていた。
「こ、これを伯爵様に差し上げます」
モルは思いっきり恥ずかしそうにしながら、お守り袋のようなものを俺に押しつけてきた。
それはお守り袋というよりは、匂い袋みたいだった。
匂いを嗅いでみると、頭がくらくらした。
官能的で、刺激的で、何だろう?
モルそのもののようだった。
「もう、お守りって言ったじゃないですか。とっても恥ずかしいんだから……」
「それじゃ、この中身は!」
モルは俺の口を指先で塞いだ。
「口に出したら、モルは死んでしまいます!」
「絶対に言いません! 誓います!」
「中も見ちゃいや!」
「は、はい」
ウソではない。
触って嗅ぐだけで我慢しよう。
「で、では、伯爵様。モルと契っていただけますか?」
モルはそう言い、俺が何かを言う前に唇を合わせてきた。
何故だろう?
俺はモルに拒否感や恐怖感は起こらなかった。
何処かに大きな安心感みたいなものがあった。
それはユキナに似ていて、少しだけ違うような気がした。
乙女の柔肌は、男を強く刺激するものである。
モルの熱い口の中に舌を差し込むと、全身がモルを求めるようだった。
もっと近くに、もっとひとつになりたかった。
だが、モルの上体が跳ねて離れ、可愛い唇から可愛い声が漏れ出した。
「ふぁぁ、ひぁんん」
その後もモルの身体は何度も跳ねて、モル自身は気絶しそうだった。
抱きしめて押さえるが、モルは崩れ落ちていく。
「兄様、ベッドに寝かせてあげて」
いつの間にかユキナが戻って来ていた。
(覗いてたんじゃないよね)
少し慌てて指示するので、俺はそれ以上は考えずに右手でモルの肩を抱き左手で両脚を持ち上げ、身体を寝台に運んだ。
左手はべったりと濡れてしまった。
床まで濡れている。
失禁したかのようだ。
だが、驚いてもいられない。
優しく寝かせると、モルの溜め息だか嬌声だかが、少し落ち着いたようだった。
「それ以上は、ユキナが先です。クズ兄様はちょっと向こうに行っててください」
ユキナが俺の肩を掴み、後ろに引っ張る。
「でも」
「いいから、早くして!」
ユキナの恐ろしい笑顔に俺は引き下がった。
やはり、王女様なのだと感じた。
クズの俺は簡単に引き下がり、部屋の隅に行って気を紛らわせるために出入り帳の見直しをした。
だが、全然内容が頭に入ってこなかった。
「まったく、こんなになるまで我慢するなんて! 死んでもよかったの……」
ユキナがモルに何かを話していたが、内容は良くわからなかった。
手拭いで後始末を続けているが、途中手桶を取り替えに行ったりした。
ちょっと、モルを盗み見すると、下半身には新しい手拭いがかけてあった。
俺の下半身は強烈に痛くなった。
左腕に、モルの肌が匂い立つような感じがあったが、それは錯覚ではなかった。
濡れていたのは、モルの分泌物だったのだ。
ユキナに教えてもらったのと同じである。
失禁ではないが、こんなに凄いものだろうか。
俺がどうしようか悩んでいると、戻ってきたユキナが気づき、丁寧に拭ってくれた。
俺はその後に、ちょっとだけ匂いを嗅いでしまった。
頭がくらくらした。
ぱあん!
はい、紅葉マークです。
今日は、これで3度目だった。
「まったく、クズなんだから!」
「すみばぜん」
その後、モルは眠り続けた。
寝台は多分羊の毛皮のシーツで、掛け布団は掻い巻きであり、綿が入っていた。
寒くはないだろう。
今晩は、もう一つの寝台でユキナと寝ることになってしまうが、今までもずっと一緒だったから問題はなかった。
毎晩、積極的なユキナを(高ぶっている)今夜こそ拒絶することなどできそうもなかったので覚悟を決めていたが、
「兄様がクズで良かった」
などと、謎の言葉を残して、俺にしがみついたまま眠ってしまった。
そうなのだ
今日したら、クズではなく鬼畜だろう?
童貞は我慢できるのだ。
クズではなく、へたれと言うのが正しいのではないだろうかと疑問が起きたが、誰の考えかわからないので、ユキナの匂いをごぞごそと嗅ぎまくってから眠ってしまった。
人間のクズだった。
「あ、朝ですよ。起きてください、お、おに、お兄ちゃん……」
俺は朝、妹に跨がられて揺さぶられて起こされているようだった。
(ユキナだな)
朝の起こし方の話をユキナにしたことがあった。
しかし、今は眠いので、まだ目が開かず頭も起きていない。
このところ、倭国への航海の準備で毎日死ぬほど忙しいのだった。
ユキナもモルも忙しいので、夜も何となくそのまま過ごしている。
ふたりとも不満そうだったが、疲れているので、議題にもならなかった。
「うーん、もう5分だけ」
「あぁん、そんなぁ、もう無理です。5分も続けたら、おかしくなりますぅ……」
妹は丁度良いところに跨がっていた。
それも、掛け布団の上からではなく、中でだった。
腰を腰に押しつけていて、目を開けなくても下半身が丸出しだとわかった。
多分、これが夢か妄想だからだろうと思う。
(願望かも?)
俺は寝間着代わりに長衣を一枚身につけて寝ていたが、下にはもう一枚、腰を紐で結ぶトランクス状の下着も穿いていた。
男の丸出しは、何処の世界でも嫌われるからだ。
(俺も嫌いだ)
(考えたくない)
(考えたこともない)
「あぁん、お兄ちゃん、まだぁ?」
妹は、そう言いながらもやめたがっていないように思えた。
何処に押しつけるといいのか、わかってきたみたいである。
「ユキナ」
俺は我慢できなくなって、俺にしがみつくユキナの火照った身体を抱きしめて、口を塞いだ。
「ん、んん、んんー」
ユキナは小さな舌を、昨夜よりも過激に動かした。
「んんんー、ぷはぁ!」
しかし、拒絶だった。
どすんっ!
ユキナの必殺技『どすっ』の上位ヴァージョンが炸裂した。
「げほぉ! 何でぇ?」
「寝込みを襲うとはいい度胸です! このクズ大王!」
「ごほぉごほごほぉ」
やっぱり夢だったの???
「でも、ユキナが俺に跨がって…… げほぅ、うう、腹が痛いぞ」
「兄様? あれ? クズ兄様でしたか?」
「だ、誰だと思ったの?」
ユキナはプイッと横を向いた。
「いえ、そのぅ…… 極悪人の夢を見ていまして、ですね。最悪の気分でした。泥水で口を漱ぎたい気分です」
――『漱ぐ』と『濯ぐ』は形態が少し異なるが、ほぼ同じ意味である。
ただ、漱ぐには『清める』と言う意味もある。
こうした場合に、つまり、嫌悪感を表す時に使うには、1段上のレベルであると言っても良いだろう。
「いや、相手はディオとか極悪人じゃなく、俺なんだけど……」
「では、貴重品の石鹸で洗うべきでしょうか? うふふ」
可愛く言っても、そのジョークは意味がわからないからね。
石鹸を使っても、嫌だと思ってるようにしか受け取れないからね。
実際に腹は痛いしね。
しかし、どうやら叔父上か、ここの代官がユキナの夢に現れたらしい。
確か『大王』だか『代官』だとか言ってた。
でも、それはどちらが、より嫌だろうか?
どちらであっても悪夢かもしれないな。
女の子って凄いよねぇ。
あんな男と付き合ったり結婚したりできるんだからさぁ。
(人様のこと、とやかくは言えないだろ!)
俺が女だったら絶対にできない。
無理だ。
(相手も嫌だろうけど)
それとも、地位を利用しての無理矢理なのだろうか?
しかし、無理矢理すれば結婚してくれるのだろうか?
何度もすれば、かな?
何度すればいいのだろう?
ごほん。
まあ、それは大変だから『身分制度』が発明されたのかもしれないな。
身分が上なら女は拒絶できないようにルールが作られた可能性はある。
(まあ、クズには好都合だけどな。お陰でユキナは俺の個人奴隷だとかだし)
「でもぅ、兄様でも『いきなり』は駄目です。ユキナにだって準備が必要で…… あれ?」
「いや、俺はユキナに跨がられただけてさぁ…… それで、お返しに、あれ?」
二人で顔を見合わせた。
二人とも下半身がべっとりと濡れていたのだ。
こんなことが、どうしたら起こり得るのだろうか?
「あの、クズ兄様? まさかユキナが寝ている間にもっと凄いことを…… その、しましたか?」
「いやいや、流石に俺でもそこまで鬼畜では…… ちゃんとこうして下着もつけてるし…… それにユキナは何か凄いことをされても起きない、なんてことあるのか?」
「そ、そんなことはありません! キスされて起きましたし…… でもぉ、その先の経験がありませんから、実際にはわかりませんけど…… ただぁ、そんな凄いことされても寝ているなんてあり得ませんよ、きっと」
「どんなことが凄いことなの?」
「もぅ! 兄様はクズです!」
それはともかく、この状態が問題である。
これはどんな現象なのだろう?
「じゃあ、ひょっとして、これは?」
「これは?」
「ユキナのおねし……」
ぱあん!
「匂いを嗅がない!」
「でもさあ、幾つまでしてたの?」
「な、ななさ…… そ、そんなことはしませんでした!」
ユキナは顔を真っ赤にして、再びプイッと横を向いた。
そして、少しモジモジしてから、やはり気になるのかチラチラ見ているようだった。
思い当たることがあるのだろうか?
「と、とりあえず、後始末しないと気持ち悪いですよね」
ユキナは枕元の手拭いを幾つか手に取って、後始末しようとしたが手を止めた。
目を細める。
目を細めると美人度が増すのは本当に美人な証拠である。
(抱きしめたい)
「兄様、この匂いは?」
「嗅いでもいいの?」
「え、ええ、今回だけは特別です」
俺はユキナの下半身に首を伸ばした。
ぱん!
「こっ、こっちじゃありません!」
ですよね~。
でも、赤くなって可愛いから許す。
俺は仕方なく自分の方の下半身を嗅いだ。
クラクラした。
しかし、自分の下半身にクラクラする訳がない。
だから、これは『排泄物』はなく『分泌物』である。
「やっぱり……」
ユキナは何かに納得すると、俺の手に手拭いを幾つか押しつけ、ベッドを降りて部屋の反対側のベッドまで行った。
丸出しの小さなお尻がモルの前で止まる。
モルは掻い巻きの掛け布団を被って寝ていた。
頭の上の方しか見えないが、向こうの壁側を向いて寝ているようだった。
この朝っぱらの騒ぎに気付かないのだろうか?
熟睡するタイプかもしれんぞ。
あちらも王女様だしな。
「モル?」
ユキナが声を掛けると掛け布団がビクリと動いたような気がした。
それで、俺の夢は夢ではなかったのだと思った。
現在、この部屋にいるのは3人。
その内、排泄物ではない『分泌物』を出す者は3人。
いや、これじゃしぼれてないな。
その内、クラクラする分泌物を出す者は2人。
汚くて臭いのを出すのが1人。
その内、俺とユキナの両方をベタベタにできるほど分泌する者は1人。
それで、ユキナはモルがやったことだと確信したのだろう。
勿論、俺には何処から何処までが夢で、何処から何処までが現実だったのかはわからない、
でも、俺は寝ぼけていて、モルに起こされたのを、隣のユキナに起こされたものだと勘違いしてしまったようである。
そもそもユキナが、俺に抱きついたまま寝ていたのが悪いのだ。
いや、悪くはなく良かったのだが、それがユキナと間違える原因になったのだ。
きっと。
こちらの王女様は間違いなく寝付きが良いので、同衾している童貞男がハッキリとせずに、愚図愚図と未練がましく、悩み逡巡し戸惑い躊躇った挙げ句に、悶々として眠れずに過ごし、性欲の高まりを愛情とか何とか理屈をつけて、まるで清水の舞台から飛び降りるような一大決心に切り替わった頃には、熟睡なさっておられるのである。
幸せそうに『スヤー』である。
折角、何してもいいと言われているのだけど、それでも童貞にはなかなか『ヤル』決心はできないのだった。
(頭の中では色々とできるのだが、具体的な知識と経験がないので、焦るばかりである)
勿論、寝付きの良い王女様にも良いところがあった。
熟睡なさった後でなら、早期警戒システムがオフになっているので、丸出しの下半身をクンクンしたりできる。
昨夜などは、僅か3センチ上空でホバリングしながらクンクンしてもバレたりしなかった。
(実際にはズピーズピーと言う感じだったけどな)
うるさいぞ!
ほっとけ!
でも、恋人同士なら自然な流れとかがあると言うが、童貞には自然な流れなどないことを思い知った。
ユキナはいいと言ってるが、童貞の俺には、結構ハードルは高い。
キチンとリードしながら手順を進めていかないと、とても上手く行きそうもない。
その手順が童貞には良くわからない。
マニュアル化されていないからなのだ。
(そんなものあるのか?)
最初はサワサワだろうか?
それともペロペロだろうか?
もしかして、開脚技だろうか?
3回転2回ひねりだろうか?
伸身のコールマン(伸身のコバチの1回ひねり、つまりはカッシーナ=G難度)くらい難しいものだろうか?
(できるか!)
ユキナも経験がないから、どうすればいいのかわかってない。
それで、今はしがみついているだけで十分らしい。
結論として、女の子は色々と難しいのである。
ゴールに近づくほどに、ハードルは幾何級数的に高くなっていくのだろうと思われる。
安直に考えて、軽率に行動し、結果的に嫌われるような悲劇を起こすのは、やめておいた方が無難だろう。
大事な相手なら特にそうである。
だから、不自然とか超自然な流れが起こることに期待しよう。
けれども、
『自然に起こらないことは、自然には起こらないのよ』
誰かがそんなことを言っていたような気がする。
ハイゼンベルグの不確定性原理だろうか?
ゲーデルの不完全性定理だろうか?
ラプラスの悪魔か?
それとも『神は御隠れになった』だろうか?
(ニーチェだっけ?)
しかし、眼鏡をかけた鬼のような神様が関係していた気がする。
誰だろう?
まあ、御隠れになったのならば、俺にはどうしようもない。
俺はタヂカラオじゃないからだ。
裸踊りは見てみたいけど。
――ダヂカラオ
天手力男神のことだろう。
――裸踊り
所謂、岩戸隠れの際に、天宇受賣命が天照大御神の気を惹くために踊ったと言う言い伝えのことだろう。
うほん、それでぇだ。
ユキナはモルを責めなかった。
むしろ、優しかった。
「さあ、モル。起きて身体をきれいにしに行きましょう。今日は出発の日です。更に忙しくなりますよ」
モルは俺に背を向けながら立ち上がった。
背中側でも、見事なビキニ姿に見える。
(全裸だが)
ユキナの小さめのお尻の後に続いて、モルの大きめのお尻が部屋を出て行く。
一瞬だけ、モルは振り返り俺の顔を見た。
目と目は合わなかった。
俺の視線が下の方に固定されていたからだ。
「ひあっ」
ぱしゃりと音がした。
濡れ手拭いを落としたのだ。
モルは慌てて拾い上げると、ぺこりと頭を下げて逃げるように出ていった。
大きなお尻の動きが、俺の脳内で連続再生していた。
部屋の隣、正確には一度は外に出て、隣に併設された小屋に入ると小さな水浴び場とトイレがある。
(風呂ではない)
その水浴び場には、大きな瓶に水が汲んであって、沐浴や洗濯もできる。
ただ、入り口には筵のようなカーテンが掛かっているだけなので、ここからでも声や音がまるっと聞こえる。
ざー。
「きゃ、冷たい!」
「我慢しなさい。少し気合いを入れないと、領民の目の前で『バシャバシャ』こぼしますよ」
「そんなに恥ずかしいことはしませんよ!」
「そうかしら?」
「大袈裟すぎるわ」
「あっ、モル。兄様が覗いてますよ」
「えっ?」
パシャ、パシャリ。
(手拭いを落とした音だろう)
「ああぁ、うあん」
「ウソです」
「あぁ、酷いわ。あぁ」
「まったく、適齢期を逃すとこれだから困ります」
ざー。
「うっ、ま、まだ、15歳です!」
「水を溜めすぎでしょ」
「うう、んんん」
「そうですねえ、もう少し兄様にキスしてもらいますか」
「キス?」
「口吸いのことですよ」
「く、口吸い!?」
ばしゃ。
(手拭いを落とした音だと思う)
ざばー。
「とにかく、早く出し切らないと出かけられません」
「そんな、お茶の出し殻じゃないんだから、搾り出すみたいな言い方されても……」
「思い切ってクズ兄様にかき回してもらいましょうか?」
「か、かき回す!」
(か、かき回す?)
パシャリ。
(だから手拭いだぞ)
「うわあん」
ざー。
ざばー。
覗いている訳ではない。
音だけである。
しかし、聞こえてくるだけでも情景(妄想)が目に浮かんで興奮する。
俺は新しいトランクスを出して、脱いだり穿いたり脱いだりした。
特に意味はない。
「さあ、気合いを入れて、準備しましょう」
ユキナの声は楽しそうだった。
ざばー。
「ひぁぁ。やっぱり、冷たい!」
本当は少し怒っていたのかもしれない。
覗きではなかったが、こうして聞いているのは、ちょっと、クズっぽかった。
それから3人で出発の準備をして、箱馬車を引き出すと、再び難民たちの所に行った。
再び、おばさんたちと一緒に粥を作って集まった難民たちに配り、お祝いとお別れの宴とした。
「おらたちも、もう10も若けりゃな」
「20の間違いじゃろ」
「おらは現役じゃ、のう伯爵さあ、試してみんかい」
「遠慮します」
「おったてておるくせに」
勿論、原因はこのおばさんたちではない。
前回よりも多く集まった難民たちのお陰で、若い女の子の比率も多くなったからだ。
前回よりも美形が多い気がするのは気のせいだろうか?
特に12歳から14歳くらいが一番キラキラしている。
15歳くらいになると子供を抱いたり、おぶったりしているから、同じように美形でも、何となく恋愛適齢期なのは前者かもしれない。
でも、15歳以上は、美形であるだけでなく色っぽかった。
(結局、どちらでもいいんじゃないか?)
とにかく、それが、その、どちらも下半身は『丸出しのまま』で集まっていた。
天国である。
ユキナとモルが、今回の移民に選ばれなかった女の子にも3枚1組の短衣を配っている。
それで、目の前に若い女の子が沢山集まって、嬉しそうに『キャッキャ』している。
勿論、そのせいで俺の方はもっと嬉しい。
「でも、倭国で衣類が足りなくなるかも?」
こんな時だと言うのに、俺は少し心配症だろうか?
「クズですね」
「まったく、クズ発言です」
そうか、心配性ではなく、クズの症状だった。
「でも、ユキナだけでなくモルまで! 酷くないか?」
「女は美しく着飾った方が幸せになれるものです」
「伯爵様も、領民がきれいな方が嬉しいでしょう?」
「まあ、そうだけどさ……」
別に、女の子は着飾らなくても美しいよね。
もしかしたらだが、全裸が一番美しいかもしれないぞ。
「クズ兄様?」
「伯爵様?」
「ああ、着飾ると華やかでいいね」
ちょっと、顔が引きつっていたかもしれない。
「もう、足りなくなった衣類は、村長に追加で頼んでおけば良いでしょう?」
「それに、移民団には十分配りました。残しておいても荷物になるだけでしょう?」
ユキナとモルに言われたら逆らえないよな。
村長に追加注文かぁ。
気が進まない。
既に、今回積みきれないもの、特に『牛』とか『豚』とか『鶏』とかを調達するように頼んであるのだ。
勿論、有料である。
「確かに、評判は金では買えないものですな」
「村長?」
名前を呼ばれると現れるのは魔物だったっけ?
村長は少々くたびれた顔をしていた。
村人総出で、毎日徹夜で船に積み込み作業をしていてくれたのだった。
突然現れた伯爵のせいであり、降って湧いたような公務であるのだから大変である。
とは言え、それだけが疲れている原因だとは言い切れないから、簡単に同情しないようにしよう。
何しろ、初日に性奴隷を5人も連れ帰った人なのだ。
村長は、
『航海の乗員を集めるための見せ金みたいなものです』
と言っていたけれど、信用できない。
(俺ならどうするか、だな)
性奴隷は美形ぞろいだから、苛酷な航海の乗員は集められるかもしれない。
でも、俺の金で集めたのだから、村長にすればチャンスである。
「一杯の水はのどが渇いてる時にこそ『ありがたい』と思うものですからな」
「だから?」
「今年は木綿が安いと聞きましたぞ」
「その心は?」
「村の者に追加を買わせておきましょうか。伯爵様のお名前で」
「お金での間違いでは?」
村長は嬉しそうに手を出した。
金貨を何枚も持って行かれた。
「おありがとうござい」
村長はハゲだが、上流階級の人のように好良く受け取って戻っていった。
悪代官(に決まっている)よりも、ずっと優雅に見えた。
別に、村長にあげた訳じゃないからな!
俺はホクホク顔で立ち去る村長の後ろ姿に悪態か、捨て台詞か、負け犬の遠吠えだかをついたが、勿論、本人には聞こえないようにした。
何となくだが、村長はいい人だし、今後も味方になってくれる気がするからだ。
今後、長い付き合いになりそうだし。
「あの人(村長)は今でこそ『夫』で村長やってますすが、元々は地元の貴族の家系なんです。確か名は栄で、田氏が姓だったと思います」
色々と事情通のヨシが、傍で聞いていたようだ。
そして、笑いを噛み殺しながも村長の素性は教えてくれた。
この男も、村長に負けず劣らずいい男である。
コミュ障の俺が、僅かな時間で気楽に話せるのが根拠である。
それに、獣人のギイとこの人間族のヨシのふたりが、今後の俺の領民代表になるのだ。
亜人が領民代表では、航海中に村長とその部下たちと付き合いづらいと言う理由があるからだ。
体裁も必要なのだった。
それに、彼等の妻のふたりも年長で、難民の女たちを纏めて、ユキナを手伝ってくれている。
「しかし、田栄って?」
確か、有名人だったような?
「でも、周王朝では、姓を名乗ることは禁止されています」
「何故?」
「国家すべてが一族である建前の周王朝では、独自の姓を名乗ることは、国家に反逆し、独立することを意味するのですよ」
「まるで、部族国家みたいだねえ」
「この辺りでは、他民族と区別するためにも有効な政策でしょうね」
国民は同族であることを基本とすることにより、他民族を区別し差別し、人種制度や奴隷制度を維持しているようだ。
それが建前になって、姓は使わなくなったらしい。
特に貴族はそうだ。
王族と姻戚関係になることが貴族の名誉になる。
そして、周王朝の貴族は『姫姓』の一族になる。
周王国は、実際には別氏族も同姓として組み込むことで、国家の基礎を築いたようである。
「でも、実際には残ってたりするんだよね」
「まあ、前王朝が氏族を集めて作られた『殷王朝』でしたから、その名残はありますね。けれど、各氏族が力を持つ度に謀反や反逆が絶えないので不安定な王朝だったと伝えられています。最悪なのは、異民族と結託してまで反乱を起こそうとした連中が現れたことでした」
「異民族って獣人?」
「はい、特に遊牧民は強いですから」
「でも、混血すると亜人しか生まれないんじゃなかった?」
「はい。しかし、昔は亜人しか生まれないのは迷信だと思われていたそうです。実際に亜人化しなかったと言う話も残っていますが、今ではどうしてそうなるのか誰にもわかりませんが、経験則から誰もが子供が亜人になると納得しておりますね」
多分、少し前に世界が変わったのだと思う。
その前は亜人とか獣人はいなかったのだと思う。
ユキナを思い出す。
以前は、銀猫じゃなかったように思う。
奴隷でもなかった。
でも、それだと俺の個人奴隷にはならないかもしれない。
俺も死刑になるし。
奴隷制万歳!
「それでも、昔は追い詰められた氏族が獣人と手を組んだりすることもありました。しかし、それでは氏族どころか人種すら保てないってことになりまして、周王朝では『領民とは同姓の人間族の一族だけ』ってことになったのです」
前王朝は氏族を集めて国家を作ったため、今でもその名残がある。
だから、首府から離れた土地ほど王族の血から遠くなり、姓が残りやすいのだろう。
だけど、今の王朝の方針に、反対する気持ちはないらしい。
獣人は強いし、亜人は奴隷だから嫌なのだろう。
父と叔父上は争ったが、それは同族の内輪もめなのだ。
だが、血族集団による限界もある。
寿命と繁殖力による限界は、必要以上に優れていても(人並み以上にエッチ好きでも)、孫の代に1つの村、約3000人の同族を作れれば上出来である。
普通は孫の代に300人くらいの集団を形成すれば御の字だろう。
そして、曾孫の代になると、直系の曾孫の家族集団であっても、分家の分家とかになり、一枚岩の血縁集団と言うより、役割や上下関係が色濃く反映された集団になってしまう。
当然、謀反や下克上も起こるだろう。
それ以上の集団を形成するには、リーダーが強くないと纏まらない。
これは、人類文化が2000年以上先になっても本質は変わらない。
人が纏まれば、上下関係ができ、それが既得権を生み出して、それを守るために社会システムが作られる。
大人はこれを『秩序』と思っている。
これは、いつの時代も同じであり、世の中をよく見れば、例え21世紀であっても矛盾は沢山見つかるだろう。
秩序には安心感があり、共同生活を営む人間社会には大事な基盤のひとつである。
一方で、自由市場とか自由貿易とか、公平公正で平等な社会とか、建前というか理想とは相容れない要素になりうる。
社会も秩序も効率的なシステムを好むので、必ず階層構造に変化し、そして命令系統などの権力的な構造になる。
逆に、自由は混沌に陥りやすい。
そして、権力的な階層構造社会には、順位とか資格とか許認可とかが生じ、それが利権、既得権を次々と生み出していく。
結果、現役重視、下がなかなか上に上がれないルール、新規参入が難しい排他的なシステムが必ず作られる。
これが既得権の本質である。
勝手に農業を始められないとか、漁業権なども既得権の一種である、
部長より優秀なのに、部下で居続けなくてはならないとか、甲子園に出場しないとプロ選手になれないとか、浮気してないのに、小遣いを上げてもらえないとかが起きる。
3回生議員では大臣になれないとかもそうかもしれない。
昔の徒弟制度とか現在の資格審査制度は、最初は能力主義であり既得権に見えるが似て非なるものである。
しかし、それを運営する業界団体とか組合が、座とか株とかカルテルとかを作ってしまうのが既得権の始まりである。
そうした業界と繋がり、政治的に守ろうとする利権政党がシステム化された既得権擁護派になる。
確か、党同伐異という言葉があった。
党利党略優先を戒める言葉である。
つまり、人類は何千年も既得権を重視する政治を行ってきて、それを手放せないのだ。
だけど、歴史的にみれば上下関係など簡単に覆る。
300年続く王朝は珍しく、連なる名家も悉く滅んでいる。
名もない平民階級が、必ず上の階級に取って代わっている。
人間社会はかなり激しい新陳代謝を持っている。
ただ、ひとりの人間の寿命内では遅々として進まないように感じるだけである。
総理大臣が5年も同じだと飽きてくるようなものである。
いや、つまらない話をしてしまった。
(えーと、妻を4人持てるとしてぇ、一人が5人の子供を産むとしたら、20人だろ……)
もっとくだらないことをしている奴もいた。
自分の話に退屈して、ずっと、そんな計算してたのかよ!
(しかし、一回で子供がひとりできる訳じゃないだろ? ひとり作るのに何回できるんだろうか?)
そ、そっちなの?
(約2年にひとり産むらしいから、700回近くできるのだろうか?)
いや、こっちの2年は60日だからね。
(すると、ひとりと60回か? 4人の妻なら何回なんだ?)
(沢山だろう。4人と何度も、何度も、何度もするんじゃないか?)
(そ、そんなに?)
一日4回しないと公平じゃないんじゃないか?
(そんなに?)
(そんなに?)
まあ、干涸らびて死ぬほど頑張れば、自分の血縁で部族もできるだろう。
ぐへへへ。
ぐへへへ。
ぐへへへ。
俺はひとりで過ごす時間が多かったせいで、独り言が多く、それもひとりで自問自答することが多かった。
自分の頭の中に、天使役と悪魔役がいて、ポジティブとネガティブだったり、テーゼとアンチテーゼだったりを囁く。
それに当事者の自分まで加わり、勝手に意見を言ったり、突っ込みを入れたりする。
そんな分裂症のような自問自答が癖になっていた。
だから、いつでもこんな感じで頭の中が喧しいのに慣れている。
但し、天使役と悪魔役がいる訳ではなく、クズの中に、クズとクズがいるのだ。
(エッチの中にエッチがいるのかも?)
(スケベッチかも)
(ワンタッチしたいかも?)
ごほん。
「同姓で、諸侯はどうやって区別するの?」
「諸侯は「土地号」を使います。周も元々は土地号です。農耕民族は定住しますからね」
公爵は「秦」とか「呉」と言う土地の名前を使って区別し、独立した冊封では大の字を頭につける。
呉は公爵領で、大呉は冊封である。
紛らわしいが大呉国は冊封の半独立国であり、その一部が公爵領になっていて周王の支配下である。
国力と貿易などのため、そうした構造になっている。
倭国に伯爵領があるのも同じ理由である。
だけど、倭国は周の力が殆ど及ばない『ど田舎』でもある。
ちなみに中央には諸侯が300以上、代官領も同じくらいある。
それはともかくだ。
金貨100枚って少なすぎたのではないだろうか。
心細くなってきたぞ。
「大金ですよ。何しろクズ兄様の命の値段ですから」
「周王様は気前がいいのですね」
ふたりとも、褒めてないよね?
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