04 船の手配
04 船の手配
ユキナと共に馬車で二日ほど走ると、港湾都市と言うか、しょぼい漁村のある代官領に着いた。
山東郡と呼ばれる地方らしいが、ここには街がないので都市名はまだないらしい。
俺は『青島村』と名付けた。
外国から船が着くこともある王国の玄関口なので代官を置く直轄地だったが、この辺りに異民族が海から攻めて来ることはまずない、
王族以外には戦争がない地域なので、異民族が来なければ平和である。
けれど、規模としては人口2万人(村が20から30程度)の首府に近い伯爵領と同じ程度と聞いていたが、寂しい賑わいだった。
平和でも貧しいのだ。
「本当にここでいいのだろうか?」
「外国航路はここだけらしいですよ」
荷が満杯なので、ユキナは御者台の隣に座っている。
寝る時は屋根の上の布製品の中に潜り込んでもらった。
俺は御者台で寝ている。
倭国に着くまでは我慢するのだ。
馬たちは逃げたりしなかった。
世話は途中に途中に駅があり、そこでやってくれた。
馬たちが駅を見つけると勝手に入っていくのだけど……
お陰で金がかかって仕方がない。
「しかし、こんなに広い土地なのに人は少ないよね。態々、他国を侵略する必要なんかないんじゃない? 何処でも勝手に住めばいいのにさ」
「土地狙いじゃなくて、食料を狙ってくるのです。食料は人がいるところに集中するものですから」
開墾しようとか思わないのか?
いや、手持ちの農地で手一杯な感じだったな。
休耕地も目立つ。
用水路とかも、見られない。
水田は作らないのだろうか。
温暖な気候のような気がするけど……
碧い海も見えてきた。
山東郡には他にも男爵領や伯爵領が点在するが、ここの方が豊からしい。
人口800万人くらいいてもおかしくない地域だが、そうなるには2000年以上かかるかもしれない。
確か太公望が賜ったのがこの辺りで、なかなか難しい地域だった気がする。
韓信だったっけ?
良くわからないけど、美人の産地である。
(太公望の姜と言う姓からの連想だった。関係ないが周王家は姫姓である)
「美女が好きなだけだったんじゃない?」
「そうかなあ」
「姫が好きな者もいることだし」
「確かにそうかも」
「姫を独り占めする家系なのかしら?」
「そう言えば、姫奴隷って何となく興奮するよね」
「興奮する言葉を組み合わせて、更に興奮してるだけでしょ」
「そうかなあ」
「女奴隷」
「うん。いいなあ」
「少女奴隷」
「うんうん。響きがいいね」
「人妻奴隷」
「うぅ~ん、確かにいい」
「尻奴隷」
「うっ!」
「ほらぁ、姫は関係ないじゃない」
確かにそうだった。
待てよ、尻姫奴隷とかはもっと凄く……
ごほん。
ええと、伯爵領と代官領の違いは、税を領主の自由にできるか否かにある。
代官は税収の何割かを王家に上納し、残りの何割かで領地経営しなければならない。
当然、王家としては直轄地を多くし、代官に任せた方が国家予算が大きくなる。
けれど、この時代の軍事力は。そのまま自分の親族とその子弟であるから、王としてはあまり領主は減らせない。
自分の味方になりそうな兄弟や従兄弟、つまり大伯父・大叔父や伯父・伯父とその子供や孫たちなどには領地を与えて親族を増やしてもらった方が軍事力は増すのだ。
勿論、潜在的な敵も増えることになるが、異民族が飢えて侵入してくれば、それは内戦の被害と規模が一桁違ってくるから、やはり備えるために親族は増やしておかなければならない。
ジレンマというのは、何処にでもあるものだ。
現実逃避しようと酒を飲むと、その時は幸福で良いのだが、酒が抜けた頃に二日酔いと財政難という更につらい現実が押し寄せてくる。
美人の奥さんをもらうと、その幸せを満喫するどころか、他の男の視線が気になるし、浮気とか不倫とかが心配になって一年中落ち着かない。
お出かけの時に心許ないからと財布に金を沢山入れて出かけると、落としたり盗まれたりが心配で、楽しめない。
「神経質なだけじゃない?」
川で溺れている子犬を助けると噛みつかれる。
傘を忘れて出かけると雨が降る。
傘を持ってると雨が降らずに置き忘れてくる。
一万字書くとパソコンが再起動する。
「迂闊なだけじゃない?」
株を買うと暴落する。
仮想通貨も暴落する。
必ず儲かるはずが損する。
「流されてるだけじゃない?」
階段下で立ち止まると誤解される。
満員電車に乗ると痴漢と間違われる。
女子校の近傍を歩くと逮捕される。
女の子の落とし物を拾ってあげると何故かパンツで通報される。
「いやらしいだけでしょ!」
とかくこの世はいやらしい。
「そんな話じゃなかったでしょう」
「何の話だっけ?」
「異民族との戦争に備えるとか?」
そう、異民族でも、備えるべきなのは北方の遊牧民である。
何しろ遊牧民というのは、一族郎党すべてで侵入してくるからだ。
遊牧民は普通は部族単位で生活している。
危険なのは冬が越せない時だった。
そんな時は雪崩現象と言うのか、ドミノ倒しと言うのか、レミングの暴走と言うべきか……
(そう言えば、住民を増やしていくと何故か必ず災厄が起きて滅びるゲームがあった気がする。ここじゃないよね)
えー、そんな時には、小部族でも纏まると結構な数になる。
部族全体が戦闘員ではないが、女子供でも補給部隊の真似事はできるから、兵站として考えると、戦力数は跳ね上がる。
「遊牧民にも奴隷はいるの?」
「勿論、いますけど、紹介しませんよ?」
「いや、知り合いじゃなくてさ。何て言うか、奴隷も戦闘に参加するのかな」
奴隷を戦闘に参加させられるならば、兵力が増すばかりか、捨て駒戦法すら使えるかもしれない。
だけど、いくら奴隷でも命懸けで戦えば、恩賞でも与えねば収まらないと思う。
だが、そうすると、人種差別の根本が覆ってしまう。
例えば、昔のアメリカ合衆国の奴隷制みたいな財産上の奴隷だと、解放されれば、職業や結婚などの差別は残るが、表向きは自由である。
一方で、昔の日本みたいに平民の下の賎民階級のような下層階級だとすると、解放などないし、そもそも戦争に参加できない。
戦争に参加するのは名誉でもあるからだ。
兵農分離後は下っ端の兵だって身分は上なのだ。
アシガールとかだ。
アシカーガとかも。
(将軍だぞ)
「クズ兄様の疑問は良くわかります。奴隷が解放されたら平民になれるかってことでしょう?」
「根本はそこかな」
「奴隷にも色々と種類があるのです。人間族の奴隷もいるしね」
「そうなの?」
「ええ、犯罪者、遊び人(働かない者だって!)、難民(逃散者や無宿者)、博徒、税金逃れ、それから破産者とかね」
「何となくわかるなあ。権力者が嫌う者ばかりだし……」
クズは処刑を逃れても、奴隷にされるかもしれなかった。
冷や汗ものである。
あぶない、あぶない。
「珍しいのでは、亜人と姦通する女とか、6歳以下の幼女と契る平民の男とかかしら?」
「7歳はいいの?」
「7歳からは紋章が現れるのです」
「そうなの!」
ドスっ!
ユキナの手刀が俺の腹のやらかい部分にめり込んだ。
「ふっくぅ!」
「そんなに喜ぶところですか! 犯罪行為ですよ」
「でも、7歳ならいいとか……」
「しつこいですよ」
「でもぅ……」
「ああ、だからぁ! 7歳までは母親の保護下なんです! 母親の財産と言われています。ただ、7歳のお祝いを終えると、領主とか族長に届け出るのです!」
「届け出る?」
「それから家事とか…… とにかく色々と身につけてから…… 10歳頃から自主的にお相手を探し始めるものです! わかりますか!」
「うぅ、そんなに怒らなくても」
でも、何となくだけど、歯切れが悪い部分があったような気がする。
「12歳になるまでハッキリしなかったクズ兄様が悪いのです」
そうだったのか?
知らない新事実だった。
俺は遊び人だったのだろう。
どんな遊びをしていたのか、憶えていないのが残念である。
誰かをペロペロしたとか……
ペロペロされたとか!
「そりゃあ、兄様は貴族ですから適用外ですけど…… でも、特殊能力があるので、相手が何歳でも気を付けてください」
特殊能力とは、キスのことらしい。
契る前に、ユキナに紋章が現れたからだ。
他人からは契ったように見えるのかもしれないけど……
契ったのかもしれないけど。
「……うう、でも、貴族は適用外なんだね」
俺は腹を擦りながら尋ねた。
どうせなら、ユキナの腹を擦りたかった。
ひたすら我慢の日々が続いているのだ。
2日だけど……
「貴族の紋章は特別なのです!」
ユキナは怒った顔も美しかった。
それが、青い空に映えて見えた。
山や森や、広がりを見せてきた碧い海にも映えている。
下半身はもっと映えていた。
「でも、ユキナは12歳からと思うのですが……」
「なんで、12歳なの?」
「だってぇ、ふっくらとしてくるのは12歳くらいからですよね」
いや、良く知らない。
「ですよね!」
「ひゃい、そのとおりですぅ!」
どんな美少女でも、劣等感は持っているようだった。
その証拠に、ユキナは俯いてフォロー待ちである。
これだけの容姿なのに、おっぱいなんか気になるなら、他の女たちなんか日々が地獄である。
(修辞的表現である)
だけど、そんなことを言ってもユキナは喜びそうもない。
人間には得手不得手と言うのがある。
いや、おっぱいは得手不得手とは言わないのか?
適材適所だろうか?
同一労働同一おっぱいだろうか?
男女不倫機会均等法だろうか?
意味わかんないな。
何となく、俺にはユキナのおっぱいに触った記憶があった。
素晴らしいものだった。
しかし、それは妄想だったかもしれない。
自信がないのだ。
それに、妄想でなかったとしても、女の子が喜ぶような台詞がわからない。
選択肢が出ないからだ。
そうか、選択肢というのは他人が用意した答えに過ぎないのだ。
自分の答えではない。
人生は共通一次ではないのだ。
ヒロインを口説くには他人のノウハウでは駄目なのである。
現実世界には選択肢が無限にあって、オリジナルの答えを探さなければ『二番煎じ』と言われるのだ。
(いつ、言われたんだっけ?)
「ユキナ」
「はい」
「次から俺を起こす時には、跨がって『お兄ちゃん、朝だよ』と言って揺さぶってくれ」
「い、いいのですか?」
あれ? 予想と反応が違う?
「でも、お兄ちゃんはちょっと恥ずかしいです」
そっちなの?
未来予想は誰にもできないのだった。
不確定性なんちゃらである。
人生には正解などないのである。
(成功と失敗があるだけだ)
うるせえ。
馬車が勝手に進んで行き、代官邸の一角にある駅亭に入っていった。
邸と言うほどではないが、広い敷地内に幾つもの建物があった。
でも、貧しい領地の象徴のような気がした。
造りが雑である。
代官は爵位では最低の騎士爵(大夫)であるが、貴族(官)としては王族の臣下であるから高位である。
まったく、身分制度ってのも面倒だ。
偉い人たちが席次でもめるのが良くわかる。
代官は、大抵は王家の親族ではなく姻族である。
簡単に言えば、王族の妻たちの親族である。
弟だったり甥だったりする。
彼等は外敵はともかく、王族内の紛争争には参加しないのが普通である。
王が交代しても親族代表である王族の女たちは、そのまま勝った方の女となり、殆ど立場は変わらないからである。
下手に手を出すと、自分が破滅する。
でも、だからこそ、代官は国内が荒れるのを防ぐ役割を果たしていると言えるだろう。
ものの見方は一方向だけではないのだ。
盗人にも三分の理である。
間男には三分の悦楽である。
(早くない?)
蛇足的に補足しておくが、貴族というのは身分階級である。
人種は平民と同じである。
異なる人種は奴隷階級なのだ。
その奴隷を除いた全国民の2%から5%を占めるのが貴族階級である。
とは言え、全員が領地や役職をもらえる訳ではなく、例えば公爵領では公爵だけが領地を持っている。
王家にとってはそれが本当の貴族であり、爵位持ちってことになる。
他は貴族の親族や家臣である。
だから、公爵妃だろうと、公爵の跡継ぎだろうと、公爵の弟だろうと叔父だろうと、誰も国家が認める領主にはなれない。
公爵領の公爵以外のすべての者は、公爵に仕える貴族階級に過ぎない。
例えば、江戸時代では大名といえば、各藩にひとりだけである。
弟を分家して3万石与えても、幕府が大名として認めなければ、家来の知行に過ぎない。
幕府側からすれば、大名が藩の総責任者であり支配者だから、藩主に命令すれば、藩内部の誰か(例えば江戸家老とか国家老とか跡取り息子)が文句を言おうと関係ない。
藩主に代わって文句など言う権利はないのだ。
事務レベル協議なら応じるが、それは江戸家老と老中の調整協議のようなものである。
現代の外相会談よりも下だと思う。
正式な命令は、将軍と臣下である大名で行われる。
そこでは代理などとかは通じない。
謀反と見られて、領地没収もあり得る。
(死罪かも?)
だが、実際には領主ひとりだけで領地の運営などできないから家臣団が必要である。
これが江戸時代なら武士階級であり、身分は士分である。
周王国では、爵位を持つ者が本当の貴族だが、その家臣団と家族を含めて、便宜上『貴族階級』と呼ぶ。
貴族と平民の決定的な違いは、領主に直訴できるかどうかである。
貴族なら、領主との面会を申し込める。
だが平民なら村長でも絶対に領主には会えない。
間に部下である責任者が必ず入る。
王族なんてのは、一生見る機会がないのが普通だろう。
…………
もしも、あなたが『自分は貴族なのでは?』と疑問を持ったら、直ぐに内閣総理大臣とか財務大臣とか官房長官にアポをとってみることをお薦めします。
3日以内に会えたなら、あなたが貴族であることは錯覚や思い込みではありません。
最も、有名アイドルグループに会いたいと思っても会えないと思います。
(総理大臣より難しいかも?)
まあ、会えなくても、あなたの仲間は1億と数千万人いるから、民主的にはこっちの方が偉いことになるでしょう。
しかし、そう考えると、日本の総理って給料が安すぎないか?
某自動車会社の有名な社長が、従業員数15万人とかで5億とかもらっていたのなら、ひとり3000円くらいを給料から引けば何とかなる。
ならば総理は、1億3千万人の代表なのだから、4000億円くらいもらってもいいのではないだろうか?
子供の給食費も払わない人がいるから、半分としても年間2000億円である。
これなら、自民党を買ってしまえるのではないだろうか?
派閥とかの苦労をしないで済むから、もっと国民のための政治に打ち込めるだろう?
えっ、政治は金儲けの道具ではない?
失礼しましたぁ!
…………
おほん。
周王国では、役職を持つ者を『官』とも呼んだ。
貴族=役人と呼んでもいいかもしれない。
勿論、没落した浪人もいるし、騎士爵の飼い殺しもいるし、領民として平民になってしまう者もいる。
逆に、商人や村長の中には下級の『夫』だが『貴族扱い』という者もいる。
中には、王子なのに、伯爵位で島流しされるのもいたりする。
色々である。
色々でも、女は爵位はもらえないし、官にもなれない。
正確には、女は身分に関わらず、領地や官費(給料)はもらえないのだ。
その代わり、男には養う義務がある。
だから、奴隷でも妃になれる。
亜人は人種差別があるから正妃や跡取り息子の母親になるのは難しいが、自分の男の身分がそのまま女の身分になる。
亜人の子供は奴隷だが、女の子はユキナのように王族の個人奴隷となる。
まあ、普通はユキナのように偉そうにはしないらしい。
ユキナは純血種の獣人の王族の娘だから、特殊とも言える。
亜人は、どんなことをされても文句は言えないのだ。
「どんなことしてもいいって言ってるでしょ!」
「いや、今は待ってよ」
「クズなんだから!」
ごほん。
周王国では、官は殆どが親族・姻族だから、領地経営は言わば『ファミリービジネス』である。
領主の弟は国から見ればただの地方官だが、普通は領主から『徴税官』とか『外交官』、『警察署長』とか『財務長』などを任されるから、地元では偉い人である。
だが、代官は地方官ではなく、王に直接任命されたエリートである。
実はもの凄い切れ者であり、普通は異民族を排除したりしなければならないから、武官としても一流のはずである。
農地開発と管理、治水、朝貢国の使節団の世話、税金の取り立て、有力な一族内のもめ事処理、領民の結婚の許可、焼き畑の許可と主な仕事だけでも忙しい。
それなのに財源は中央に縛られている。
だからか、同規模の伯爵領なら伯爵府と街があるのだが、ここは代官領なので屋敷しかない。
それで貧しい印象を受けるが、領民にとってみれば税率が法定より高く、取り立てが厳しい伯爵領の方が、更に貧しい生活だったりする。
今の時代は土地(耕作地)の開発と維持が最優先であり、それは住民の飢えを防ぐことが優先されているからだった。
確かに、これから切り開くべき土地ばかりで、殆どが自然のままの森や林や草原であり、山や河川敷などは危険で人が住んでいない場所が多かった。
自然に対して、人口が少なすぎるのだ。
それで、収穫率よりも農地面積ばかり気にしているのだろうか?
収穫倍率や肥料の概念がなさそうだった。
神頼みの農業にしか見えない。
俺たちの宿舎は任地に赴く伯爵と言うことでか、代官が提供してくれた。
だが、船の手配など渡航の準備は自分でしてくれと言うことだった。
忙しいのだそうだ。
『伯爵は私(代官)よりも遙かに上の位ですから、伯爵の命令を聞かない者はこの土地にはいないでしょう』
だ、そうである。
この人も、『倭国などに行かされて、生きて帰れる訳がない』と思っているようだった。
『遊び人の王子風情に何ができる』
とは言わなかったが、思ってはいそうだった。
(被害妄想かもしれない)
当面必要な食料も宿も伯爵だから都合はしてもらえたが、実は実費負担だった。
特別サービスで、難民は市街地(村内という感じだが)の外側に住み着いているという情報はもらった。
「感謝はしないけどね」
「悪人面してた。怖かったわ」
「叔父上よりもかい?」
「身分が同じなら、ずっと上かも?」
「良かったよ」
「何故?」
「だって、叔父上が世界一の悪党だったら、きっと勝てっこないからね」
「倭国で世界一の王国に勝つ気なの?」
「少なくとも、逃げられないと死ぬかもしれないじゃないか」
「悪党には関わらないのが利口です。倭国は遠国だから追いかけてこないでしょ」
「確かに、そうだね」
客室はまあまあで、ベッドもふたつあった。
厨房は別棟だが近くであり、自由に使っていいそうだ。
(金は取られている)
ただ、近くの建物から女たちの嬌声が聞こえてくる。
「何してるんだろう?」
楽しそうな匂いがする。
「それより、早く出かけましょう」
「ずっと馬車だったから休みたいって言ってなかった?」
「気が変わりました」
「えー、少しぐらい休んで……」
「休んで?」
イチャイチャとか?
ベタベタとか?
スリスリとか?
今はまずいかな。
「いえ、何でもありません」
「もう、クズなんだから…… 早く、行きますよ」
ユキナに引っ張られて、俺たちは村へ行った。
最初に口入れ屋を探したのだが、世界は貧し過ぎるのか悪党や遊び人はおらず、やくざ稼業もなかった。
「貴族以外はだな」
「貴族もあんまり搾り取れないみたい」
「貧し過ぎるんだよな」
食料がないので悪党どもが暮らしていけるような余裕すらないようだった。
アウトローでも、生産者として社会に参加しないと食っていけない世界なのだろう。
でも。その生産者になれば税がかかるし畑も守っていかなければならないから、アウトローなどやってられない。
村の農産物を奪って逃げても、その先が続かないだろう。
逃げた先が凶作にでもなったら、一緒に飢え死にである。
悪党稼業など、この貧しい世界では続けられないのだ。
それに、犯罪者に課せられる罰は、家族も共に奴隷である。
そんな世界でも、難民が首都ではなくここに住み暮らしているのは、海から海産物を捕り、村々で麦などの穀物に取り替えて暮らしているからだろう。
漁村が漁をして暮らしていないのは、海産物が保存できずに日持ちしないからだろうか。
自分たちが食べる分は必要だが、売り物にはならないから、手間ひまかけるのがきっと馬鹿らしいのだ。
遠くの首府に送れるのは、税でもある穀物類だけである。
生鮮食品は保たないし、加工食品は技術力が足りなくて無理なのだ。
時々は地引き網のようなことをするらしいが、本業は畑仕事だそうだ。
地産地消の典型のようなお国柄である。
この辺りで有名な塩は禁制品であり、近くの貧しい伯爵領や男爵領が王の認可を受けて生産している。
だから本当は勝手に作れないのだが、難民が日々の生活のために海水から採るのは禁止しきれないようだった。
王国が常に塩不足でもあるからだろう。
内陸部は岩塩を使う周王国だが、国の隅々にまで岩塩を配るのは大変な手間である。
精製しないから、無理すると土や砂が混じっている低級品が多くな出回りかねない。
海から塩が沢山採れれば国民は助かるが、生産調整が難しかった。
天候に左右されてしまうのだ。
それで、塩の価格の維持が難しい。
高くすると闇品や密輸品が多くなり統制できないし、安すぎると生産者が生産しなくなる。
塩作りは副業だからだ。
なかなか難しい経済学になる。
だが、手を打つとガラリと様相が変わり、それも予想に反して更なる新手が必要になったりするのが経済である。
いつの時代でも、たいした性悪なのだ。
「奴隷に専従で生産させてもいいんじゃないかな?」
「塩には清めの意味があるので、平民の風習から『奴隷塩』と呼ばれて縁起が悪いとされています」
「どうもデマくさいなあ」
「デマとはどういう意味なんですか?」
「ええと、悪意のある風聞かな」
「でまかせではないんですね」
「似てるけどね。誰かが奴隷の作った塩を売れないように流した噂話の可能性がありそうだ」
「近隣の領主たちですか?」
「その可能性はあるね」
「昔は1級から4級まで種類があって、奴隷塩は4級品だったらしいです」
「今は?」
「特級から2級です。特級は積み木細工のような見事に切り出した岩塩で、高価ですが貴族が買います。1級品は海水を天日乾燥させた粒がサラサラの塩です。2級品は少し砂や土が混じったりしたものですが、平民はみんなこれを買います」
「奴隷塩は?」
「主に奴隷同士の取り引き用です。貧しい者はこっそりと手に入れていますが。焼いてあって少々苦いです」
焼き塩だな。
にがりを分離せず、海水を全部蒸発させてしまうのだろう。
今は国が価格統制しているみたいである。
けれども、塩があっても加工食品と呼べるレベルのものは作り出せていようだ。
「ユキナ。これが文明国なら、倭国の伯爵領では原始人ぐらいしか期待できそうもないよ」
「その前に、船など手配できるのかしら」
もっともな疑問だった。
まず、船を見てみよう。
俺たちは広場まで来たが『市場』が休みだったので、桟橋に向かった。
3本マストがある帆船は無理だろう。
ガレー船と言ったか、奴隷に漕がせる船はローマ帝国時代には存在したと思う。
ローマ帝国?
ガレー船?
何だったっけ?
海岸には原始的な木製の桟橋?があり、何とも言えない船が1艘係留されていた。
遣隋使とかでわかるだろうか。
あれより更に原始的な帆船というか、手漕ぎ舟の大きなものと呼ぶべきだろうか。
四角い川船のようで、竜骨が2本あるように見える。
キールというのは構造体(船体)を支える先頭から後部までの単一の重要な部品であるが、時代が進むとバラスト(おもり)として、船がひっくり返らない役目にもなっていく。
更にフィンキールと言って、波切板、バラスト、直線に走るアシストに揺れ防止の複合機能を持つものに発達する。
ヨットが斜めになっても、下部に大きくヒレが付いていて、バランサーの役目を果たしているものが有名である。
しかし、多分、これは平底だろう。
浅いところでも使える『川船』に近い形状である。
一応、マストらしきものは存在した。
全長30mぐらいだから、弁財船以前のデザインだが千石船(150トン)クラスだろう。
思ったよりも大きいが、沿岸船である。
付近に離島が沢山あるので、そことの物資の運搬で使われているようだった
本格的な外洋には向かないかもしれない。
それ以外にあるのは、丸木舟よりマシなカヌー?みたいだった。
こんな船でいったい何日で倭国に渡れるやら不安だ。
(渡りきれないかも?)
造りからして、食料や水を積み込めば、領民100人が一度に渡れないことは明白だった。
風任せ、運任せでは、人より水や食料が貴重になる。
留守居役だろうか、老人が二人ほど船に残っていたので尋ねることにした。
「こちらはクズ伯爵様です。この船で倭国に渡れますか?」
ユキナの問いかけに老人たちはビックリ仰天したらしく、一人が村にすっ飛んでいった。
もう一人は這いつくばって、『村長からお聞きくだされ』という台詞を言うと、そのまま黙ってしまった。
俺が偉いのか、倭国が拙かったのか、それとも両方か、老人からは何も聞き出せなかった。
取りあえず、ユキナを拝んでいる(ように見える)老人を立たせて船に戻した。
既に立っていたかもしれないが。
待っている間、国の基本的な説明をユキナにもう一度教えてもらった。
クズ頭は短期記憶が直ぐに消えてしまうのだ。
本当はユキナの寝物語がいいのだが、ユキナは寝物語より子作りの方を優先したがるので、それを何とか宥めるのに苦労している。
伯爵領に無事に到着して落ち着くまで妊娠するわけにはいかないのだ。
それで、キスと少しだけの愛撫で我慢してもらっていた。
それだけでも、非接触童貞には夢のような時間である。
ちょっと気の強いユキナが身体を震わせてしがみついてくる姿など、堪らんのだ。
希望者には見せてあげたいくらいである。
見せないけど。
だが、性欲が強い?などと、何処で聞いたのだったか、信じても良さそうだった。
童貞の俺は、女の子が濡れる、というのを初めて教えてもらっていた。
こちらでは『水が出る』と言うのは、いやらしい意味に使われる時があるのだった。
いや、いやらしい意味でなら、
『もうちょっと頑張って』
『そこがいいわ』
『ちゃんと中に入れて』
『きちんと出しなさい』
なども、いやらしく聞くといやらしい。
『スケジュール』
『スケルトン』
『スケベニンゲン』
も、いやらしい。
(俺だけかも?)
中学の授業で、どうしても、
『サセックス州』
などと口に出せなかったいやらしい、いや、恥ずかしい経験がある。
(イーストとウェストがあるが、ウェストサセックスはもっといやらしい)
同級生の女子たちの会話の中に、
『三万個だって!』
などと言う台詞があると、全身がアレになった気がした。
(勿論、耳だよね)
その晩は勝手にフィーバーしたりした。
恥の多い人生でした。
もう少し恥をかいていたいです。
しかし、フィーバーという表現は古いかな。
サタデーナイトとかは、金妻より古いよな。
失楽園よりも古い。
自家発電も古いし『お祭り』も何となくみんなで盛り上がると言うイメージがある。
『ソロプレイ』
だろうか?
しかし、いまいち盛り上がりに欠けるかな。
早いのは嫌われるし。
(それは早漏だぞ)
そう言えば、現代の男子の5人に1人は性的に問題を抱えている、とか言われているが、童貞の100%は性的に問題を抱えていると思う。
女の子はあちこちで経験を重ねているのに、何故、男子には回ってこないのだろうか?
それは、イケメンに集中するからだ。
美少女はイケメンに口説かれるのが当たり前だと思っているし、不細工な女子ほどイケメンが好きだ。
憧れのロリだって、普通にイケメンが好きなのだ。
不倫すら、イケメンが多いではないか!
これは『但しイケメンに限るの法則』であり、アインシュタインがいなくても証明される、絶対的な宇宙の法則である。
イケメンならば多少のことは許される。
多少許されれば、その先も許される。
その先が許されれば、先っぽも許される。
そこまで行けば、全部許されるのだ!
「クズ兄様、聞いてますか?」
「ああ、ユキナか」
「おひとりで、何をそんなに興奮しているのですか?」
「おひとり?」
ああ、また妄想してしまった。
でも、情けない話だが、俺はすっと引き籠もって、ずっと二次元妄想で満足していたのだ。
二次元って、何だったかな?
X軸とY軸だけの世界だっけ?
うーん、色々と思い出せないことが多いな。
二次元妄想とは、現実ではない。
例えて言うならば、朝食で御飯に『なめ茸』をかけて食べながら、
『ホンシメジってこんな味なのだろうか』
と思うくらい現実離れしているのだ。
いくら『なめ茸』が美味いからって、これは悲しすぎる。
その証拠に、見よ、このユキナの丸出しの下半身を!
ここには夢だけではなく、夢のような時間すら存在するのだ!
「恥ずかしいから、いい加減、戻って来てください」
「ユキナは恥ずかしいの?」
「あからさまに見ているクズ兄様が恥ずかしいんです!」
そうか。
そうだったな。
この世界では、こんな格好が普通なのだった。
いつでもそうなのだ。
焦って見なくても、じっくりと見ることはできるのだ。
ぐへへへ。
「もう、兄様はクズです!」
幸い、ユキナは外では発情しないようで、下半身がアレなのを除けば立派な王族の娘に見える。
本当か?
だが、これから船で一緒に何日も過ごすのでは、ちょっと困ることになるのではないかと心配である。
プライバシーなどないだろうし。
プライバシーってなんだったっけ?
重要なもののような気がする。
「そ、それでぇ、代官が管理する直領は代、貴族に管理させる領、国主が年に一度貢ぎ物を送ってくる冊、不定期に貢ぎ物を持って使者が来る朝貢国、それから外交のない遠国に別れます。冊は勝手に王を名乗りますが、後付けでも周王の許可を取っています」
冊封と言うのだろうか。
いわゆる、属国である。
同族で戦争がなく、凶作の時に援助がなされるらしい。
その分、貿易は不平等になったりする。
すると、朝貢国とは同盟国か、貿易相手国だろうか。
「倭国は遠国ですが、一部は周の移民領になっていて、そこがクズ伯爵領です」
「五王がいるんだっけ?」
「確認したものはいませんが、何人も王がいるようです。原始的な部族国家でしょうね」
先進的な部族国家って、どんなのだろうか?
王様とロリ奴隷しかいない国とか?
それじゃ、先進的というよりは、前衛的かな?
超幻想的とか、アンビリバブルとかシュールとか?
王!マイガーとか王ダホーとかかな?
「マイガッ! イッツフルロリスターズ!」
「フル・オブ・スターズの間違いです。降るような星空と掛けているんでしょうが、ロリスターなんて言葉はありませんから!」
「ユキナさん?」
「何です?」
「君は、ドスの効いた声って出せないんだね。拗ねているようにしか聞こえないよ」
どすっ!
「うぅ、冗談なのに…… 脇腹が腹がぁ」
「自業自得です」
「口で言ったことは、口で返してくれないと……」
「えっ、口でなんて、ま、まだ無理です」
「何の話?」
目の前で、海がザバンザバン言っていた。
この海の向こうには、幸せの国が、夢の国が…… あったら良いけどな。
『俺、ユキナとふたりで幸せになるんだ!』
とかは、死亡フラグだろうな。
フラグって何だっけ?
「倭国人が、戦争好きじゃなければいいんだが」
「亜人の国だそうです」
「そうだったね。でも、亜人と獣人の違いが良くわからないんだ」
「亜人は人間と獣人との混血です。何故かはわかりませんが、獣人同士では同じ人種でないと子供は産まれません」
「亜人と獣人なら大丈夫なの?」
「はい、亜人はどの獣人とも子作りができると聞いています。ユキナは嫌ですけど」
「ハッキリしてないのか?」
「ええ、亜人は何処の国でも奴隷ですから、亜人との子作りを拒否している種族もいます。大体は遠国になるのですが」
ユキナの母は猫族だったか。
遠国になるのだろう。
だが、ユキナは混血だから、猫族にも奴隷扱いされるのだ。
帰る国は、ないとも言える。
「倭国は遠国ですが亜人ばかりの国だそうです。迫害された亜人たちで作られたとも言われていますが、猿族が人間と交わりすぎて純血種がいなくなったのではないかとも考えられています」
「もし後者なら、文明が遅れているのはおかしいと思わないか」
「そうですね。周王国と関係を持ちたくないのもおかしいです。やはり、迫害されて逃げていった亜人たちの国でしょうか」
「何だか敵意に満ちていそうだなあ」
「それでも、混血を嫌う獣人の国よりはマシだと思います」
ユキナは混血のせいで奴隷階級なのに、それでも獣人の純血種が支配する国の方が嫌みたいだった。
奴隷制の上に、人種差別ってどれだけひどいのだろうか。
想像できないなあ。
始皇帝や漢王朝が生まれていないのも、人種差別により人口と国力の集中ができないからだろうか。
匈奴の方が強かったしなあ。
何処より強かったんだっけ?
「ユキナは奴隷ですが、クズ兄様の妹で女です。どれだけ恵まれているか、すぐにわかりますよ」
ユキナはそう言って、難民が住んでいると言われている辺りをジッと見つめてから、ブルッと身体を震わせた。
下半身を露出している状態に目が慣れてしまったが、短衣を重ね着しても潮風は寒いのかもしれない。
マントを着せたいのだが、奴隷だから禁止されている。
毛布も馬車の中や屋内でないとあからさまであり、かけられない。
俺はユキナを抱きしめて、自分のマントで下半身を覆ってあげた。
「温かいです。クズ兄様は優しすぎます。奴隷女に、そんな気遣いをなさる方はおりませんよ」
「伯爵領なら、俺が法律を変えてもいいんじゃないか?」
「いけません。朝貢国でさえ周王朝の法を尊重しているのです。伯爵領でそんなことをしたら反逆だと思われます」
奴隷の過酷さを俺はわかっていないのだが、ユキナもわかっていないことがある。。
俺は周王朝に反逆するどころか、倒すのが目的なのである。
その後は、全世界制覇するのだ。
けれども、そんなことが可能なら、アレクサンダーもチンギス・ハーンもアドルフ・ヒトラーもユリアン・ミ○ツも苦労はしないだろう。
誰だっけ?
だが、それこそが処刑されたのにもう一度チャンスを与えてくれた神様だか何だかの命令である。(多分)
この世界でユキナと楽しく生きるだけだったら、神様に見捨てられて殺されるか、殺される事態が起きても助けてもらえないだろう。
不可能でも一生懸命やってれば、再び殺されても助けてもらえるかもしれないではないか。
クズだからこそ、精一杯やっているぐらいしないと、いつどんなときに殺されてデッドエンドにされるかわからないのだ。
ユキナと暮らし続けたい。
この気持ちだけで頑張っているのだから、ユキナに逃げたら、きっと人生が終わりのような気がするのだ。
とっくに終わってるって?
いや、とにかく生き直すのだ。
そうでないと、ギャルゲーももうできない。
あれ、これがギャルゲーだったかな?
何かのゲームで『子作り』しないと天下統一できない物があったような気がする。
何故、今、そんなことを思い出すのだろう?
人生はギャルゲーなどではない。
でも、ギャルゲーだったらいいのに……
いや、大きな括りではギャルゲーかもしれないぞ。
女を支配するか、支配されるか。
女を愛するか、愛されるか。
女とやるか、やられるか。
あれ、何か変だな?
『愛する』の反対語は『愛される』じゃないよな。
でも、『支配する』の反対語は『支配される』のような気がする。
反対語ではなくて、同義語ではないのか?
まったく、クズ頭は使えなくて困る。
とはいえ、今はまだまだ伯爵領にもたどり着いていない序盤なのだから、世界征服はユキナには内緒である。
それより、周王朝を倒すまでにユキナが生きているかもわからないのだ。
1年が30日という世界のせいである。
俺の感覚では4年後にユキナは60歳。
孫や曾孫に囲まれて寿命を迎えても、俺は神のご加護か呪いによって二十歳前後だろう。
激しい愛情も性欲も、俺の1日がユキナにとっては12日に相当するのであれば、仕方がないのである。
ちょっと、嬉しいような気もするけど、1日12回とかは不可能だと思う。
てか、死ぬ。
だが、ユキナは頭の何処かで不滅の存在のような気がしている。
俺が生きている限り死んだりしないと、理不尽な想いがあることも事実だった。
でも、今は悩んだりしないでクズ人間らしく、若く美しいユキナとの日々を堪能しよう。
二度と味わえない可能性だってあるのだ。
この素晴らしいお尻とかだ。
「兄様、外では駄目ですよ。我慢できなくなります」
「ちょっとだけ」
「もう、ひどい人! 毎晩抱いてって言ってるのに、こんなとこで、ああん、ほんとに駄目!」
ぱあーん。
はい、紅葉マークいただきました。
奴隷が主人にこんなことをしていいのか?
プレイ?
ご褒美?
それなら、仕方がないか。
その後、村長らしき人物が助役を連れて現れた。
這いつくばって挨拶し、その後、紅葉マークではなく主に俺のマントに隠されたユキナの色っぽい姿を気にしていた。
マントの中で何をしているかは彼等には見えないからだ。
ユキナが少しモジモジする。
本当は何もしていない。
細い腰に手を回しているだけだ。
だけど、今夜は彼らも大変なことだろう。
フィーバーするかも?
「難民か奴隷を連れていきます。できれば100人程度は連れていきたいですねぇ」
村長は渋い顔をした。
40歳くらいだろうか。
大人は保守的なもので冒険はしたがらないものだ。
「船には船員が10名、客は大体50名までしか乗れません」
「もう一声、かしら?」
俺はユキナに頷いた。
村長は俺が交渉するものと勘違いしていた。
俺は美少女以外には『コミュ障』なのである。
「無理なものは無理なんです。食料や水が結構嵩張るのですよ」
真面目な人らしかった。
俺はマントに隠れたユキナの下半身を晒した。
ちょっとした間があった。
「だから、本当に無理なんです! 行き先は倭国なんでしょう?」
動揺していた。
村長より助役はあからさまに動揺していた。
「水と食料は途中で調達し、補給しましょう。経費は伯爵様が持ちます」
「で、では、10歳以下の子供は半分としましょう」
「6歳以下は?」
「幼児に船旅は厳しいかと……」
俺はユキナをマントで隠した。
「だから…… ですねえ…… 命懸けの船旅なんですよ。幼児までは無理です」
「そうですよねぇ……」
ユキナが納得しかけた。
俺はユキナの脇腹をつまんだ。
「きゃはぁ!」
ユキナは涙目で睨んできたが、俺の顔を見て気持ちを切り替えた。
流石である。
「ろ、6歳以下の幼児は母親の財産ですよ。引き離すのはどうかと思います!」
俺は再びユキナを晒した。
神々しい女体には効果があった。
それとも紋章の位置か?
(紋章の下かも?)
「は、はい、仕方がありませんな。3分の1でどうでしょうか?」
それで手を打つことにした。
「もう! 兄様はクズです!」
暫くユキナに文句を言われ続けるかもしれない。
しかし、使える手を使わない手はないのだ。
領民100人は、2度にわけて送るしかないようである。
一度成功すれば、村長の気が変わるかもしれない。
最も、一度失敗すれば、俺たちは死んでいるだろう。
でも、11歳は大人なのだ。
ならOKなのだ!
きゃほうぃ!
(クズだな!)
何が?
そう言えば、電車とかの大人料金は何歳からだっけ?
R15?
R18?
PG12?
何だっけ、それ?
いやいや、学割とかあったよな。
すると、学生じゃない女の子は11歳でもOKなのか?
義務教育って、やっぱり凄いかも?
(義務教育は関係ないぞ)
伯爵を送り届けるのだから船旅は公務になるが、代官の承認があるとは言え、流石に命懸けで倭国に渡らないといけないというのは、平民も大変だ。
せめて金くらいはケチらずに払おうと思った。
けれど、最初から経費は俺が払わなければならないらしい。
国家予算は出ないのだった。
それで、王は金貨を100枚もくれたんだと思う。
叔父上は気前がいいと思ってたのだが、違ったようである。
人件費は船員10名が1日5銭で15日間、計750銭。
プラスして女奴隷を5人。(性奴隷だと? 俺の分は? ユキナ? そうか、そうだよな)
更に酒が600本。(平均で1銭だが、何日分なんだ?)
これが船の経費だった。
でも、第2次移民団の分も合わせて2往復で金貨3枚、ボーナス込みの先払いとした。
どうせ失敗したら、金を持っていても仕方がないのだから。
気前はいいと思わせた方が、この先もやりやすいだろう。
食料が子供も入れて約70人の4銭が15日分で4200銭。
子供割引でも金貨1枚が2往復分だから、先払いで金貨2枚。
水瓶、水樽に小間物とか日用品、道具を合わせて往復で金貨2枚である。
それが2往復だから金貨4枚。
予想に反して、村長はなんだかんだ言いながら、俺の手から金貨を次々に引き抜いていった。
「なんだぁかんだぁ」
「おい!」
しかし、算定はそう大きくは間違っていないようだ。
伯爵に対して詐欺行為など行わないだろう。
いい人そうだし。
若禿は長寿の証拠だしな。
金貨は余分が出ても船員たちの成功報酬である。
酒手というのか、景気づけらしい。
いつの時代も海というのは命懸けである。
ましてや、この時代に倭国に渡るとは、正気ではできないそうだ。
山で吹雪いたら終わり、海で時化ったらおしまい、なのだそうである。
せめて酒ぐらいは飲みたい、ということらしい。
(女は?)
日本人にはわからないが、外国人って海沿いや山の中に住むのは変わり者らしい。
農耕文明になって川沿いは仕方がないのだが、海や山での生活は死と隣り合わせなのだそうだ。
だから、こんな漁村みたいなところでも、あまり漁には出ないのだろう。
確かに、内陸部の大都市って外国では当たり前である。
別途、船の補償金として金貨5枚を預けて欲しいとのことだった。
無事に航海が終われば返金するという。
敷金みたいなもので、帆布とかオールとか修繕費とか、やはりなんだかんだと引かれることだろう。
俺は追加で保存性の良い酒と穀物を金貨5枚分頼んだ。
特に植物の種子はできるだけ集めてもらった。
無事に伯爵領に着いてから飢え死にするのも馬鹿みたいだからだ。
代官にも話は通してある。
ピンハネされると困るので、金貨1枚は事前に謝礼として代官に渡しておいた。
『ケチくさい奴』
そう思われただけだったが。
どうも、あの手合いは苦手だった。
ユキナの言う悪人面である。
どうせ、村長に払った金貨の一部は着服してるだろう。
倭国では銅銭の方が価値があるらしいので、事前に首都で金貨20枚分を銅銭に交換済みである。
何となくだが、倭国には金の方が沢山ありそうではないか?
まあ、交渉ごとは俺ではなく、殆どユキナが俺の意を汲んでというか、俺の意以上にやってくれている。
奴隷の細かい事情は、まだ教えてくれない。
難しいことも多いらしい。
それで領民はいつ船に到着するのかを村長に聞かれて、その領民をこれから選ぶと言ったら少し呆れているようだった。
「まったく、伯爵様は大物ですな」
「任命されたばかりの伯爵ですが、本当は先王の息子、王子様なんですよ」
「そうなんですか!」
村長は納得というか、気の毒に思っているようだった。
まあ、村長はいいやつで、領民選びにも付き合ってくれた。
しかも、労働奴隷を5人貸してくれる。
(おばさんだったけど)
「ありゃ、こんなにさ若いのに伯爵様かいな?」
「てえしたもんだ」
おばさんと言うのは、おばさんと言う身分があるようだった。
亜人だけでなく、人間の奴隷もいる。
とは言え、おばさんでも奴隷は丸出しだった。
(描写はしないぞ)
それで、穀物や野菜を買わされ、炭を買わされ、鋳掛け屋?で大鍋まで買わされた。
鋳造の青銅器である。
一緒にぞろぞろと歩いて村と砂浜の間にある難民区画まで行くと、中央の広場でおばさんたちは粥を作り始め、同時に難民の主だった者に声をかけて、面接に呼んでくれた。
おばさん奴隷で良かった。
俺とユキナだけでは警戒して誰も来なかっただろう。
特に、先に粥を振る舞うなどは、思いつきもしなかった。
感謝である。
俺の尻は触らないで欲しかったが。
「ああ、若返っただあ」
「よしよし、次はおらぁだ」
「次はおらだよ」
やめて!
集まってきた難民の殆どは全裸に近く、粗末だが貫頭衣を着ている村人の方が上品に見えた。
栄養状態も悪い。
俺とユキナは相談して、読み書きができる者と、計算ができる者、それに元職人を先に面接したが、何とか合格したのは5名だった。
家族を入れて22名である。
しかし、こりゃ大変な計算違いである。
何となく、男の領民を考えていたのだ。
開拓や防衛に必要な男たちを80人くらい揃えて、女は食事や小間使いに20人くらい揃えればいいだろうと簡単に考えていた。
欲望の処理だって、20人もいれば足りるだろうとか……
(良く知らないから、良く考えなかった)
考えてみれば、領民を増やしてもらうには女子供も必要である。
開拓に時間がかかると、すぐに世代交代してしまう可能性だってあるからだ。
ここは、発想を転換して、ありのままの家族形態で移民させよう。
ありのままとは言え、こちらではなくあちらのありのままで、妻はひとりだけにしてもらうのだ。
第1次移民団は男を多めにしなければならないが、第2次まで待てる女子供を振り分けてもらう。
一番年配の者は30代後半ぐらいの牛族の獣人で、木工が専門だったが村が飢饉になり、ここまで流れてきたそうだ。
(獣人を初めて見た。全身毛むくじゃらで筋肉質であり、角まではえていた。怖そうだった)
その妻は俗に言う次婚(13歳ぐらいで初婚、次婚とは25歳で奴隷解放された後の結婚)で、10歳ぐらいの子供が二人いた。
(獣人を初めて見た。全身が柔らかそうなモフモフで、可愛い角を持ち、偉い美人である。気は強そうだった)
妻も牛族なので、実はこの親子は奴隷ではない。
本当に難民なのだ。
獣人は体毛があるので、いやらしくない。
いや、正確には肝心な部分は体毛で隠されていた。
だが、良く考えると全裸のような気がする。
歩くとお尻が揺れたりするのだ。
亜人が丸出しなので、感覚が麻痺しているのかもしれない。
次に選ぶのは、農業ができる者だが、30歳以下で特に息子がいる者を優先した。
女の子はできるだけ第2次にまわしてもらったが、それでも女の子が多い。
男の子は労働力として貴族や村に買われてしまうのだろう。
補充も頻繁になると言うことは、労働条件が過酷なのだと思う。
森へ狩りに行かせたりするのだろうか?
ここまでは全部、妻帯者?で選んだ。
ややこしいので、奴隷でも妻とカウントしておく。
固定しない妻を妻と呼ぶべきかは個人の考え方だろう。
『とりあえず、妻はひとりにつきひとりだけだ』
などと言っても通じそうにない。
そこへ、最初の方で合格した『由』という名の男が見かねてか、通訳を始めた。
(言語は同じ日本語なのだが、妄想かもしれない)
ヨシはどう見ても人間族に見えた。
(どうも、前科者らしいが、凶暴そうには見えないし、有能だった)
ヨシが説明すると驚いたことに、残された妻らしき女たちは、残っている男たちのグループに自然と溶け込んでしまった。
雑婚の文化と言うのは侮れないものである。
良くわからん。
それから、船長の言っていた性奴隷を集めた。
人選を船長に任せるとどうなるか予想ができないからだ。
俺にはわからない経済事情や人間関係を持ち込まれても困るのである。
そもそも、奴隷の種類とか役割とか良くわからなかったのだが、ユキナはやはり教えてくれなかった。
『私とちゃんとしないと駄目』
だ、そうである。
驚いたことに、性奴隷は10歳ぐらいから30歳ぐらいまで20人も集まっていた。
俺はどうして良いのかわからないので、ここもヨシとユキナに任せて逃げた。
ユキナは13歳以下の性奴隷を5人選び、15歳くらいの妖艶な?性奴隷をひとり追加した。
彼女は栗鼠族という南方の遠国の獣人で、周国では珍しいらしい。
どえらい体型をしている。
まあ、良くわからないが性奴隷と言うだけあって、15歳ぐらいから上は全部妖艶だった。
ヨシが説明すると、誰も同行を拒否しなかった。
これも予想だが、奴隷階級のお相手をするのは奴隷であり、上の階級のお相手をするのが性奴隷なのだろう。
それでも、領民にはなれないから、今回はチャンスなのだと思う。
俺は横目で性奴隷なる者たちを気にしながらも、おばさんたちが粥を作るのを手伝い、粗末な器を持って集まる難民全員に『お替わり』を振る舞ってやり過ごした。
更に移民が決まった男たちには一番粗末な貫頭衣を配った。
(3枚1組のやつだった)
男たちは子供も含めて感激していた。
権利がある男たちは、俺の領民としての身分が与えられるそうだ。
理屈はわからないが、奴隷ではなくなるという。
違う?
奴隷民?
うーん、良くわからない。
農奴みたいなものだろうか?
畑を与えられるまで開拓するそうだ。
それでも、奴隷より良いらしい。
男の子たちも、親が領民になれば自分たちが独立するチャンスがくるのだという。
ユキナはもっぱら女性相手で、年配?の2人には長衣を着せ、若い妻たちには短衣を配り、勿論、性奴隷たちにも短衣を着させていた。
子供たちも女の子は殆ど全員が短衣を着せられた。
子供たちは瞳がキラキラしていた。
貧しい生活なのに不思議だった。
それに女の子は若いうち肌がきれいだ。
12歳から25歳くらいまでは、張りと照りが違うものだった。
清潔にして、栄養が行き届けば更に良くなるだろう。
この辺はダラダラと話を進めているが、実はハイライトである。
何しろ、年頃の女の子たちが沢山集まって、下半身丸出しで、きゃあきゃあやっている姿を見放題なのである。
顔を見ている暇すらない。
歩いたり立ち止まったりしゃがんだりと、何十人といて、それは凄い光景である。
死ぬまでに一度は見たい名シーンだが、死ぬまで見ることはできないと思う。
プレ○ボーイ誌の社長のパーティーに呼ばれても、こんなシーンは見られないだろう。
(呼ばれたことないけど)
天国か!
「何を熱心に見てるんだ?」
「女子だか?」
「もしかして、おったてて……」
「どれどれ、どれくらいだぁ……」
きゃわー!
俺はおばさんたちの魔の手から逃げ回った。
まだ、ユキナにも見せていないのに!
(見られているかも?)
うおっほん!
で、俺の求人に応じると言うことは、ここで難民をしているより希望があると言うことだろう。
俺にはその奴隷とか難民の区分が良くわからなかった。
紋章をまじまじと見るわけにはいかないからだ。
ただ、獣人と亜人の区別はついた。
獣人は全身に毛が生えているが、亜人は角や耳や尻尾などに獣人の名残があるだけで、毛が生えていないのである。
頭髪と眉毛ぐらいで、腋毛や恥毛もない。
ユキナだけが特別ではなかったのだ。
村長が来て、『明日の朝もう一度粥を配る』と言って、一度全員を解散させた。
おばさんたちは労働奴隷?なので、謝礼はいらないそうだ。
言われてみると、ボロの衣服は元々短衣だったと見える。
村長が俺から経費を既に(ガッポリと)もらっているので、そこから賄うそうだ。
村長は性奴隷を確認すると、
『今夜に必要なら何人か連れて行け』
みたいなことを言っていたが、丁寧にお断りしておいた。
別に、ユキナが『どすっ』の構えをしていたからではない。
あれは、もの凄く痛いのだ。
代官の邸(と言う程のものではないが)に帰る時、ユキナは例の栗鼠族の性奴隷を連れてきた。
俺たちは代官の邸の離れのひとつをあてがわれていた。
そこに性奴隷を連れて帰っても咎められたりしなかった。
代官には年頃のバカ息子(に決まっている)が二人もいて、性奴隷らしき女が出入りしていた。
今も帰りに何人かと擦れ違い、別の何人かが訪れてくるのを目撃した。
これで、夜昼の区別なく嬌声?が漏れ聞こえてくる原因が理解できた。
だから、俺たちが邸の使用人とかに咎められることはなかった。
部屋に戻って、少しだけ居心地の悪い時間を過ごした。
3人でいると落ち着かないのだ。
「いやあ、今日は大変だった。馬車に一日中座って『お尻が痛い』なんて文句が懐かしいくらいだね」
「流石はクズ兄様ですねえ。まだ、今日は終わってません」
「ふえっ?」
その後、ユキナが俺に言ったことは些細なことだが、謎でもあった。
「彼女の名前は『モル』です。伯爵閣下、どうぞ彼女にお茶を淹れてくるよう命じてください」
「モル。お茶をお願いできるか」
「かしこまりました」
俺はユキナの言いなりに言ってみると、モルが出て行った。
炊事場は共同だが、もう夕食は終えている頃だから使えるだろう。
俺たちの夕食はさっきのお粥で十分である。
酒とお茶は、人類の文明がどの辺りでも、必ず存在するものだから、モルを心配しなくても大丈夫である。
ひょっとしたらバカ息子たちに……
ああ、入れ替わりに来た性奴隷たちは、代官の分かもしれない。
「ユキナ、モルにはいったい?」
「兄様、お茶を飲んでからにしましょう」
「後でちゃんと教えてくれるんだろうな」
「まあ、クズ兄様がユキナを優先してくれたらですよ」
「いや、俺だって少しぐらいは分別というか、ユキナを愛しているのは知ってるだろう?」
「愛してはくれてませんけど? クズですね」
「そ、それは領地に着くまでは何があるかわからないから、安全のためにだよ。窮地に立った時にユキナが妊娠中とか、俺も困るんだよ」
「流石にクズ兄様は唐変木ですね。崖っぷちの女のことなど何もわからないのですから」
「何のことなんだ?」
「すぐにモルが教えてくれますよ」
何だか、ユキナは面白そうだが、同時に不機嫌でもあった。
それに唐変木って言葉は、この時代に変じゃないか?
唐は7世紀だったか。
「私も、お人好しでしたね」
などと、ユキナは訳のわからないことを言っていた。
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