表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
野ばらの君  作者: すずひめ
光の章
PR
6/16

よぎる陰

「すごいな。皆、あなたを頼りにしているんですね」

 一日じゅう薬の調合をしている彼女に、ある日そう言ってみた。すると彼女はふと匙を掻き回す手を止めて、顔を俯けた。

「……そうじゃなきゃ私だって生きられないのよ、こんなところで」

 その声はとても暗く、僕はどきりとした。

 魔女という噂、彼女を訪れる客人の態度――どういう経緯で彼女がこのような辺鄙な場所で暮らしているのか、僕は改めてその考えに及んで苦しくなった。窓際の花が、そっと首をもたげていた。

 僕は顔を上げた。

「こんなところ、だなんて。ここだからこそ、僕はあなたに会いに来られるのです。それに森の中の野ばらも摘んで来られる」

 彼女は伏し目がちに僕を見た。漆黒の瞳がかすかに揺れたような気がしたが、その視線はすぐに逸らされてしまった。

「……そうね」

 しかしそれでも、彼女の唇にはほんのわずかな微笑みが浮かんでいた。その表情ははっとするほど美しく、僕は思わず吸い込まれそうになった。

 少しでも彼女が笑ってくれるのなら、僕はいつまでも、何度でもここへ来よう。心の中で、小さくそう誓った。



 僕の屋敷といえば、相変わらず暗い雰囲気に包まれていた。

 隣の領主からは密書が届き、それを見た父上は渋い表情をした。

「やはりあの旅人の言ったとおり、隣の領主は領地拡大を目論んでいるようだ。互いの領地の共同管理なぞを申し出てきた。うまいことを言って、期を見てこちらの領地を自分のものにするつもりだろう」

 そして外出しようとする僕に向き直った。

「よいか息子よ。このところどこかへ出かけているようだが、隣の領地にはあまり近付かぬようにな」

 僕は若干の後ろめたさを感じながらも、隣の領地にある彼女の家へと今日も向かうのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ