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昼休み。
クラスメイトは、昼飯を早々に食べ終え「よし!ムカデの練習だ!」と息巻いて教室を出て行った。俺もいかなければならなかったのだが、後ろの両生類が俺のズボンの裾を噛みついては話さなかった。教室が、俺一人になってからしばらくして、殿はしゃべり始めた。
「たぶん、しばらくすると教室が揺れると思われる」
殿は言った。
「なんでだよ」
俺は聞いた。
「ムカデたちが動くからに決まっているだろ」
殿は言った。
「そうなの?てか、体育祭の日にムカデがくるんじゃなかったの?」
俺は言った。
「誰が、そんな悠長なことをいったんだ。わしは、言ってないぞ。奴らは、今すぐにでもやってくるぞ」
殿が言った、瞬間、教室が揺れた。揺れの感じから察するに震度3くらいであると俺は思った。
「ほらな。言った通りだ。もう時間がない」
殿は真剣な顔をして言った。俺は、少々動揺を隠せなかった。
「さあ早く!わしの背中にまたがるんじゃ!」
殿は、鋭い目つきで自らの背中を見た。当たり前であるが俺は、きょとんと沈黙してしまった。いきなり、なにを言うかと思えば。おまえの背中に乗れば、ムカデの脅威からこの学校を守れると。俺に浦島太郎にでもなれと言うのか。いや、浦島太郎は世界を救ってはいないか。浦島太郎が救ったのは亀の命か。なんて、わけのわからない、いつもは考えないことが頭を駆け巡った。
「乗ると……どうなるんだ」
俺は、おそるおそる聞いた。
「乗ればわかる」
殿の顔は自信満々だった。
「わかった。乗ってみるか」
俺は、座っていた椅子から立ち上がり、机の下に椅子をしまった。そして、深呼吸を一回して、殿の甲羅の上に馬にまたがるような格好でまたがった、その瞬間だった。目線の先にあった教室のドアがガラガラと開いた。図書室から帰ってきたのか、その女の子は借りてきた本を大事そうに抱えていた。桜だった。
「あッ」とお互いが言った瞬間、俺は教室から姿を消したのだった。
消える瞬間、桜もムカデの練習には参加していなかったのかと思ったのだった。