5
次の日。
俺の高校生活における友達は猫以外にもう一人いる。
大変物静かな女の子。いや、正確にはよくしゃべるのかもしれない。しかし、声があまりにも小さいせいかなにを言っているのかよくわからないのである。声が小さい人はいるが、あれはなぜなんだろうか。一方で、アホみたいに声の大きい女の子もいる。下品な笑い方をする子もいる。なんでなんだろうか。
「よう」俺は話しかけた。
「お、おはよう……」
桜は、俺の列の一番前の席にいた。彼女曰く、身長が低いのと視力があまりよくないとの理由から一番前の席に座らないと黒板が見えないからといつも手を挙げて、席替えのくじを引く前に席が決定している。しかし、本音は、2列目くらいが良いらしい。でも、それは我がクラスでは認められないので、後ろになるよりは、と仕方なく一番前の席を確保しているのであった。ただ、俺が思うにそこはそこで、一番端の黒板の文字は見えないのではないかと思っているのであった。
「体育祭は、個人競技で何にでるんだ?」
俺は聞いた。
「えっと……パン食い競走」
なんと。パン食い競走とは。
「へぇ。パン食い競走か。意外だ」
「だって……どうせ、どれに出ても私はビリ確定しているし。運動神経がないから。だったら、ビリでもなにか有意義な種目に出たくて。パン食い競走なら、ビリでもパンが貰えるし」
彼女は、ウェリントン型の黒ぶちメガネのフレームの真ん中をクイっとさせ、自慢げに誇った。それは、「良いアイデアでしょ、えっへん」と言いたそうな雰囲気であった。
「でも残ってるのうぐいすパンかもよ」
俺は、ちょっといたずらっぽく言ってやった。
「大丈夫。私、うぐいすパン大好き。むしろ、クリームパンが残らないことを祈ってるの」
趣味がおばさん臭い。ちなみに、俺はクリームパン派であった。彼女の健闘を心から祈ったのであった。
たわいない会話をした俺は、自分の席へと戻った。
相変わらず、俺の後ろには大きい両生類がいた。どうやら、寝ているらしかったが、俺が席に座った瞬間起きてきた。大勢の人前ではしゃべらないらしい。俺のうしろで、首を円をかくように回していた。ファンファン、チュウチュウ言いそうである。
「体育祭は雨降らないかな」とぼそっと独り言を窓の外を見ながらつぶやくと、後ろの両生類は、俺の左足をつついた。