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正直に言おう。俺は驚いた。まさか、亀がしゃべるとは思ってもいなかった。
「なんだ、その不思議な者を見る目は」
「いや、おまえ……なんでしゃべっているんだ。亀のくせに」
「はぁ?亀?あんな両生類と一緒にせんでくれ。確かに、なんかちょっと視点が低いなと思ったり、体が重いなと思ったことはあったさ。しかし、そんな亀なんて……ほんまや!?」
殿は、自分の姿を知らなかったらしい。いや、今の今まで気がつかなかったこと事態が奇跡ではないだろうか。
「なんだ、おまえ気づいてなかったのか。自分が亀であるということを。というか、その口ぶりだと、リクガメの姿はおまえの本当の姿ではないんだな?」
「ああ、そうだそうだ。わしは、亀と言うことは断じてない。そうか亀になっていたのか……」
殿は少し考え事をしているようだった。
「まぁ、そんな細かいことは良い」
いや、結構大事ではないのか。
「おまえさん。近々悪いことが起きるぞ。」
殿は、そのつぶらな瞳で俺を見つめながら野太い声で忠告してきた。
「いや、そんな目で言われても……」
「よし、ちゃんと聞け。なにやらこの辺りで不吉な変化が起こる予兆を感じた。そうだな……なにか動物の動きを集団で真似ることをしたことはないか」
いきなり、言われて俺は困惑した。そんなことをした覚えはと、考えたがすぐに思い当たる節を思いついた。
「あ。してるなぁ。ムカデ競走」
「それだな。ムカデの動きを真似して大きなムカデに似せようとしたせいで、ムカデの大群がここを目指してきているみたいだ」
「ほう。ってなんでそんなことわかるんだよ」
「それは……」
殿がしゃべろうとした瞬間、教室のドアが開いた。どうやら、教室に忘れ物を取りにきた女子だった。そして、殿を見るとそっぽを向いている。
「ああー殿独り占めにしてる。いいなぁ」
女子は言った。
「いや、そうでもないよ」
俺は、冷静に返した。そして、つぎの瞬間、殿は俺のスネに頭突きをし、俺は「痛ッ!!」と大きな声をだし、殿を睨みつけた、殿は、つぶらな瞳でこっちを見ているだけであった。
「あらあら。お熱いみたい。邪魔したわね。じゃ」
「とにかく、そのムカデ競走とやらをなんとかして、中止させるんだ」
やっぱり、殿の瞳はつぶらであった。