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所変わって、教室。
この教室には変な生き物がいる。カメである。思い出すこと小学生。小学校では、生物の飼育による学びの一環として、生き物を教室で飼うということをしていた。それを、ある時誰かが思い出したのか「教室で生き物を飼おうぜ!」と息巻いたのだ。俺は、あまりそのようなクラス行事に積極的ではないので、知らず知らずのうちに決まっていたのである。
さて、何を飼おうか悩んだ連中は、とりあえずペットショップに行ったらしい(猫曰く)。しかし、お目当ての動物はいなかったらしく泣く泣く帰ったという。そして、その動物飼育隊の面々は失意の中、近所の公園で作戦会議をしていると、なんと、草むらの中からカメがのっそり、のっそりと出てきたという。しかも、それは単なるミドリガメの類いではなく、なんとリクガメだったのだ。この生物を見た瞬間「これだ!」と連中が叫んだのは言うまでもない。(なにがこれだ!なのだろうか俺には理解できなかった)
そして、その亀を教室に連れて行くと、亀は縄張りを教室の後方と定めたのだった。授業中は、基本的に窓際の隅っこでゆったりしていらっしゃる。名前については、みんな様々な名前で初めは呼んでいた。ジョン、亀吉、亀太郎、カメカメ、タイフーン、などなど。みんな思い思いに言っていたが、当の本人は少々困っていた様子であったのは、俺でもわかった。その混乱を知った担任は「名前を統一する!今日からあの亀の名前は殿である!」と高らかに宣言したのであった。ブーイングの嵐であったが、その後定着した。
高校三年。春。これから進路なりなんあり考えないといけないのだろうけど、この新しい仲間をみんな喜んでいた。
ちなみに、俺はその亀の前の席にいる。つまり、教室後方窓際の席であり、教室の聖域である。
殿は、なんでも食べた。雑食であった。クラスの馬鹿がスマートフォンを食べさせたことがあり、一同の顔が青ざめたが、次の日に俺の椅子の近くに、色が少々緑がかったスマートフォンが発見され一同はとりあえず安堵したこともあった。ちなみに、俺はたまごボーロをひとつぶひとつぶあげるのが個人的な最近のマイブームとなっている。
殿は、俺をつぶらな瞳で俺を見ていた。どうやら、たまごボーロをほしがっているようだった。