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花の匂いに酔うまで  作者: ニク
日常と非日常
8/8

3.5と4.5と5.5でside槙

中途半端なところですが、槙side入れます

ほんとは次の次くらいで入れたらちょうどいんですけど…


 夏樹の視線に押し出されるようにエデンを出た僕はそのまま調理場に向かった。

 緑茶の茶葉を取ってくるためである。

 植物は何においても、第一には新鮮さが求められる。

 それがわかるから、各地から取り寄せた食品は取り立てに近い状態に保っている。

 そうなると一気に多くの食品を保管しなければならない。

 新条家の冷蔵庫、および冷凍庫は特大だ。

「槙様」

 階段の一段目を上ったところで呼び止められた。

「英一様から御連絡がございます。明後日にアイゲイル王国に着くようにとのことです」

 ゆるふわな淡い金髪、深い碧眼。俗世間では天使と言われる容貌。

 夏樹よりも数センチ短い髪を持つ僕専属の執事。彼は綺麗な角度で腰を折っている。

 それを手で制す。

 敬礼の体勢は止めてくれたが、それでもどこか堅苦しさは残ったまま。

「わかった。明日和国を立つよ。書斎の机の引き出しにアイゲイルの書類があるから、準備お願いできるかな。鍵はいつもの場所だよ」

「承知しました。それでは明日の午前九時でよろしいですか?」

 アイゲイルまでは九時間ほどかかる。

 自家用機で行くこと、向こうとの時差を考える。

 多少時間の誤差は生じるが、着陸は夕方だろう。疲れをとるためにもホテルには早めに着きたいものだ。

「…うん。それで手配しといて。それと、柳水円堂によってもいい?」

「手土産ですか?」

「そう。あそこの和菓子は美味しいからね」

 和菓子が有名な柳水円堂。実は水瀬家が経営している。

 繊細な味わいと美麗な装飾が売りの実力派。

 人気は口コミで広がり、今や和国一を争うほどの名門製菓店である。

「そうですね。きっと喜ばれると思いますよ」

 僕が顔を緩めて語ると、リュリもつられたように綻ばせた。

「では、そのようにしておきますね」

 そう言うと、先程より深い御辞儀。

「…リュリ、直らないね。それ。厳格すぎるよ」

「槙様は新条家の後取りでございます故」

 当然のこと。そう言うリュリに悲しさを覚えた。

「僕はまだ新条を継いだわけじゃないよ。昔のように接してほしい」

 リュリは困ったように笑みを浮かべる。

「僕がリュリに敬語で話したら、リュリはどう思う?」

「………善処します」

「その言葉、しっかり覚えておくからね」

 リュリは一礼し、槙はリュリの肩に手を置くと、背を背け、歩き出した。

 




*




 幅の広い階段をのぼる。

 最上に上がると、左右斜めに枝分かれした画廊が続く。 右に曲がり、長い廊下を行くと一室に着く。

 他と何らかわらない外観の扉。

 だが、扉を開けると、厨房の面目が一面に現れる。

 中は広々とした空間になっており、半円状のステンレス性のシンクが存在を博している。

 このシンクは自慢で、スズとの合金である。しかも高純度のため、高耐食。輝かしい限りだ。

 常に磨く必用があることが重労働だが、そこは料理長が嬉嬉として引き受けてくれた。

 そんなキッチンを通りすぎて、厨房の中のある一点に行く。

 見ようによっては小さな離れに見える、大きな保存庫。

 すぐ横にある操作ボタンを押し、緑茶が保存されている籠に働きかける。品名を入力すると、ロボットが目的のものを取りに行ってくれる仕組みだ。

 自ら冷蔵室兼冷凍室に入るなんてことは、命知らずであるため、誰もしない。

 必用な分量の茶葉を取りだして、ロボットに戻るように指示する。

 それは保存状態が良いため色が鮮やかだった。心なしか、瑞瑞しく見える。どれも厳選されたものたちばかりだ。

 今日はその中から煎茶を選んだ。程よい渋味があり、夏樹が最も好きなお茶だ。

 気分次第で玉露も淹れたりする。こちらは甘味があり、飲みやすい。

 僕は煎茶より玉露派だ。

 それでも、ここにあるものは煎茶が八割を占める。やはり、夏樹を思ってのことなのである。

(喜んでくれるでしょうか…)

 夏樹のはにかむ笑みが脳裏に写り、自然と笑みが漏れた。

 靄がかかり始めた夏樹を消さないように、颯爽とした足取りで自室に向かう。

 多少重量感のある扉を閉め、来た道と反対方向を進んで行く。

 光沢のある人工大理石の床は低い角度で射し込む光に照らされていた。

 光に当てられた目を細めて、そのまま閉じる。

(リュリに聞いておけばよかった)

 あの時、絶対的な体内時計を持つリュリに時刻を確認しなかったことを後悔した。

 立ち話をしていたこともあり、時間感覚があやふやになっている。

 茶葉に目を落とし、しっかりと持ち直す。

 止めた足を動かした。

 結局は陽の傾き加減に頼るしかないのだ。

(来るの、もっと後かもしれないですね…)

 七色に輝く道を行くと、もう目的地。僕の部屋の前だ。

 




 

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