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花の匂いに酔うまで  作者: ニク
日常と非日常
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4

 未だに床に居る達哉を見下ろす形となる。

 達哉はすっかりへたれてしまっていた。

 ピーマンがしよれたような、いわゆる、女の子座りをしている。

 達哉はずっと黙っていた。

 そして、顔にあわない黒目勝ちな眼をくるくる回している。目が合わないような、絶妙な軌道を描いて。

 終には顔を伏せてしまう始末だ。

(…どうしたものかな……)

 槙さんに言われたことに悄気ているのか、少し遊びすぎたことに拗ねているのか、あるいはどちらともか。

 何を渋っているのかわからない。

 暇をもて余した俺は目のやり場がなくなり、不意に槙さんが出ていった方に目をやった。

 日は傾き、エデンは黄色い光に満ちていた。 

(?黄色い…)

 元凶は珠だとすぐに思い至る。

 そのまま目だけを左右におくった。

 置物、家具、床、何から何まで光沢があった。

 光がエデンのガラスに当たって、無数に反射したものが珠に当たり、黄色くしているんだと気付く。そういえば、体が暖かい。

 空を見上げる。光が眩しかった。

 よく見ると厚い雲はもうないようだ。

 視界がオレンジのことから、結構長くエデンに居たことを知らされる。

 もう大分日が暮れている。

 ──今からまた、買い物に誘われるということはない。

 外から得られる情報はこれしかなかった。

 あとは、達哉が来た時、大分日が暮れていたという、予測ができただけ。

 けどそれは、今求める解決策との繋がりがない。

 解決策とは、どうやったら俺から離れていってくれるか。

 親離れならぬ、〈夏樹離れ〉である。

 話しあいの場は、偶然的に、タイミングよく設けられた。

 目標は、〈夏樹離れ〉政策を成功させること。あわよくば、当初の初々しい関係に戻すこと。

 俺はじっと、達哉を見つめる。

 呼吸で上下に揺れるが、それ意外の動きは見られない。

 空気に流されるのを、ただひたすら待っているだけのような達哉に、何の名案も浮かばない自分に苛立ちを覚えた。

 同時に早く、早くと焦りの気持ちが表立ってきた。

 ──気が滅入ってきた。

 張りつめた緊迫感のある雰囲気ではない。

 だけど、湿度が高い部屋に居るときのような感じ。

 じめじめとした不快感がある。全くの不快だ。

 "鎮か"な空間は好きではない。

 早く珠を片して、緑茶が待っている、和とは不つりあいの部屋に行きたい。

 そう思い、しびれが切れ、腰を上げたとき、

「……なっきー…」

 微弱な声だった。

 達哉の動向を待つ。

 重い口が淡々と動いた。

「ミーさ、なっきーと一緒にどこか出掛けてみたい。なっきーの好きなもの知りたい。なっきーと二人だけの思い出ほしい」

薄い唇が、なんの抵抗もなく、水の流れのごとく静かに伸縮する。

 俺の目線の先は自然と達哉の唇に留まった。

「ミーのこともよく知ってほしいし、クソ槙が知らないなっきーの顔見たい。ねぇ、なっきーの私服ってどんなの?清楚系?それともまさかの裏をかいてロック?」

 諸行無常に右から左に音が流れ出ていく。

「なっきーのこと全部知りたいよ」

 動きが、止まった。

(うわっ、今なに言ってたの!?)

 前半の部分は全く聞き取れなかった。

 いきなり長文を言われて、理解できるはずがない。

 達哉はこちらを見ている。

 目が乾きそうなほど見開いて、じっと待っている。

 何か言わないと。

 達哉の物欲しそうな目。

 どんな言葉を望んでいるか薄々分かってくるような目だ。

 だけどそれは口にしてはいけない。

(それにその希望に応えるほど、俺って易くない)

「……はぁ、やっぱりだめだなぁ」

 何を言えばいいのだろう。

 何が最善かわからない。

 慣れないことだらけだ。

「俺、ダメなの。詮索されるのも。異常に執着されるのも」

「っ!ごっごめん!」

「それにさ、俺待つの嫌いなのに、なかなか喋ってくれないし」

 頭にかかる重力を後ろにやる。

 エデンに光が消えかけている。

 日が短いこの頃。

 だけど、早すぎる。暗くなっては困る。

「今日みたいなことはもうやめてね。じゃないと、俺学校辞めちゃうかも」

 早く珠を回収しなければ。

 立ち上がり、珠がある場所に行く。

 幸い、微量の光があればその存在が見える。

 だけど、明かりがあるうちに終わらせないときついだろう。

 暗闇のなかで小さなものを探すのは大変だ。しかも無数にある。

「じゃあね。俺多忙なんだ」

 常備している袋をとりだし、息を入れ直した。

 小声で、「明日、学校でな」と聞こえた。

 達哉に目を送るだけで、作業に取りかかる。

(残したら明日槙さんに頼もう)


 

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