第7話 闘争
どうしてこうなった。
パリスは今、屈強な兵士達に囲まれ、ローハニスカ王国第三王女であるミリス・サラール・ローハンと対峙している。
「うぉぉぉー!ミリス様ぁあああああ!!」
「アイスマンなんてぶっ飛ばして下さい!!」
「野郎のせいで隊長の胃が大変な事に!!」
「詰所寒くて暫く使えなかったんだぞこのやろう!!」
「死ね・・・ミリス様と密室で2人きり・・・死ね・・・殺す・・・」
野太い歓声?がこだまする中、どうやらミリスと戦わなければならない様だ。
もう一度言おう。どうしてこうなった?
あと、どこぞの隊長の胃なんて俺に言われても困る。それに密室だが2人きりではないし。
「ミリス様、やめましょう、こんな」
「ミリスさん」
「・・・こんな事をしても、何が分かるという訳で」
「ミリス、さん」
「・・・何がわかるという訳でもないでしょう?
「ミ、リ、ス、さん」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・えっと、衆人環視の中なんですが・・・」
「あら、今は授業中でしょう?授業中はミリスとお呼びいただけると記憶しておりますが。むしろ「さん」もいらないんですよ?(ニコッ)」
「・・・それに、何もミリス様が直接戦う必要はないでしょう?私が魔法を使うとか、演舞するとか」
「・・・・・・」
「あの、聞こえてます?ミリス・・・様・・・・」
「・・・・・・」
「あの・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・ミリス、さん」
「はい。パリスさんをもっと知る為には身をもって体験しなくては。それに、せっかくの授業ですもの」
「おい、あいつ今ミリス様に敬称つけなかったよな・・・?」
「なんて野郎だ!」
「うぉぉぉ!俺のミリス様がぁぁあああああ!!!」
「うるせぇ!お前のじゃねぇ!俺のミリス様だ!」
「お前ら黙れ!2人の会話が聞こえねぇだろ!!」
「もっと知る・・・?俺らのミリス様が・・・あいつ、何しやがった・・・」
「ミリス様に名前で呼ばれやがって・・・ベッドに毒をたらして殺す・・・」
「どうやら俺達の訓練の成果を見せる時が来たようだな・・・」
「おい、抜け駆けするな、一個中隊で行くぞ」
「でも俺、アイスマンなら・・・抱かれてもいいかも」
「えっ」
「おっ、おい、やめろよ・・・」
「明日からお前と同じ部隊でやってく自信なくなったわ・・・」
「でもまぁ、アイスマンがそうなるなら、、、ミリス様は俺らのミリス様だよな?」
「よし頑張れ!俺達はお前を応援する!!」
「いやー、よかった。はっはっは」
「「「はっはっはっはっは」」」
お家帰りたい。
「とにかく!私も第三級戦闘神祇官の端くれです。パブロ様に何度か剣と魔法を見てもらいましたが、二級と三級では大きな隔たりがあると感じました。パリスさんも二級以上なんですよね?胸をお借りする気持ちで行かせてもらいます。こう見えて、剣には少し自信があるんです」
「私は戦闘神祇官の検定を受けた訳ではありませんので、何級相当の力があるかはわかりません・・・普段使える魔法は第2級までです。検定に受かった方、それも国賓神祇官と比べられると・・・それにほら、私剣とか荒事苦手ですし」
「荒事が苦手なA級冒険者がどこにいるんですかっ」
「ほ、ほら、私実戦になると持病のお尻ムズムズ病が出るじゃないですか、こういうの向いてないんですよ」
「何ですか、そのお尻ムズムズ病って!あきらかに仮病ですよ!」
「いや、これが厄介な病気で、いざ荒事となるとどうにも・・・」
「大丈夫です!ちゃんと短杖も持ってきました!」
「何が大丈夫なんですか!?剣もそれ実剣ですよね!?」
「ムズムズするお尻は私が切り落として差し上げます!」
「出血多量で死んじゃいますよ!それに私病み上がり・・・というか数日前に生き返ったばかりなんですが!」
その場の雰囲気もあって、徐々にヒートアップしてゆくミリス。
俺の尻も切り落として欲しい、と外野から微かに聞こえて来たのは気のせいだろう。
気のせいだと思いたい。
「往生際の悪い!ちょっとはカッコイイ所見せてください!いきますよ!」
「やめましょうよミリスさぁぁぁぁあああああん!!」
ミリスは高らかに宣言した後、パリスに向かって駆け出す。
かと思えば数歩で疾走の勢いを乗せ、手にした剣を投擲する。
「うひゃぁ」
とパリスが情けない声を出して回避する間に、ミリスは短杖を構え、一気に呪文を詠唱する。
「スピリッツ・コール!其は爆炎なり!困難を打ち払う暴炎の化身なり!ファイアー・ボール!!」
ミリスが呪文を唱えると、彼女の周りに十数個の火の玉が出現し、次々とパリスに襲い掛かる。
パリスは相変わらずぎゃぁ、うひぃといった情けない声を上げつつ、襲い来る火の玉を回避する。
(第3級魔法とはいえ、あそこまでの数を生み出すとは、彼女は第二級に近い第三級だな・・・それに、杖も王族仕様のいい物を使っていると見える。そして、開幕一番に手持ちの武器―それも、剣には自信があると言っていた―を投擲し、隙を作る戦闘センス。もうお姫様というより女戦士だな・・・)
「もうっ!何で避けるんですか!」
「そりゃ!避けっ!ますよっ!」
「ご自慢の服はどうしたんですっ!」
「今日っ!はっ!普通の服だってっ!知ってるじゃないですかっ!?」
「もうっ!全部行っちゃえっ!」
「ちょ!?」
ミリスはファイアー・ボールの連続投球をやめ、残りの火球を一気にパリスへと差し向ける。
《ドコォォン!》
爆音と共に辺りが土煙に覆われる。周りの兵達は魔法の威力に驚くと共に、さすがにパリスの身を案じた。しかし・・・
「ケホッ、ケホッ・・・も、もうやめましょうよ、ミリスさぁん」
土煙が晴れてくると、そこには少し土で汚れてはいるものの、五体満足なパリスが姿を現す。
しかし、ミリスは応えない。何故なら・・・
「・・・をもって彼の敵に致る死の瞬きなり!」
そう、彼女は土煙を利用し、次の魔法を詠唱していた。
ミリスがいかにパリスを高く評価して本気を出しているかが伺える。
(あれは・・・まずい!)
彼女が詠唱しているのは第3級雷撃魔法、サンダー。アース・ウォールやウォーター・シールド等、対抗呪文は多いが今からでは間に合わない。雷は音速を遥かに超える。サンダーの利点はその威力と速度にある。
(仕方がない、アレを使うか)
ミリスは呪文詠唱の途中からパリスが自身の使おうとしている魔法、サンダーに気づいた事を悟った。
(今から魔法で防ぐ事は不可能なはず・・・結局実力は見せてもらえませんでしたね。大丈夫、ちょっと気絶する位に威力を抑えますから)
ミリスは勝利を確信しつつ、詠唱の発動節に至るが、パリスが口を開くのが見える
(ここで命乞いなんてされたら流石に幻滅してしまうかもしれません・・・全く本気ではなさそうとはいえ、A級冒険者にここまで迫れたのだから私も結構いけるかもしれませんね。いきますよ!)
「スピリッツ・コール!!」
「サンダー!!」
命乞いでは無かったが、今更詠唱を開始しても遅い。
そんな事も判断できないのかとパリスに少し幻滅する。
これから倒れるであろうパリスを想い、少し罪悪感を覚える。
が・・・ミリスが見たのは何も発さない自身の腕と、晴れかけた土煙だけだった。
「・・・え?」
そこへ、背後から肩に手がかけられ、言葉が投げかけられる。
「満足しましたか?お姫様」
背後には、少し土煙で汚れた、包み込む様な笑顔を浮かべるパリスが立っていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
(なんということだ・・・なんということだ!!)
人知れず、国賓神祇官は戦慄する。
周囲で状況を理解しているのは恐らくパブロ一人だろう。
(まさか・・・まさか、ディスペル?ディスペルだと!?)
そう、あの男は今、発動を待つばかりだった魔法に割込み、魔法そのものを打ち消したのだ。
そんな事ができる人間は、いない。
(たかが第三級の小娘と戦うと聞いて期待はしていなかったが・・・まさかこんなものが見れるとは!ディスペルは我が主を含めて世界に3人、いや3者しか使えないはず・・・ここまでの獲物がかかるとは!これであの男の正体はわかった。我が主にもお喜びいただけるだろう・・・)
パブロは微笑を浮かべると、準備の為にざわつく演習場を後にした。
戦闘描写は苦手です。
今回もおっさんはほぼ出てきません。このままではおっさんファンタジータグが偽りになってしまう・・・なんて(。・ω・。)てへぺろ