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罪過の守護者  作者: アバン
第一章 目覚め
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第5話 謁見

―早朝

国王の朝は以外と早い。

午前中から大臣が来訪する事もあれば、昨日の内に溜まった決済書が堆く積もっている事もある。

謁見の前にこうした雑務をこなすのもできる王の仕事ともいえる。

単に年齢的に早起きしてしまうのは否めない。

そんな朝の穏やかな空気を破る一報が国王、エフバム・サラール・ローハンの元にもたらされた。


コンコン

「入れ」

「報告します!例のアイスマンが医務室に見当たらないとの事です!現在、人手を集めて捜索中ですが―」

「あー、よい、よい。もう見つかっておる。これから謁見の間であいま見る事になろう」

「はっ!・・・はっ?」

「捜索は打ち切れ。皆、通常業務に戻る様に」

「はっ!失礼しますっ!」


近衛兵が見た王の顔はどこか疲れを感じさせるものに見えた。

いや、陛下に限って部下にその様な態度を見せる方ではない。

きっと自分が疲れているのだろう。

などと思いながら近衛兵は捜索を中止すべく、詰所に向かうのだった。




◇◇◇◇◇◇◇◇




謁見の間にはそうそうたるメンバーが一同に会していた。

まずはローハニスカ王国第56代国王、エフバム・サラール・ローハン。

第二王女であるミリル・サラール・ローハン。

第三王女であるミリス・サラール・ローハン。

国賓神祇官パブロ・スーズ。

宰相リカルド・アブサン。

騎士団長ノリス・ヘンドリクス。

その他大臣も含め、十数人がアイスマンの到着を待っていた。

その中には遺跡探索隊隊長ガデム・シッターも見える。

恐らくは発見時の状況や補足の為に呼ばれたのであろう。

彼の胃の状態は推して知るべしだ。


「では陛下、アイスマンを呼びます」

「うむ、良きにはからえ。発見の状況を聞くに問題はないだろうが・・・警戒は怠るな」

「はっ!」


エフバムは内心ため息をついた。

何とアイスマンは調理室の廊下で寝ていたというのだ。

頬に殴打の痕を残して。

兵士が下女に状況を確認した所、兵士用の料理をつまみぐいをしていたそうだ。

頬に残る痕と総料理長の性格を考えれば・・・答えは一目瞭然だ。

寝ていたのではなくのびていたのではないだろうか。

確かに空腹というのは予想していなかったが・・・蘇生したばかりにしては元気すぎるだろう。


「アイスマン、入場!」


近衛兵の高らかな声と共に、謁見の間の扉が開かれ、ラッパの音が鳴り響く。

警備兵に連れ立たれたアイスマンが中央に進み、方膝をつき、礼を取る。

どうやらそれなりの知識のある者らしい。

庶民は謁見の間での礼など知らない。


エフバムらは改めてアイスマンを観察する。

ローハニスカでは珍しい黒髪に黒い瞳。

劉帝国などの東方の民に似ている。

服は布とも金属ともつかない不思議な質感だ。

歳の頃は下の娘―ミリスと同じ程度だろうか。

東方の民は若く見えるというので、ひょっとしたらもう少し上かもしれない。


「面を上げよ」


エフバムの言葉を受け、アイスマンが顔を上げる。

どうやら言葉は通じる様だ。


「して、アイスマン。まずは名前を聞かせてはもらえないかね」

「はひ。はひふまんとひふのが私の今のよひなでひょうか」

「・・・・・・」


言葉は通じている・・・はずだ。

だが、エフバムには彼の言葉が理解できない。

いや、総料理長にやられた傷のせいだろう。

うまく喋れないのだ。


「・・・パブロ、アイスマンのキズを治してやってくれまいか。これでは話もできん」

「あ、はおひてひひんでふか?」


パブロがアイスマンに回復魔法(ヒール)をかけようと動き出したところで、彼自身の言葉がパブロを遮る。


「ふひりっふ・こーる。ほはせいめひ。くふうをひりぞけ死のふひより呼びもほす生命のこほうなり。ひーふ」


アイスマンが呪文?を唱えると、みるみる内に頬の腫れが引いていく。

あんな適当な呪文でも聖霊は受け入れてくれたらしい。

いや、驚くべき所はそこではない。

彼は第2級魔法の回復魔法(ヒール)を易々と使って見せたのだ。

それは彼―アイスマンがローハニスカ最強の神祇官であるパブロと同等以上の存在であり、演習場を吹き飛ばしかけたエクスプロージョンをも使える程の実力があるということだ。

ノリスを始め、主だった武官は皆一様に緊張した。

当然だ。

今ここでエクスプロージョンなど使われた日には、ローハニスカが滅亡する。

そんな空気を察知してか、アイスマンは内心冷や汗をかく。


(あっれー?おかしいな、治していいんじゃなかったのか・・・?なんでこんなに警戒されているんだ・・・ひょっとして礼が間違っていたのか?氷付けになってからどのくらい経ってるかわからないしなぁ・・・拘束もされていないし、敵意を持たれている訳ではなさそうだが・・・)


困惑がありありと見えるアイスマンに向けて、エフバムが再度口を開く。


「皆落ち着け。さて、アイスマン。君の名を教えてくれないか」

「はい、失礼致しました。アイスマンというのが今の私の呼称ですね?私の名はあい―――いえ、パリス。パリスと申します」


エフバムを始め、家臣たちはようやく人心地ついた。

今までは得体の知れない者と思っていたが、話が通じる事でようやく目の前のものは「人」だと理解できた。

名前を聞いた事で別の疑問も噴出したが、この場で今発言できるのはエフバムとアイスマン―パリスだけだ。


「よかろう、パリス。ようこそローハニスカへ。歓迎しよう。そなたには不明な点も多かろう。自由な発言を許す。我々にも疑問が多いのだ。これを機会に互いを知りたいと思う」

「お心遣いありがとうございます」

「してパリスよ。そなたは何者かね。先ほど見せたヒール。第2級魔法を易々と使えるものは少ない。なぜ古代遺跡(あの様な所)に?」


パリスは先程の疑問が氷解した。

第2級魔法の使い手・・・第二級戦闘神祇官の数が少ない―反応を見る限り、国に数人という所か―というのであれば、警戒されても仕方が無い。

なにしろこの場では対抗手段が少ないのだ。


「第2級魔法の使い手が少ない・・・ですか。私が居た頃は冒険者ギルドにごろごろいましたが・・・いえ、私が何者かですね。私はこのローハニスカやシニーポン、マグワイア共和国等で冒険者をしておりました。ランクはAです。もうギルドに籍は残ってはいないかもしれませんが」

「Aランクとな・・・成程。先ほどの魔法もうなづける。戦闘神祇官の位は?」

「そうですね、特に神祇院で認定を受けた訳ではありませんので・・・今は(・・)亜流神祇官でしょうか」

「そうか、亜流か。しかし・・・マグワイア共和国と申したな。出身はマグワイア共和国なのかね」

「いえ。出身国はもうございません。強いて言えばシニーポンでしょうか」

「ふむ、そのマグワイア共和国な、滅亡したぞ」

「はい・・・は?滅亡?」

「うむ、三百年程(・・・・)前にな。そなたがあそこで氷付けになったのは・・・何年だ?」

「・・・神聖暦106年頃です。今は何年なのでしょうか」

「106年か・・・・・・今年は神聖暦890年だ。そなたは約800年弱眠っていた事になるのだろうな」

「800年・・・」


エフバムは年の功だろうか、平然としているが、パリスを含め、他のものはあまりの年月に絶句した。


「800年前のかつてと今とで言語や魔法が同じというのは年甲斐も無く感動を覚えるな」

「・・・はっ、はい。そのおかげで私も助かっております」

「私も助かる・・・か。はっはっは!そうだな、確かにその通りだ。・・・して、パリス。そなたは何故あの様な所で氷付けになっておったのだ」

「はい、私が冒険者として依頼を遂行していた所、賊と交戦状態となりまして・・・相討ちだった様な気もしますが、あまりはっきりとは覚えておりません」

「そうか、賊とな。お主が眠っていた場所は直近の地震による隆起で発見された遺跡でな。何の為の遺跡かの調査を進めたところ、お主が眠る場所へと辿り着いたという訳だ」

「なるほど・・・106年当時のあそこは劇場と申しますか、演劇や音楽会等を開催する場所だったと思います」

「ふむ、劇場だったのか・・・800年前の劇場というのも興味があるが・・・その劇場は地震によるものか、それ以前の原因かはわからぬが我々が調査を行った際にはほぼすべて土にうもれておった」

「左様ですか・・・国賓を招く様な演劇も行う、由緒正しき劇場だったので、残念です」

「私も一度そこで演劇を鑑賞したかったと思う。・・・してパリス。冒険者としての依頼というが、他の観客はどこへ?何故そんな処で戦闘を?」

「私は国・・・というか当時のローハニスカ王国の運営する劇場管理組合からの依頼を受けて、夜間の劇場警備を行っておりました。そういった劇場の美術品が狙われる事が多かったので・・・そこで、運悪く賊が押し入って来て、戦闘となったのです」

「なるほど。確かに今でも夜間の警備を信用ある冒険者に発注する事はよくあるな」


そう言うと、エフバムは暫し考え込む様に白く蓄えたあご髭を撫でる。

周囲の家臣達からは窺い知る事ができないが、今までの会話の中で何か琴線に触れるものがあったのであろうか。

その僅かな時間を経て、パリスが再度口を開く。


「陛下、一つだけお尋ねしても宜しいでしょうか」

「申してみよ」

「氷付けで発見されたのは私だけ(・・・)ですか?」

「お主だけだ。周囲にはその賊と思しき遺骨や遺留品も無かったそうだ・・・相討ちではなかったのか?」

「いえ、先程申し上げた通り、最後の記憶は曖昧なので・・・その賊がどうなったか状況から分かればと思いまして」

「安心せい。発見されたのはそなただけだ。そうだな?ガデム」

「はっ!我々が発見したのは誓ってパリス殿のみであります!他に生物、物品等の痕跡は無く、洞窟から抜け出した痕跡もございません!」

「だそうだ」

「ありがとうございます」


(やはり()は居ない・・・か。滅ぼす事ができたのか?いや、油断はできないな・・・さてどうするか)


パリスが考え込んでいる所に、またもやエフバムから声がかかる。


「パリス。800年の時が経っていれば当時と勝手も違っていよう。状況を見るに着の身着のままの様であるが・・・もしお主が良ければ、客賓扱いで我が国に士官してみてはどうだね」

「・・・し、仕官?」


周囲の家臣団がざわりと色めき立つ。


「そう心配するな、お主を縛りはしない。お主が別の職に就きたい、あるいは国を出たい等と言えば許可しよう。我が国に居るのであれば、便宜を図るので少し力を貸して欲しいという程度に考えれば良い」

「い、いえ、心配など恐れ多い・・・身に余る光栄ですが、私に出来る事など・・・」

「なに、お主は800年前を知る貴重な存在だ。我々にとっては当時を知る良い機会であるし、お主にとっては・・・この時代に慣れる為とでも思えばよかろう。そうだな、そこにおるミリス・・・三女の教育係の一人兼宮中の相談役というのはどうかね。もちろん宮中の一室ではあるが住まいも用意するぞ」

「はぁ、えー・・・まぁ、その・・・」

「結論は急がずとも良い。お主の心が定まるまでは客賓として扱う故、生活は心配するな。蘇生させたのは我々であるしな」

「あぁ、いえ、陛下のお心遣いに感謝致します・・・せっかくのお話ですので、お受けしたいと思います」

「そうか、それは重丁である。給金や細かな条件は後ほど宰相のリカルドと相談すればよかろう・・・今はお主も病み上がりだ。ひとまず身を休めるが良い」

「はい、お心遣い感謝致します、陛下。微力ではございますが、これから宜しくお願い致します」

「うむ、しかと休め」

「はい、では失礼致します」


それが謁見終わりの合図となり、パリスはまた近衛兵に伴われて退出した。




◇◇◇◇◇◇◇◇




パリスの退室後、謁見室は何とも言えぬ空気に満ちていた。

そんな中、大臣の一人が口を開く。


「陛下、何をお考えなのですか。あの様などこぞの者とも知れぬ者を仕官させるなどと。それも、第三王女様の教育係としてなどと!」

「落ち着け、ラム。得体の知れぬ者ではなくなったであろう。本人は亜流神祇官と言っていたが、第2級魔法を易々と操るのだ。損は無かろう」

「しかし陛下!それではいつ獅子身中の虫となるかわかりませんぞ!いつでもあの様な爆発を起こせるのです!」

「失礼。私も獅子身中の虫と言われぬ様、一層努力致します」

「ぬ・・・いや、そういう訳では・・・」

「やめんか、2人とも。陛下もお呆れだぞ」


パブロが毒を吐く一方、宰相のリカルドが諌める。


「わかっておる。ひょっとしたらあの遺跡はパリスから我々を(・・・・・・・・)守っていたのかもしれないのだからな。どちらにしろ手元に置いておけば監視のしようもあろう。それに、かの者は全てを語っているとは思えんが、嘘をついている風でもない。人格に問題は無いと思うがな」

「へ、陛下・・・」

「そうですね、国賓神祇官殿(パブロ殿)に迫る実力の戦闘神祇官をみすみす野に放つ手はありません。宮中相談役とはであれば、色々とお願い(・・・)もできるでしょうから。私は陛下に賛成です。それに、もう本人が受けておりますし」


流石の大臣も国王と宰相に言われては引かざるを得ない。

そもそも、2人の言い分はもっともだったのである。


(さて、面白くなって来ましたね・・・)


そんな中、パブロの目に宿る危険な光に気づく者はいなかった。


国王覚醒!(今の所の)ヒロインの出番がなさすぎる。

おっさんが頑張る小説、鋭意執筆中です。

新キャラクターの名前がどんどん適当になっていく気がします。

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