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罪過の守護者  作者: アバン
第一章 目覚め
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第2話 古代人

ローハニスカ王国

魔法を積極的に研究、役立てる事によって発展してきた国である。

現存する魔法のほとんどがこの国で発見、いや解明されたといっていい。

そんな王国の第三王女ミリス・カイルティア・ローハンは侍女の噂話を聞き、自室を飛び出していた。


「ミリス様、お待ち下さい!廊下を走ってはなりません!!」


背後から侍女の必死な声が聞こえてくるが、ミリスは一顧駄にしない。

自分がまだ成人前であり、ある程度の「お茶目」が許されるというのも理解している。

何ともタチの悪い少女だった。

ミリスは豪奢というよりむしろ荘厳さを感じさせる廊下を駆け抜け、城壁近くの兵舎へと急ぐ。

一国の王女たるものが噂話を真に受けるというのもどうかと思うが、それでいて侍女らの情報網はなかなか馬鹿にできない。

信憑性は置いておくとしても、情報の伝達速度と範囲は随一なのだ。

そう、正規の報告を先回りする位に。

女とはある意味で恐ろしい。




◇◇◇◇◇◇◇◇




「古代人が見つかったって本当!?」


ミリスは渦中の「彼」を発掘した部隊の詰所の扉を勢いよく開く。

が、そこには予想だにしなかった先客が静かに立っていた。


「ミリス、はしたない・・・少しは落ち着きなさい」


お転婆のミリスに物を言えるであろう数少ない人物、父である国王エフバム・カイルティア・ローハンの姿があった。

流石のミリスも国王である父が兵士詰所(こんなところ)にいるとは思わなかったのだ。


「も、申し訳ありません、お父様・・・」

「お前が結成を強く推した発掘隊の成果に喜ぶ気持ちはわかる。早く詳細が知りたいというのもわかる。しかし、お前は王女なのだ。常に国民に品格を問われているという事を自覚しなさい」

「はい・・・」


お父様もその「彼」(成果)が気になったからここへおいでになったのでは?という一言は飲み込む。


「しかし古代人とは・・・まだ「彼」が古代人だと決まった訳ではない。そもそも誰から聞いたのだ・・・」

「そ、それで、「彼」は蘇生できるのですか?ガデム」


侍女の噂話とも言えず、ミリスは話題をかえる。

やはり情報確度は推して知るべしだ。


「はっ!いえ、まだ何とも・・・氷付けの人間を蘇らせるなんて前人未到ですので・・・そもそも、この氷を溶かさなければ。ずいぶんと硬く冷たい氷でして・・・砕こうにも器具の方が凍って砕けてしまい、手をこまねいております」


普通であれば、ただの氷付けの亡骸だろう。しかし、ガデムは知っていた。

戦場で腕や足等を切り落とされた場合、切り落とされた部位を魔法で氷付けにして保存し、回復魔法が使える者に頼み、後からつないでもらうことがあるということを。

事実、かつての同僚達には幾人かその実体験をしたものがいる。

であれば、全身が氷付けでも何とかなるのではないか、と思ったのだ。

蘇生が無理でも、「彼」の身に着けている装備品―遺留品―を回収したいところだ。


発掘の報告は勿論のこと、回復魔法の使い手はこの国に一人しか存在しない。

上司に判断を仰ぎ、国賓神祇官(回復魔法の使い手)に依頼しようとした矢先に国王陛下がやって来たのだ。

兵の中で中堅といえるガデムが国王に直接まみえるなど、一生に一度あるか無いかといっていい。

緊張による胃痛を意識しながら王命を受け、部隊総出で氷の破砕を試みていたところ、第三王女(お転婆娘)のお出ましだ。

氷付けの「彼」(こいつ)に恨みがましい視線を送る位は許して欲しい。


「そういえば氷に爪?が刺さっている様ですね」


ミリスは詰所に入って初めて「彼」を観察した。

「彼」の身体を覆うように50cm程の厚みがある氷を纏っており、その氷には金属製らしき爪―おそらくツルハシの爪―が途中から折れた状態で何本か刺さっている。

いや、ささっているという表現は正しくない。

爪先が氷にくっついているだけで、氷自体に突き刺ささってはいないのだ。

爪自体も相当な低温らしく、白い煙が出ているのがわかる。初春だというのにこの詰所は真冬の様な寒さだった。


そこでミリスは初めて氷付けの「彼」自体に意識を向けた。

氷越しに多少歪んで見える「彼」は、この国では珍しい漆黒の髪をしていた。

はるか東方の劉帝国の民と同じような顔立ちに見える。

歳は自分と同程度であろうか。身に着けている服は金属とも布とも判断のつかない、不思議な質感だ。

黒を基調に銀をあしらった儀礼衣の様に見えるが、高価な物を見慣れている自分でもある種の荘厳さを感じてしまう。

決して安いものではないだろう。

武器の類は見当たらない。

「彼」は古代遺跡(あんなところ)で何をしていたのだろうか。


「ガデムが言う通り、氷を砕こうにも砕き様がない。かといって氷が溶ける気配もなし。どうするか考えていた所だ」


エフバムにもはやミリスを責める気配はない。

このままここに居ることを許されたのだろう。

許可をもらったミリスは躊躇無く自分の意見を述べる。


「この氷は魔法によるものに見えます。やはり炎の魔法で溶かすしかないのではないでしょうか」

「それも考えた。が、中の「彼」にまで被害が及んでは困る」

「しかし、現在他の手の打ち様も無い今、それしか無いと思います。それに、「彼」の身に着けている服は滅多な事では燃えたりしなさそうですし。氷を砕いたとしても蘇生する保障もありません」

「それはそうなのだがな・・・「彼」が我が国民だった場合はどうもな・・・」

「・・・わかりました、私がやりますので、皆様は離れていて下さい」


ミリスはそう言うと手近にある杖―ガデムのなけなしの給料で買った短杖だ―を手に取ろうと動く。

エフバムやガデムが止めようとする気配があった所に、それを遮る様に声が響く。


「ミリス様。お戯れはおやめ下さい。何より、こんなせまい所でこの氷を溶かすような魔法をお使いになれば、明日から彼らの兵舎が無くなってしまいます」

「おぉ、来たか。パブロ」


ミリスは声を発した人物を振り返り、視界におさめる。

そこには、ローハニスカ王国唯一の回復魔法の使い手、国賓神祇官のパブロ・スーズが立っていた。


ちょっとファンタジーっぽく王国の登場です。

しかし、国王気さく過ぎじゃね?兵舎来ないだろ・・・まぁ好奇心旺盛な人ってことで。

戦闘神祇官=魔法使いと思って頂いて結構です。

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