第1話 発見
(何で俺がこんなむさ苦しい野郎共と暗闇をさ迷わなけりゃならないんだ、クソッ!)
部隊の足音と自らの鼓動以外には何も聞こえない静寂の闇の中、男は内心毒づいていた。
その男と周囲の者達が腰に帯びた小剣が小さくカチャカチャと耳障りな音を立てる。
闇を切り取っているのは炎とも水とも見える不思議な光源から発せられる光だけだ。
冒頭から毒づいたこの男の名はガデム・シッター。
ローハニスカ王国の第三級戦闘神祇官である。
(本当なら今頃は近衛試験に受かって優雅な都暮らしの予定だったってのによ・・・)
(何でこの俺様がこんな盗掘みたいな真似を・・・チッ!)
今の彼らを街の住民が見たら、とてもローハニスカ王国の兵士だとは思わないだろう。
皆一様に鍛え上げられた肉体を粗野な革鎧でつつみ、一体何を入れるのかと疑問を持つほどに大きな皮袋を背負っている。
腰には取り回しの良さそうな小剣を帯び、ガデムにいたっては短杖まで小剣とは別に帯びている。
これで保存食や弓等を持っていれば冒険者とも見えるかもしれない。
しかし、冒険者にしては防具に関心を払っておらず、パーティーに一人はいるであろうガイド―調理やマッピング等を受け持ち、戦闘には参加しないサポート役―が見受けられないのも不自然だ。
これは彼らが高い戦闘能力を持ち、食料も現地調達する程にサバイバル技能に秀でていることを示しているのではないだろうか。
そう、彼らは職業軍人であり、その中でもひときわ高い能力を持つ、いわゆる特殊部隊と呼ばれる者達だ。
(あの小娘め・・・俺が出世した暁にはヒィヒィ言わしてやる・・・っ!)
ガデムは数日前、ローハニスカ第三王女が成人間近の為、選抜される近衛兵の試験を受け、あと少しで合格という所で第三王女本人の言によりこの「遺跡探査隊」の隊長に任命されてしまったのである。
軍人として栄転ではあるが、ガデムは給料はそれなりでも王都に住めて危険の少ない近衛兵になりたかったので不満は大きい。
そんなガデムの心境を知ってか知らずか、隊員の一人がガデムに声をかける。
「隊長、この遺跡に入って数日経ちますが何も無いですね。遺物どころか魔物までいないとは・・・そろそろ蝙蝠以外の食料も口にしたいところです」
「うるせぇ、黙って歩け。洞窟型の遺跡はどんな些細なことで崩落が起きるかわからん。無駄口叩いて生き埋めになりました、じゃ笑えもしねぇ。この前も大きな地震があったばかりだ。ここもいつ崩れてもおかしくないかも知れんぞ」
「お、脅かさないで下さいよ、隊長・・・黙りますよ・・・」
ガデムとて、無駄話でもしないと落ち着かない気持ちはわかる。
暗闇と静寂はそれだけで人の精神を侵すのだ。
しかし、皆の命がかかってると思えばそう大した事でもない、と思えない程未熟な者はこの隊にいない。
隊員が言った通り、ここ数日での収穫は無い。
大きな皮袋に入っているものはここ数日で食料として捕まえた蝙蝠だけだ。
成果が無かったからと罰を受ける様な任務形態の部隊ではないが、やはり何かしらの成果は欲しい所だ。
なにより自分の出世がかかっている。
それに加えて、遺跡に魔物がいないというのがガデムの神経を逆なでていた。
まるで恐ろしいものに魔物たちが本能で近づかないようにしていると感じてしまうのだ。
隊員たちは魔物がいない事を不自然には思っているが、危機感までは感じていない。逆に楽でいいと言い出す始末だ。
自分が考えすぎなのか、いやしかし警戒に越したことは無いとガデムが考えていると、またもや隊員から声が掛けられた。
「た、隊長・・・隊長!」
「なんだうるせぇな、黙るんじゃなかったのか」
こいつは確か一番若かったな、教育の必要があるか・・・などと考えているガデムの耳を隊員の必死な声が叩く。
「人が・・・こ、氷の中に人がいます・・・」
遺跡調査隊ここ数日間で最初の遺物発見だった。