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終編-未来へと続く道【シャルフィス】

前の話も同日投稿しています。

『随分、熱心に眺めるのね』


 声を掛けられて、わたしは振り返る。

 ひらり、と手を振っていたのは地球上でもすれ違った同郷──リリィフィールだった。地球の基準で言えば、背の高くスタイルの良い美女といった出で立ち。もちろん、彼女の姿もまた“調整”した上でそれを選んでいる。


『リリィ』


 わたしが呼ぶと、彼女は笑った。


『あなたと一緒に歩いていた男の子。優しそうな感じの子だったわね』

『随分と良くして貰ったんだ』

『あなたも随分ご執心みたい』


 わたしは笑みを深める。


『その通り』唇に手を当てた。『わたしとって、今回のコンタクトは最初で最後のものになった。あれ以上の出逢いなんて要らないんだ』


 彼女は目を見開く。


『ということは、あなた──』

『うん』


 わたしは頷く。


『ナオキの──地球を一緒に廻っていた子の生体情報は、ちゃんと取得したんだ。最後の最後になったけれどね。わたしは、その生体情報を基に子供を産む』

『もう決めちゃって良かったの? 地球から先にだって、まだ交流できる生命体は居るはずなのに』

『わたしは、彼を選ぶよ』


 簡潔な宣言。

 おぼつかないメールのやり取りから始まり、どこか頼りなくて幼い、けれども、とてもまっすぐで純真だったナオキ。この後、どのような出逢いがあったとしても、わたしは彼以上を求めないと、口付けの際に決めた。


『そこら辺の決め方は、シャルフィナ譲りね』

『親子だからね。それは似るものだよ』


 母もまた最初のコンタクトが最後になった。

 そう、わたし達はこれと決めた相手の生体情報を取得するまではコンタクトが続けられる。もちろん、惑星外そとに出ず、コミュニティの中で礎となっていく道も用意されてはいるが──遺伝子のスパイラルは、そのままだとわたし達をすぐに絞めてしまう。

 だからこそ、わたし達は活路を開く為にもコンタクトを続けている。


『リリィはまだコンタクトを続けるんだ?』


 問うと、彼女は肩を竦めた。


『まさか』

『と、言うことは……』

『私も生体情報は取得したわ。私のコンタクトも最初で最後になったのよ』

『わたしのこと、言えないと思うんだけれど』

『そうね』


 彼女は背を向ける。


『でも、たぶん、今回コンタクトをした大半は、ここで決めてると思うわ。彼、彼女たちは眩しかったもの。まだまだ発展途上だったけれど、心も豊かで、思いやりがあって』


 わたしは地球という星の蒼さに目を向ける。


『なによりも、どこもかしも余裕があった』


 生きる為だけではなく、己自身の生活を豊かにする仕組みがあった。わたし達には無い概念。あるいは、維持できなくて切り捨ててしまった習慣。わたしはそれを羨ましいと思ったけれど、それはわたしだけではなかったのかもしれない。

 ねえ、ナオキ。

 ナオキ達が存在するそこは、思っている以上に素敵な場所なんだよ。


『なかなか、こういう子たちは居ない』

『そうね』


 ナオキ。

 何も言ってはいないけれど、わたしはナオキの子を宿して産むことを決めた。ナオキに伝わることはないけれど、出来れば、ナオキの方でも子供を作って──そして、わたし達の後の世代で逢えるよう努力して欲しい。

 ──……

 これは、伝えていれば良かっただろうか。


『複雑な顔をしているわね』


 リリィに目を向けると、微苦笑の表情がそこにあった。

 地球人がする、そんな顔もわたしは好きになった。


『ナオキが──あちらであった子が、わたし以外の手を掴むのかなと思うとね』

『そういうのを、地球では嫉妬というらしいわよ』

『リリィはしないの。地球で一緒に歩いていた子、随分と格好が良かったようだけれど』


 馬鹿ね、と彼女は目を伏せた。

 愚問であったことをわたしは悟る。

 それだけで、わたし達の間にある感情は似通っているものだと理解が出来た。

 それでも、わたし達は別れを選ばなければならないし、逸脱した行動は出来ない。


『産む子は、彼に似てると良いわ』


 リリィが言うと、わたしも相槌を打った。


『大丈夫だよ』

『根拠はあるのかしら?』

『地球の男の子の生体情報──染色体はXYなんだ。女の子の方はXXで、こちらは欠落がないと言われているみたい』

『……なるほど』

『わたしも、リリィも、産む子は男の子にしかならないよ。わたし達の情報をより多く含ませるなら女の子にも出来るだろうけれど、それはしないでしょう?』

『そうね、その通りだわ』


 わたしはもう一度だけ蒼い星を一瞥して、リリィの手を取る。


『さあ、これから少し大変だよ。生まれてくる子は、あちら基準なんだから。ここに適用させる為に、たくさんの技術改革と保護技術が要るようになる』

『殆どオリジナルに近いカタチで残すのね?』

『その通り』わたしは唇に指先をあてる。『不必要な手は、入れたくないんだ』


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