Chapter2:Conceit
世界に絶望している二人の少年、榊と翔。翔が突然「両親を殺した」と告白した。その真相と彼らの行動は…?
※少々痛々しい発言が後半部分に盛り込まれております。その上暴力的な表現が多少含まれますのでお気をつけ下さい。
噴き出す汗。騒がしく叫ぶ茶色い小さな塊の声。皮膚を刺す日光…クソッ、夏はこれだから嫌いなんだ。
まだ正午を一時間ほど過ぎたこの時間に、寡黙な翔を追い掛けながら、俺は過去に翔が話した数々の虚言を思い出していた。僕の家は大金持ちだとか、〇〇で宇宙人を見ただとか。みんな幼い頃は馬鹿正直に信じて笑ってたもんだが、所詮は嘘偽りだ。今思えば翔が虚言を吐く度に周りから人が消え、仕舞いにアイツは孤独になった。アイツが対人恐怖症になったのもそれからだ。人が恐くなって、逃げて逃げて逃げて…その挙げ句、
「僕のよさが分からないのは周りが馬鹿だからだ。」
などと言いだし、俺以外とは絡まなくなった。まぁ俺も似たような考え方してるが、分かってる。これは自惚れなんだ…。
そう思うと何だかやるせなくなって、以前翔からもらった、通称『元気になるクスリ』をかじった。
…しかし、どのくらい歩いただろう?普段なら十五分で付くはずの道がいやに長く感じられる。無限回廊を廻り続けているような感覚だ。
「翔んちってこんな遠かったっけ?引っ越した?」
こんな他愛もない冗談を言って動揺を抑えようとした。
「いや?変わらないけど。」
怪訝そうに、しかしまともに答える翔を見ながら、そうか。という一言しか出なかった。
…会話が続かない。いや、翔との会話が続かないのはいつものことだ。むしろ話すのが嫌いな俺は、翔の前では演じて話さなくていいということに安らぎを得ていたハズなんだ。なのに、何だこれは!何故こんなに気持ちが悪いのか…。
ずいぶん長く感じた十五分も終わり、ようやく翔の家が見えてきた。いつもと変わらない、何だかちょっと豪華な洋館。
(…いつもよりちょっと暗い…かな?)
恐らくそのときの気持ちのせいで、錯覚でも起きていたのだろう。屋根で羽を休めるカラスが不気味に見えた。
「ただいま…まぁ誰もいないんだけどね。」
少し憂鬱そうな鉛の声を翔は発した。
「臭っ…おい、翔。何だよこの臭いは。」
「気温四十度近い部屋の中に十四時間くらい放置してあるんだ。そりゃ臭うよ。」
「は?もしかして、マジな訳?」
―予感と思慮の対決は、どうやら予感が勝ってしまったようだ。
そこに横たわる二つの肉塊。見覚えがあった。
確かに翔の父母だった。
でも何故かそれほど驚かなかった。
「お前が本当にやったのか??」
「それが分からないんだ。榊に電話する三時間前にリタリンと、あとLSDとマジックマッシュ飲んでて。バッドトリップしてた時にやったのかもしれない。」
これだから重度のジャンキーは困る。忙しない現世から抜け出したい気持ちは大いに分かるし、投薬するのも勝手だが、こんな事になるとは…。
「かもしれないってな…まぁ十中八九お前だろう。他の奴が入ってきてやったなんて考えられない。」
「だよね。これで僕の言ったことが真実だと分かっただろう?さて、これから僕が取るべき行動は次の内どれでしょう?」
珍しく翔がとぼけた感じで喋っている。生まれて初めてだ、こんな翔を見たのは。
「警察に自主しに行く。このまま逃亡。僕自身もこの忙しない世界から離脱!…さぁ、どれだ。」
俺の意見としては前者二つは御免だった。特に二つ目。こんな腐った世の中で俺たちを受け入れてくれる『真人間』なんて存在するはずがなかった。それは警察も然りであり、そんな奴らの相手になるくらいなら死を選ぶ。三番目は自らの命を絶つということを意味するんだろう。
この世界で生きることは嫌だ…だが、しかし…。
「こんなこと言えたもんじゃないが、今言わなきゃダメな気がするから言うぞ?」
「何?」
短く、興味なさ気に翔が即答する。
「気が狂ってると思うなら思いっきり笑ってくれても構わないからよく聞けよ。俺はお前の中に『悪魔』を見たんだ。お前が、殺した。って言った瞬間から、お前に黒い何かが纏わり付いてたんだ。分かるか?お前のその力がこの日本を、地球を変えていけるんだ!俺と死なずに生きて、かといって逃げることなく社会悪に立ち向かい、全てを粛清しようじゃないか!」
…何言ってるんだ俺?アホか?
どうやらかじったクスリが効いてるらしい。俺はもう意味が分からない。怒涛の如く喋りだした。
まぁいいや、面倒くさい。もう、どうにでも、なれ――。
「いいか?今の日本の九割八分ほどの人間はクズだ!公害だ!そんなことはお前も分かってるだろう?授業妨害やら学級崩壊でガキの頭脳はゴキブリ並み!そんな不良供が大人になって子供ができたらその子供はどうなる!?もっと愚かしい、愚行をはたらくクズばかりだ!そんなカスが生きてるからこそ地球は荒廃し、滅亡の危機を迎えているんだ!カスが吸う酸素がもったいない!カスが食べる食べ物がもったいない!日本全土がそうなる前に、力を手に入れた悪魔であるお前はこの世を粛清すべきじゃないのか!?」
翔はすでに唖然としている。変なものを見るような目だ。実に痛い。いっそ殺してくれ…。
「…現状を受け止めきれずに遂に狂ったか?榊、お前統合失調症なんじゃないか?」
「あっははは…面白いこと言うな。ふふ…うん、俺おかしいよな。でも本音なんだよ。」
「言いたいことは分かる。だが榊が見たのは幻想だ。僕には力なんかない。薬に頼って親まで殺したただのジャンキーなんだ。」
「でもこの親たちは死ぬべき奴らだった!それは他でもない翔が一番よく分かってたはずだ。こういう虐待する親が子を駄目にするんだ…。こういう駄目人間たちを滅さないと駄目だ…。」
「あぁ。だからこいつ等を殺したことを全く後悔はしてないよ。そもそも記憶ないし。だが一億三千万を相手にするのは二人の無防備な親を殺すのと訳が違う。僕らは無力なんだ。」
大人一人でもどうにもならないのに、精神が虚弱な、薬漬けの子供二人にいったい何ができるか。
死 ぬ し か な い
世の中に対する不平・不満を書き連ねた遺書を書いて、共に死ぬしかない。それがマスコミにでも取り上げられれば少しは…。
「よし、翔。最後の足掻きだ。クスリをくれ。やれるだけやって、それから死のうじゃないか…。」
この世界に、天誅を…。
前回のあとがきで触れ忘れたので書いておきますが、conceitとは「うぬぼれ」という意味です。この物語の少年たちは「自分たちが真人間であり、下らないことばかりして地球を死地に追いやる貴様らは死んだほうがいい!」などと考えております。これがまさにconceitというわけです。




