表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スーパーの吉村さん  作者: 立花愛莉
第3章 誰が為に腕は鳴る!?
36/42

3-3



 静かな沈黙が気まずく部屋中を満たした時、注目の中心にいた高良は異様な視線を察知して声を上げた。



「な、なんだよ。揃って俺を見やがって、何か間違ったことでも言ったか」



「いえ。ただ・・・」



「高良さんが珍しく、まともなこといったなぁって」



「うん。そこまで深く考えてるとは思ってなかった」



「ひどい! お前ら最悪! 今まで俺をなんだと思ってたんだ!?」



 喚き散らす高良を横目に女性陣の反応は淡白なものだった。



「わがままで」



「やりたい放題」



「自己中心のナルシストで、ロリコンの超変態男。つまり人類の敵、だね!」



 さすがに陽子さんほど高良のことを悪く思っていなかったが、幸音と恵美子は顔を見合わせ申し訳なさそうに眉尻を下げた。



 それがますます高良の不快感を誘い、高良は額に手を当てて背後に仰け反った。



「だーっ!! 何度もお前らの窮地を救ってやった俺を、お前らはそんな目で見てたのか!? 特に吉村。お前は俺にでっかい借りがあるはずだぞ?」



「うっ」



 指差し名指しで幸音を睨みつける。



 心当たりのある幸音は目を泳がせ高良から顔をそらした。高良はむっつりと押し黙ったまま由貴へ視線を送り、軽く肩を竦めると今度は陽子に向き直る。



「それにだな、俺は確かに有能で自他共に認める天才だが、ロリコンの変態とはどういうことだ菅原!」



「そのままの意味だよ。何か語弊でもあった?」



 きょとんとわざとらしく小首を傾げた陽子を、高良は刺しそうな目で睨みつける。



「ぜんっぜん違うだろうが! お前の性癖と俺の趣味を一緒にするな! 」



「へー。やっぱり趣味なんだー。幼女好きは趣味なんだー。へー。そうなんだ。キモーイ。高良ちゃんのヘンターイ」



「誰が幼女好きだ! 勘違いするな。ったく、だから俺はお前みたいなトウの立ったような若作り女は嫌いなんだ。お前みたいな人間がこの世に四割以上存在すると考えるだけで辟易してくる。それに引き換え子供はいいぞ。純粋な疑いを知らない目! お前もちっとは見習え!」



「うわ、キモ。マジキモ。相当キモ。子供好きとかどの顔がほざくかって言うか、子供って言うと男の子も対象内? ってことは、ゲイでショタでロリコン? うっわー。マジぱねぇっスよ高良ちゃん、もう人生オワリだね」



「お前は、なっ!!」



「キャー。高良ちゃんに犯されるぅ」



「誰がお前なんか!! 寝言は寝て言え!!」



「おやおや。賑やかでいいことですね、っと。庄野さん、紅茶どうぞ」



「あ、ども。いただきます」



 透は空になった皿を脇に下げながら由貴へ紅茶を勧めた。話が明らかに逸れているのに誰も止めようとも元の軌道に戻そうともしないのは、このやり取りが面白いばかりでなくと陽子のばっちりを受けるのが嫌だからである。



 由貴は慣れない手つきで紅茶を受け取ると、やや冷めた薄手のカップに口をつける。



「まあ、高良たちはさて置いて、先ほど四辻くんが言っていた西梅田魔術臨海事件についての概要をざっと説明しようかな」



 ざらつく顎の髭を撫でて三月は何事もなかったかのように話をし始めた。



 自然と視線を正した幸音は指先にかすかに走る痛みに顔を顰めつつ、深く頷く。



 三月は手にしていたカップを手を伸ばして机の上に伸ばすと、足を崩して体育座りをした。陽子は高良と嫌味の応酬を繰り返しており三月の行動に気付いていない。



「まあ、庄野くんも堅苦しく考えず足を崩して聞きなさいよ。事件が重大な割には、内容はいたって簡単簡潔でね」



 自分が膝を崩したものだから傍らの由貴にもすすめ、共犯の絆をいっそう増した三月は油で光る眼鏡を取り外して自分の袖でレンズを拭く。



「あの事件はね、魔術で操作できない時間というものを、細胞を成長させることによって無理矢理可能とした事件なんだよ。個体にはそれぞれ成長のスピード、細胞が分裂する周期や時間に差があってね、だから同じ時期に生まれた子供でも一人は背が高かったり低かったりするという差異が認められる。それは自然界では当たり前のことなんだよ。誰もが誰も、同じ成長スピードの中で生きているわけではないのだからね」



「西梅田魔術臨海事件というのは、子供達の個別の成長スピードと関係あるんですね」



「まー、言ってしまえばそうだね。当時、西梅田に最先端の魔術科を所持する養成高校があってね。子供達といっても第二次成長期途中の15歳から18歳までの高校生を対象としたものだったんだけど。魔術も個体差によって使える能力の限界や特性がある。それを均一化するために、遅延している人体側面的な成長を活性化する魔術を教師みずから生徒達に施したんだ。もちろん自分の能力が高くなるなら、と生徒側も両親側も承認してのことだったけどね」



「教師自ら、両親も・・・」



「周知の通り我々の細胞は日々死んで、皮膚の下から新しい細胞が次々と生まれ出でている。酸素を吸入するほどに人体は酸化し、老化に結びついているのだけど。ともかく、成長スピードを速めればそれと比例して死へと近づいていくわけだよ。能力を平均化、あるいは増強するために始まった実験的な成長増進術式の展開によって、人間の細胞が急激な変化に耐えられなくてね。皮膚が溶解し、細胞が内から破壊されて蝋のように溶けて死んだ子供、あるいはまだ高校生なのに老女のような容姿の娘、細胞の過剰増殖などによって指や目玉が増えた少年。実際に目にすると映画のスプラッターなんてはるかに生易しい、そんな有様だった」



 まるで実際目にしてきたかのように三月は瞳に複雑な色彩を浮かべていた。



「もちろんメディアに露出するには時間が余りかからなかったね。最初は生徒達の両親も賛成していたみたいだけど、やはり自分の子供達が犠牲になっては黙っていられなかったんだろう。人為的に魔術を人体に加えた結果、生じる結末をどこかで予想していたのにね。まあ、どういう理由であれ魔術が生体に与える影響が考えられ始め、魔術倫理という分野が出来たのはこの事件がきっかけなんだ」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ