魔人が生まれた日
また、書いてしまった。
姉貴の部屋の前で立ち止まる。
勝手に入ったのがバレただけでも、よくて半殺し。悪くて……俺の人生終了。
まあ、とにかく考えても仕方が無い、実行あるのみだ。
一応ドアをノックし、誰もいないことを確認する。ドアを開けてみたのだが、すでに先客がいた……。
腰まで届く長い茶髪。服装は、肩が露出したチュニックワンピースとデニムのショートパンツ。背中を向けて机でなにやら雑誌を読んでいるようだが……。
「親父、なにやってんの?」
アゴのヒゲをじょりじょりかきながら、親父は俺に答えた。
「何って、休日くらい普通の女の子に戻ろうと思ってネ」
子供は親を選べない。俺は不幸だと思う。
とりあえず、ソバットで変態を蹴り飛ばすと、どっかのギャグ漫画みたいに階段を転げ落ちていった。
「さーて、制服はどこだ……と」
その時、俺は強大な気を感じた。
「あんた、何やってんの?」
振り向こうとするが、強大な気の前に俺の体は硬直して動けない。
「あたしの制服持って何してんのかって、聞いてんのよ、このクソバカセクハラ弟が!」
腹部に強烈な蹴りをもらい、俺はうずくまる。
俺はたまらなくなり、姉貴にしがみついた。
「もっと汚い言葉でお願いします、お姉さま!」
すると、姉貴はドン引きして蹴りを収めてくれた。
見たか、俺の知略を! これぞ、頭脳戦だな。
「そんで? あんた何してるの? 洗濯物まだちゃんと取り込めて無いし。風呂洗いと、家庭菜園の水やりと、皿洗いと、あたしのマッサージと、隣の家の草むしりと、家庭菜園の水やりがまだ終わって無いじゃない」
「何で隣の家の草むしりやらないといけないんだよ!」
「決まってんじゃない、隣の家の中村のおばあちゃんに今朝代わりにやるからお小遣いくれって催促しといたのよ」
お前がやれよ、家庭菜園の水やりは大事なことだから二回言ったのはわかるけど。
「あん?」
「いえ、なんでもないです。けど、それよりも緊急事態なんだよ、姉ちゃん。おかんのブラジャーが……飛んでいったんだ!」
その言葉でさっきまでの姉貴の強気な態度は豹変した。顔面は蒼白になり、足はガタガタと震えだして、今にも倒れそうだった。
「あんた……死ぬわよ。あのブラジャー……母さんが命より大切にしてたお気に入りなのよ。世界が滅びてもブラジャーだけは、守りなさい!」
あのブラジャーは、世界と同価値だとでも言うのか、お姉ちゃん。
「俺さ、このままブラジャーなんか取りに行ったらただの変態じゃん? だから、姉貴の制服借りて、女装して取りに行こうと思ってたんだ」
「それなら、そうと言いなさいよ! もう、あんたもお父さんみたいに、目覚めたのかと思ったじゃない。でも、どうせやるなら完璧にしなくちゃね」
姉貴は、意気揚々と化粧品を両手に持ち俺の服を一枚一枚、バナナの皮をむくみたいに、楽しそうに剥ぎ取った。
「何すんだよ、エッチ!」
「あんたの裸にいくらの価値があるっていうのよ、今すぐ、美少女に生まれ変わらせてあげるから、じっとしてなさい!」
――そして10分後、俺は生まれ変わった。
黒髪のロングヘアのウィッグをかぶり、姉貴の制服を装備。
姉貴のコーディネイトの元、全身スキがなくどこに出しても、おかしくない変装だ。
これで、俺は安心して任務を遂行する事ができる。
変態の汚名を受けることも無いだろう。
……でも、何か根本的に履き違えてる気がするけど……気のせいだろう。
「んー、ムカツクわ」
「はい?」
「あんた、私よりカワイイじゃない。許せない。何か1つ、欠点が必要ね」
そう言って姉貴は油性のマジックペンで俺の額に『肉』と書いた。
「いいわ! 完璧! これなら、罰ゲームで洗濯物を拾いに来た女子高生で通るわ!」
俺は一体どこへ行くのだろうか?