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不器用な女の子

 俺はゆっくりと足を動かす。


「何をやっている! オヴァ2号機! 奴を殺せ!」


 先生の命令を受けて、赤い割烹着の2号機がチェーンソーを回転させて俺との距離を詰めてきた。


「やめろ。おばあちゃんの姿で、そんなことはやめろ! これ以上おばあちゃんを侮辱するな!」


 そうだ。おばあちゃんはそんな物騒なことはしない。空をマッハ3で飛ぶ事はあっても、チェーンソーを振りかざしたりしない。


 目の前のこいつはおばあちゃんと似て非なるモノ……こいつはおばあちゃんではないのだ。破壊活動にいそしむことはあっても、中村のおばあちゃんみたいに、ラリアットでコンビニ強盗を店員ごと複雑骨折にしたりしない。


 オヴァ2号機のチェーンソーが俺の首筋に触れる。


 俺はチェーンソーを右の人差し指と中指でつまんでそれを押しとどめる。


「姉貴のデコピンはなあ。一発で一戸建て30年ローンを粉々にする威力なんだよ! サラリーマンの生涯賃金は大学卒でおよそ2億7590万円! てめえの一撃は30年ローンにもとどかねえ!」


 俺は力を込めて、チェーンソーを横っ腹から真っ二つに割った。


「ヒガセンリョクサ、ソクテイフカ。ケイカイレベルサイダイ。リミッターカイジョヲ」


 オヴァ2号機が拘束具という名の割烹着をぶち破り、機械的な体をさらけ出した。


 衝撃。一瞬でオヴァ2号機は俺の懐に入り込むと、頭突きをかましてきた。


「姉貴の頭突きに比べたら、かわいいもんだぜ。姉貴の頭突きはなあ、一発で核シェルターを破壊できる威力らしいぜ。痛くもかゆくもねえ。島谷家ナメんなよ!」


 再び迫るオヴァ2号機の頭突き。


「『島谷流暗殺術』極みの一」


 メテオドライブで俺は、即座に体の重心を下へと移しかわす。そして、『島谷流暗殺術』極みの三『ダンシングオールナイト』を使って、2号機に肘を電光石火の如く叩き込んだ。


「ニンム……ゾッコウフカノウ……」


 2号機は地面に崩れ落ち、ピーピーガーガー言ったあと、正座をしたまま動かなくなった。


「は、ははははは! こんなバカなことがあってたまるか! オヴァシリーズを、素手で、それもこんなピチピチ美少年が倒しただと……!?」


「先生。もうやめましょう。俺は先生を傷付けたくない。悲しい思いをするのは……俺1人で十分なんだ、暴力じゃ何も解決しないんです!」


「だまれだまれだまれ! 私がこの22年間、何を糧に生きてきたと思う!? 復讐だよ! 復讐! あれは忘れもしない中学三年の卒業式の日……私が3年間憧れ続けた同級生の男子に思い切って胸に秘めた思いを打ち明けたのだ! 『卒業式が終わったら体育館裏で待っています。大事な話があるから逃げないでネ。逃げたら来世まで追いかけてブっ殺すゾ。グフフ』という、非常にお茶目なラヴレターを靴箱に500通入れて、私は体育館裏で、クレイモア地雷をいたる所に設置し、木陰に自動機関銃をオートで発射できるようにセットして万全の状態で待ち構えていたのに……あの人はこなかった……」


 来るわけがない。


「藤谷 勝機くん……あの人が手に入らない世界なんて、いらない! だから、ブラッドスコーピオンを組織し、この世界を支配して、作り変えてやろうと思ったのよ!」


 藤谷 勝機。その名前には聞き覚えがある。親父の旧姓は藤谷。親父は島谷家の婿養子に入ったのだ。そして、親父の名前は勝機である。親父は今年37歳……。ここまで気味が悪いほどに符合したいくつものファクター。


 間違い無い。


 ――同姓同名の同い年のそっくりさんだ。


「先生……」


 ちなみに、親父の名前は勝機と書いてチャンスと読む。ふじや ちゃんす。なんてネーミングセンスだ。役所がよくこんな名前を受理したもんだ。俺、普通の名前でよかった。でも、もし俺に子供が出来たら、烈火(ブレイズ)とか、光輝(シャイニング)とか、魔法力源(マナ)とか付けてあげたいな。


「しかし、私の野望もここまでのようだ。こうなったら道は一つ。お前の姉を殺して私もここで死ぬ」


 先生は銃口を姉貴に向けた。


「やめて! 姉さん!」


「え?」


 背後から少女の悲痛な声。振り向くと、そこにいたのは……。


「ダック?」


「静流!? 何をしているの、早く逃げなさい。あなたまで捕まるわよ!」


「もう、いいのよ。姉さん……私達の戦いは終わったの。もうやめにしましょう。こんなことしても、何にもならないよ!」


 ダックの頬を流れる一筋の光。それは、涙だった。


「しかし、静流! あなたも私と同じように島谷 勇気を体育館裏に呼び出して、クレイモア地雷をセットして、木陰に自動機関銃をオートで発射できるようにセットして、さらに捕獲用ネットと神経ガスも用意して万全の状態で待っていて、すっぽかされたというのに、あなたはそれでも許せるの!?」


 やはりか、ダック。俺を捕まえて解剖でもするつもりだったのだろう。気の抜けない女だ。


「島谷くんには、もう愛する人がいたから……初めから私が彼の心に入り込む隙間なんてなかったの。それに気が付いたから……だから、もういいの」


 ダックは笑っていた。そして、俺の隣まで歩いてくる。


「ごめんなさい、島谷くん。あなたをこんな目にあわせてしまって……。お姉さんにも、ひどいことしちゃったね。この罪は、ちゃんと償うから、だから……許してくれとは言わないよ。その代わり、お願いを一つだけ聞いて欲しいの」


 ダックは俺に背を向けると、先生のところまで歩いて、先生から銃を奪い取った。


 そして、先生を優しく抱いて、頭をさする。


「姉さん。私達は間違っていたのよ。ブラッドスコーピオンの拠点は全て制圧されてしまったわ。構成員も、ほとんどが捕まってもう組織はメチャクチャ……私達に残された道は、これしか」


 ダックは笑っていた。しかし、頬を流れる光はとめどない。やがて先生から体を離すと、俺の目の前に姉貴をつまんで放り投げた。


「ダック……?」


「島谷くん。今までありがとう。そして、ごめんなさい。こんな私だけど、本当は君のこと大好きだったんだよ? でも、私って不器用だから……不器用すぎるよね。あーあ。もっと器用にうまく生きれたらなあ」


 ダックはなおも笑う。しかし、頬を流れる光は止まるどころか、その量を増していた。


「おい、ダック。こっち来いよ、なあ?」


「私からのお願い、『ずっと、私のこと忘れないでいて』」


 ダックは笑うと、何かのスイッチを押した。


「まずい、逃げろユウキ!」


 ジョニーの言葉が終わる前に、目の前が光で満たされて……。


 体育館が、爆発した。

次回、いよいよ感動?のクライマックス!

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