体育館の死闘
島谷 勇気の精神コマンド
熱血 いいかげん
不運 誤爆
塊 中二病
島谷 優子の精神コマンド
冷血 誘惑
超ド根性 抹殺
闇討 支配
ジョニーのグラサンがキラリと光り輝いた。そして、銃口が先生を捉える。
「おっと、動くな。ヨシコ・ヤスダ。お前には聞きたいことが山ほどある。ブラッドスコーピオンの拠点、構成員の数……今日は私と一夜を過ごしてもらうぞ」
先生はジョニーの『私と一夜を過ごしてもらう』というセリフに過剰反応した。
「ふ……ふふふふふ! 私を誘惑しようとしてもムダだ! 私のストライクゾーンは、10代前半の半ズボンをはいた、みずみずしい太ももの少年……お前のような、下半身丸出しのアホに興味など……ない!」
先生の銃が火を吹いた。ジョニーはそれをマトリッ○スみたいに、上半身を逸らしてかわす。ハリウッドスターのようにかっこいいアクションだ。下半身さえ見なければ。
俺達はそちらに気を取られていて、それに気が付かなかった。体育館の入学式とか卒業式の時にパイプイスをしまうスペース……舞台のすぐ真下のスペースが物々しい音を上げて開いていったのだ。
そこから中村のおばあちゃんにウリ二つのおばあちゃんが2人、リニアレールに乗ってやってきた。中村のおばあちゃんとの相違点は、あえていうならば、パーソナルカラー……割烹着の色の違いであろうか。割烹着の右胸にそれぞれ『2号機』、『3号機』という小学生みたいな名札をくっつけている。
2号機は赤。3号機は黒の割烹着をそれぞれ着込んでいて、初号機……中村のおばあちゃんは白い割烹着だ。
「オヴァ2号機、3号機リフトオフ! やれ!」
リニアレール……といっても、線路のような物の上に車イスが乗っかっているだけだ。その車イスから2人のおばあちゃんが腰を上げると、瞳が赤く光った。
「ターゲットカクニン。オヴァ初号機及び、シマタニ ユウキ、ヘンタイ」
「NO!? ヘンタイではない! ジョニー・サンダースだ!」
ジョニーは、丸出しの下半身をさらしながら前にずかずか進んだ。どこをどう見てもヘンタイだ。
俺も下半身スカートのままだけど……。
「オヴァ2号機、キンセツセントウニイコウ」
2号機は、チェーンソーの刃を激しく回転させ、それをジョニーに向って繰り出した。
「WHAT!?」
ジョニーはそれをすんでのところでかわすと、俺の隣にまで後退する。
「オヴァ3号機、スナイプモードニイコウ」
今度は黒い割烹着の3号機が、超電磁式加速砲試作一号機『まじかるよっしー』と書かれたドデカイ機械と連結した。
「ターゲット、マルチロック。ハイジョカイシ」
閃光。見切る間もなく光が体育館を突き抜ける。いくつもの光の筋が俺やジョニーの横をかすめて、体育館の壁ごとブチ抜き、学校の校舎すらも貫いた。
なんだこれは?
「フフ。まじかるよっしーは、いわゆるレールガンなのだ。これを見切ることなど、まず不可能。テストタイプの初号機と違い、2号機と3号機は、実戦を想定して開発された本物のオヴァンゲリオンなのだ! 動力機関に、S3機関を内蔵していて、約1億年の作戦行動が可能なのだ!」
なんじゃそら。
「どうする、ユウキ? これではうかつに近づけんぞ!」
ジョニーがぎりりと悔しさのあまり唇をかみ締めた。
ジョニーの言うとおりだ。近寄れば2号機のチェーンソーが待ち構え、近寄らなくても3号機の超電磁式加速砲試作一号機で狙い撃ちだ。
「勇気ちゃん。私が盾になるわ。私の体は超合金ニューΣで形成されているの。超電磁式加速砲試作一号機の攻撃にも数発は耐えれるわ」
「でも……それじゃおばあちゃんが……」
「何を言っているの! あなたは優子ちゃんを助けなさい! 今あの子を助けられるのはあなたしかいないのよ!」
「おばあちゃん……」
おばあちゃんは、笑っていた。そして、一歩、また一歩と、舞台に向って歩き出した。
「バカめ! もはや貴様のような旧型のポンコツに用は無い! やれ、3号機!」
超電磁式加速砲試作一号機の砲身が熱気を帯びる。そして、その巨大な砲口から光が放たれ――。
おばあちゃんが光に飲まれた。
「お、おばあちゃああああああ!」
『行きなさい、勇気ちゃん』
そう聞こえた気がした。
俺は駆ける。音の速度を越え、光の速さに達するくらいにまで加速する。
「うおおおおおああああああああああ! よくも、よくも、おばあちゃんをおおおお! 誰が俺にお小遣いをくれると思ってんだーー!」
世の中って奴は理不尽だ。15歳になるまで働く事はできない。だから、義務教育が終わるまで俺たち子供は大人の顔色を窺って、手もみをして、へーこらして、成績を上げて……そうでもしなければ金を得ることが出来ない。
俺にとっておばあちゃんは一番小遣いをくれる大事な存在だったのに! 許せない! 小遣いが減った恨みを思い知れ!
舞い上がる。体育館のほこりよりも軽く、バスケットゴールよりも高く、時間を置き去りにして俺は舞い上がる。
下界では、超電磁式加速砲試作一号機の砲口が俺を捉えていた。
思い出せ。俺が欲しい物を。今月の小遣いを。
500円で一体何ができたと言うのだ? せいぜいラノベが一冊買えるか買えないか。しかしそれすらも姉貴にぶんどられ、俺は無一文となって夜の街を食うや食わずでさまよった。
その俺に小遣いをくれたおばあちゃんを失った怒り……。
「見える!」
光の軌道が見えた。手に取るように解る光の軌跡。俺はその隙間を縫うように降下していく。
怒りが、おばあちゃんを失った怒りが俺を最強のソルジャーへと進化させたのだ。
「うおおおおおおお!」
鬼神が如き咆哮。俺の拳にはまさに鬼が宿っていた。
ブチ抜け!!
「島谷流暗殺術、極みの六!」
俺の拳が超電磁式加速砲試作一号機ごとオヴァ3号機を貫いた。オヴァ3号機は座っていたリニアレールに着席して動かなくなる。
初めて実戦で使用した『ファイナルブラッディトルネードダークブラストシャイニングファイアークラッシュままれーどボーイ』……その威力は凄まじかった。
「まだ収まってないぜ、俺の怒りは」