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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

小豆島・最後の楽園外伝

作者: 清ピン
掲載日:2026/11/01

まえがき


本編が始まる前、世界はまだ平和に見えていました。しかし、その裏側では、ある独裁国家による秘密研究が進められていたのです。


今回は、ゾンビが世界中に現れるまでの過程を、政治的な陰謀、科学者たちの葛藤、家族の日常、そして迫り来る異変を交えた短編小説にします。


前日譚・特別外伝


『小豆島・最後の楽園 外伝』


悪魔の薬 D-ゼロ


時代設定:本編開始直前/全10話構成


世界が壊れる、その前に


世界は、いつまでも続くものだと誰もが思っていた。


朝になれば電車が走り、学校では子どもたちが勉強し、会社では人々が働く。


スーパーマーケットには食料品が並び、農村では農家が田畑を耕し、漁港では漁師たちが魚を水揚げする。


日本の香川県、小豆島。


瀬戸内海に浮かぶその島にも、いつもと変わらない穏やかな時間が流れていた。


オリーブ畑には風が吹き、中山千枚田では季節の作物が育ち、港には漁船が並んでいる。


しかし、その平和な世界の裏側で、人類の歴史を大きく変える計画が進んでいた。


その計画に付けられた名前は――。


D-ゼロ。


人間の身体と精神に深刻な異常を引き起こす、恐ろしい薬だった。


そして、この薬が世界に解き放たれたとき、人類は初めて知ることになる。


文明というものが、どれほど脆い土台の上に成り立っていたのかを。


第一話 秘密国家の地下研究所


東ヨーロッパの山岳地帯。


地図には記載されていない巨大な地下施設が存在していた。


施設の名称は、国家生物科学研究センター第七研究区。


そこでは、国家の最高幹部しか知らない秘密研究が続けられていた。


研究の責任者は、国家科学顧問のヴィクトル・グラノフ博士。


年齢は58歳。


長年、生物学と神経科学の研究に携わってきた人物だった。


彼の研究室には、数十名の研究者が所属していた。


その中に、一人の若い女性研究者がいた。


エレナ・ソコロワ。


32歳。


彼女は優秀な研究者だったが、今回の研究には強い疑問を抱いていた。


ある日の午後。


研究室の大型モニターに国家最高評議会からの映像が映し出された。


国家議長「諸君。我が国は、これまで数十年にわたり国際的な脅威にさらされてきた」


国家議長「我々は国民を守らなければならない。そのためには、従来の科学技術を超えた新しい研究が必要だ」


グラノフ博士「研究の進捗については、予定どおり報告できます」


国家議長「例の研究はどうなっている?」


グラノフ博士「まだ不明な点は残っていますが、一定の成果が得られています」


国家議長「完成を急げ。国家の未来が懸かっている」


映像が終了した。


エレナは博士の顔を見つめた。


エレナ「博士。本当にこの研究を続けるのですか?」


グラノフ博士「どういう意味だ?」


エレナ「私たちが研究しているものは、医療に役立つ技術とは違います」


グラノフ博士「国家の命令だ」


エレナ「でも、もし研究成果が悪用されたら?」


博士はしばらく黙っていた。


グラノフ博士「科学そのものに善悪はない。使う人間の問題だ」


エレナ「その言葉で、すべてを正当化できるとは思いません」


彼女の胸には、嫌な予感が広がっていた。


研究資料には、まだ正式な名称すら与えられていない薬品が記されていた。


その仮称は、D-ゼロ。


この日、彼女は初めて研究計画の本当の危険性を感じ取った。


第二話 科学者たちの良心


研究施設の夜。


ほとんどの職員が帰宅した後も、エレナは研究資料を読み続けていた。


そこには、動物実験や初期評価に関する報告が記されていた。


しかし、資料の一部は不自然に黒塗りされていた。


エレナ「どうして、重要な記録が隠されているの……」


彼女は同僚のミハイルに相談することにした。


ミハイル・ペトロフ。


45歳の生物学者で、博士とは古くからの知り合いだった。


ミハイル「エレナ、君も気づいたのか」


エレナ「ミハイルさんも?」


ミハイル「ああ。上層部は研究の危険性を理解している。それなのに、都合の悪い情報を隠している」


エレナ「このままでは取り返しのつかないことになります」


ミハイル「私もそう思う」


エレナ「研究を止める方法はないのでしょうか?」


ミハイル「簡単ではない。国家の予算が投入されている。研究に反対することは、国家への反逆と見なされかねない」


エレナ「それでも、私たちは科学者です。人間を危険にさらすために研究しているわけではありません」


ミハイルは窓の外を見つめた。


ミハイル「エレナ。科学者に必要なのは知識だけではない。自分の研究が何をもたらすのかを考える責任だ」


その言葉は、エレナの心に深く残った。


一方、研究施設のさらに奥では、国家の幹部たちが別の会議を開いていた。


彼らは研究の成果を、外交上の切り札として利用しようと考えていた。


人々の命よりも、国家の権力を優先する者たち。


その判断が、やがて世界全体を巻き込む悲劇につながっていく。


第三話 変わり始めた世界


その頃、世界各地では小さな異変が報告され始めていた。


ある国では、原因不明の体調不良を訴える人々が増加。


別の国では、突然意識を失い、激しい混乱状態に陥る人々が確認された。


当初、各国の医療機関は、それぞれ別の問題として扱っていた。


日本でもニュース番組が海外の出来事を取り上げていた。


アナウンサー「海外の一部地域で、原因不明の神経症状を訴える患者が増えているとの情報が入っています」


アナウンサー「現地当局は、現時点で大規模な感染症との関連は確認されていないと発表しています」


香川県、高松市。


高瀬信は、休日の朝、自宅でテレビを見ていた。


まだ25歳。


農業や食料生産に関心があり、将来は地域の農業に関わりたいと考えていた。


信「原因不明か……。最近、海外のニュースも物騒になってきたな」


スマートフォンを手に取ると、以前から知り合いだった水野美咲からメッセージが届いていた。


美咲『海外のニュース見た? 病院でも少し話題になっているよ』


信『見たよ。何か分かったの?』


美咲『まだ何とも言えないけど、医療関係者の間でも情報が錯綜しているの』


信『無理しないようにな』


美咲『信こそ、ちゃんと食事してね』


信は少し笑った。


信「相変わらず世話焼きだな」


このときの二人は、まだ知らなかった。


自分たちの日常が、まもなく大きく変わることを。


第四話 D-ゼロの誕生


秘密研究施設。


グラノフ博士は、国家幹部たちに最終報告を行っていた。


グラノフ博士「研究対象の薬品は、当初の想定とは異なる深刻な影響を引き起こす可能性があります」


国家議長「具体的には?」


グラノフ博士「神経機能や認知能力に重大な異常が生じるおそれがあります。さらに、その影響が周囲の人間に広がる可能性も否定できません」


国家議長「可能性という言葉は聞き飽きた。結論を言いたまえ」


グラノフ博士「安全性は確認されていません」


国家議長「それでも研究を続けろ」


グラノフ博士「しかし……」


国家議長「これは命令だ」


会議室に沈黙が流れた。


博士は理解していた。


自分たちの研究が、もはや科学の領域だけで扱えるものではなくなっていることを。


その夜、施設の研究資料には正式な管理名称が記載された。


D-0。


研究者たちは、それをD-ゼロと呼ぶようになった。


誰もがその名前を口にするとき、どこか不安を感じていた。


それは、人類にとってのゼロ地点。


文明が崩壊する始まりになるかもしれなかった。


第五話 消された警告


エレナは、研究資料の中に不自然な記録を見つけた。


研究に関する重大な懸念が記載された報告書が、正式な記録から削除されていたのだ。


エレナ「これは……」


彼女はミハイルを呼んだ。


エレナ「ミハイルさん、この報告書を見てください」


ミハイル「何だ?」


エレナ「博士が上層部に提出した警告文です。でも、正式な研究記録には残っていません」


ミハイル「まさか、握りつぶされたのか」


エレナ「研究の危険性を知っていたのに、隠していたんです」


ミハイルは深く息を吐いた。


ミハイル「もう時間がないかもしれない」


エレナ「どういうことですか?」


ミハイル「研究施設の管理体制が変更されている。外部の専門家も入れなくなった」


エレナ「それでは、誰も止められないじゃないですか」


ミハイル「だからこそ、記録を残さなければならない」


その日から、二人は研究の経緯と危険性を記録することにした。


それは、後世の人類に残すための警告だった。


第六話 最初の異変


数日後。


研究施設から遠く離れた都市の医療機関で、異常な患者が確認された。


患者は意思疎通が困難になり、周囲の人々に対して予測できない行動を示していた。


医師「患者の意識状態が安定しません」


看護師「ご家族との会話も成立していないようです」


医師「原因は?」


看護師「まだ分かりません」


その頃、別の医療機関からも似た報告が届き始めていた。


やがて、各国の医療機関は共通する症状に気づき始める。


しかし、その原因が何なのかは分からなかった。


ニュース番組では、専門家が慎重に説明していた。


専門家「現時点では情報が不足しています。過度に不安になる必要はありませんが、各国の医療機関による情報共有が必要です」


世界はまだ、事態の重大さを理解していなかった。


第七話 崩れ始める日常


日本でも、異変が少しずつ大きくなっていた。


海外からの渡航者に関する健康相談が増え、各地の病院では対応に追われていた。


高松市。


信は、農業関係の資料を整理していた。


そこへ、大地から電話が入った。


大地「おう、信! ニュース見たか?」


信「見たよ。何かあったのか?」


大地「海外で大変なことになっているらしいぞ。病院も混乱しているって話だ」


信「まだ詳しいことは分からないみたいだけどな」


大地「こういうときこそ、食料が大事だよな」


信「そうだな。食料は簡単には増やせないからな」


大地「お前らしい答えだな」


その後、遥からも連絡が入った。


遥「海外の情報が不自然に途切れている地域があります」


信「通信障害か?」


遥「それだけならいいんですが、複数の国で同じような状況が起きています」


信「何か隠されている可能性がある?」


遥「今の段階では断定できません。ただ、情報が少ないこと自体が問題です」


一方、海斗は瀬戸内海の港で船の整備をしていた。


海斗「何があっても、海の様子は見ておかないとな」


さくらは農業関係の作業を終え、野菜の苗を眺めていた。


さくら「せっかく育ってきたんだから、ちゃんと収穫まで見届けたいな」


それぞれが、いつもどおりの生活を続けようとしていた。


しかし、世界は確実に変わり始めていた。


第八話 研究者たちの最後の決断


秘密研究施設。


エレナは、外部から届いた報告を読んでいた。


そこには、各地で発生している異常事例がまとめられていた。


エレナ「やっぱり……」


ミハイル「何か分かったのか?」


エレナ「私たちが警告していた問題と、現地の症状が一致しています」


ミハイル「D-ゼロが関係している可能性が高い」


エレナ「でも、どうして外部に広がったのでしょう?」


二人は博士の研究室へ向かった。


グラノフ博士は、疲れ切った表情で椅子に座っていた。


エレナ「博士。もう研究を止めてください」


グラノフ博士「遅すぎたのかもしれない」


ミハイル「博士、何が起きているのですか?」


グラノフ博士「上層部は研究成果を管理できていると思っている。しかし、実際には状況を正確に把握できていない」


エレナ「それでは、世界中に広がっている異常は……」


グラノフ博士「原因はまだ断定できない。だが、我々の研究が関係している可能性は高い」


博士は机の上に置かれた資料を見つめた。


グラノフ博士「私は科学者として、取り返しのつかない過ちを犯した」


エレナ「博士……」


グラノフ博士「せめて、これ以上の被害を防ぐために、真実を残さなければならない」


その日、三人は研究の経緯を記録した。


それが後に、人類がD-ゼロの正体を探るための重要な資料となる。


第九話 世界最後の普通の日


その頃、小豆島には穏やかな時間が流れていた。


オリーブ公園では観光客が写真を撮り、中山千枚田では農作業が行われていた。


港には漁船が並び、商店街には買い物客の姿があった。


信は、久しぶりに小豆島を訪れていた。


信「やっぱり、この島はいいな」


美咲「静かで落ち着くわね」


信「こういう場所で、いつか農業を中心とした生活をしてみたいんだ」


美咲「信らしい夢ね」


信「食べ物を作って、地域の人たちと協力して暮らす。そんな生活も悪くないだろ?」


美咲「素敵だと思う」


信「それに、子どもたちが自然の中で成長できる環境も作りたい」


美咲「信なら、本当にやりそうね」


二人は海を眺めた。


その後、大地、遥、海斗、さくらも合流した。


大地「おーい! せっかく来たんだから、うどんでも食べに行こうぜ!」


海斗「俺は魚料理がいい!」


さくら「私はオリーブソフト!」


遥「全員、食べたいものが違うじゃない」


信「まあ、順番に行けばいいだろ」


美咲「本当に平和ね」


六人は笑った。


それは、彼らにとって忘れられない一日になった。


世界が変わる直前の、最後の普通の日だったからだ。


第十話 悪魔の薬と呼ばれる日


数日後。


世界各地で異常事態が相次いでいた。


各国政府は緊急会議を開き、医療機関は対応に追われ、交通網や公共サービスにも影響が出始めていた。


秘密研究施設では、グラノフ博士が最後の報告書をまとめていた。


その報告書には、こう記されていた。


『D-ゼロは、人間の身体と精神に重大な異常を引き起こす可能性がある。』


『研究段階で確認された問題は、決して軽視してはならない。』


『本研究を人間社会に持ち込んではならない。』


博士はペンを置いた。


グラノフ博士「これが、私にできる最後の仕事か……」


エレナ「博士、私たちは諦めません」


ミハイル「真実を伝えましょう。たとえ、世界が信じなくても」


しかし、外の世界ではすでに混乱が始まっていた。


テレビでは緊急ニュースが流れていた。


アナウンサー「現在、複数の国で原因不明の異常行動を示す人々が確認されています」


アナウンサー「各国政府は情報収集を急いでいますが、詳しい原因は分かっていません」


アナウンサー「市民の皆様は、各自治体や医療機関からの情報に注意してください」


高松市。


信のスマートフォンが鳴った。


美咲からだった。


信「もしもし?」


美咲『信、大変なの。病院が混乱している』


信「何があった?」


美咲『原因不明の症状を訴える人が急に増えているの。医療スタッフも情報を整理できていない』


信「落ち着いて。美咲自身は大丈夫なのか?」


美咲『私は大丈夫。でも、これからどうなるのか……』


信「何か分かったら連絡してくれ」


美咲『信も気をつけてね』


通話が切れた。


その直後、遥からメッセージが届いた。


遥『海外の複数の地域で、通信と行政機能が停止しています。状況は深刻です』


続いて、大地からも連絡が入る。


大地『信! しばらく外出を控えた方がいいかもしれないぞ!』


海斗『港でも妙な噂が広がっている。船の運航にも影響が出そうだ』


さくら『農業関係の人たちも心配しているよ。これからどうなるんだろう』


信は、窓の外を見つめた。


いつもと変わらない街並み。


しかし、その向こう側では、何かが確実に壊れ始めていた。


そして、世界中の人々が一つの言葉を口にするようになる。


それは、D-ゼロ。


やがて人々は、その薬をこう呼ぶようになった。


悪魔の薬。


人間の尊厳を奪い、家族を引き離し、文明を崩壊へと導いた薬。


その正体が明らかになるのは、まだ先のことだった。


だが、すでに世界の時計は動き始めていた。


信「……何かがおかしい」


信「このままじゃ、本当に大変なことになる」


彼はまだ知らなかった。


自分が仲間たちとともに、小豆島に新しい生活拠点を築くことになる未来を。


そして、100万人もの人々が希望を求めて島を目指すことになる未来を。


世界の終わりは、静かに始まっていた。


あとがき――本編へつながる物語


今回の外伝では、本編『小豆島・最後の楽園』が始まる前の世界を描きました。


最初からゾンビが現れるのではなく、普通の人々が暮らしていた世界に、少しずつ異変が忍び寄る構成にしています。


特に重要なのは、D-ゼロを開発した科学者たちにも、それぞれの葛藤があったことです。


科学の発展そのものが悪なのではありません。


その力をどのような目的で使うのか。そして、危険を知ったときに人間として何を選ぶのか。


それが、この外伝のテーマです。


本編では、信たち6人が農業、漁業、畜産、医療、通信、発電などの生活基盤を整えていきます。


そして、この外伝に登場したエレナやミハイルの残した記録も、いずれ重要な意味を持つことになります。


世界が壊れた理由を知ること。そして、壊れた世界に新しい暮らしを築くこと。


二つの物語は、やがて一つにつながります。


外伝から本編への接続


外伝・完結


悪魔の薬 D-ゼロ


本編・第一部 第1話


「世界の終焉――いつもの朝が最後になる日」


D-ゼロによる異常事態が拡大する中、高松で暮らす信たち6人。それぞれの日常が崩れ始め、やがて6人は生き残るための決断を迫られる。


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