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夜の川原に降りてくる列車  作者: たむ


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第96話 星の道、静かに揺れる灯

始まりの街を離れて長い旅を続けるカイとハル。

その足はついに“星の道”と呼ばれる岬へ辿り着く。

そこで二人は、かつての夜を思わせる不思議な灯に出会う。

 海の匂いが漂っていた。

 潮風は柔らかく、どこか懐かしい響きを連れて吹いてくる。

 カイとハルは崖の上の細い道を歩いていた。

 道の名は“星の道”。

 夜になると海面に星が落ち、その光が道を照らすことからそう呼ばれているという。


 夕陽が少しずつ沈み、空の色が紫から藍へ変わりはじめていた。

 「カイさん、もうすぐですよ」

 前を歩いていたハルが振り返った。

 その顔には興奮を隠しきれない笑みが浮かんでいる。

 「この先に、“灯の塔”があるんです。昔、迷った人たちを導くために建てられたって」

 「灯の塔……」

 カイは胸の奥がざわつくのを感じた。


 ユウを探すように彷徨っていたあの夜。

 光のない世界で迷った時、もしこんな塔があったなら――

 そんな思いが一瞬胸を過ったが、今は痛みよりも温かさが勝っていた。

 隣にはハルがいる。

生きて歩く“今”がある。


 二人が岬の先端に近づくと、塔が姿を現した。

 白い石で造られた古い灯台。

 上部にはガラス窓があり、そこに淡い光がゆらゆらと揺れている。

 それは炎ではなく、星の光を溶かしこんだような青白い灯だった。


 「すごい……!」

 ハルが息を呑んだ。

 カイもまた、その光に目を奪われた。

 近づくほどに、胸の奥の鼓動が静かに力を増していく。


 塔の足元に、ひとりの青年が立っていた。

 白い外套に青い帯、背は高く、静かな目をしている。

 「ようこそ、“灯の塔”へ」

 青年は穏やかに微笑んだ。

 「私は灯守ともりのルイ。迷った旅人の灯を、ここで繋ぐ役目をしています」


 「灯を……繋ぐ?」

 カイが聞き返すと、ルイは頷いた。

 「人が歩く時、必ず胸に小さな灯が生まれます。

  その灯は、悲しみで揺れ、喜びで強くなる。

  あなたは――その灯を持っていますね」


 そう言ってルイは、カイの胸元をそっと見つめた。

 まるでそこに本当に灯があると知っているように。


 カイは言葉を失った。

 少しの間を置いて、静かに答えた。

 「……僕は、大切な人を失った。

  でも、その人は今も僕の中で灯っている気がするんだ」

 ハルが横で微かにうなずいた。

 ルイは穏やかに微笑んだ。

 「その灯は強い。悲しみを越えた灯は、容易には消えません」


 ハルが言った。

 「ルイさん、僕の灯は見えますか?」

 ルイは少し考え、ハルの胸の位置に手をかざした。

 「ええ。あなたの灯はまだ生まれたばかり。でも、とても澄んだ光です」

 ハルは嬉しそうに笑った。

 「じゃあ……僕はこの旅を続けてもいいんですね?」

 「もちろん。灯は歩くたびに強くなるものです」


 ルイは塔の扉を開き、二人を中へ招いた。

 塔の中は螺旋階段が続いており、壁には古い旅人たちの名前が刻まれている。

 その中には、カイが見覚えのある名もあった。


 ――“ユウ”


 その文字を見た瞬間、胸が震えた。

 ハルがそっとカイの袖を引いた。

 「……カイさん?」

 カイは微笑んだ。

 「大丈夫。これは悲しい震えじゃないよ。

  ……ずっと言えなかった“ありがとう”の続きなんだ」


 塔の最上部に立つと、青白い光が海へと降り注いでいた。

 波がその光を受け、海面が星空のように輝く。

 風が吹き、光が揺れ、潮騒が塔の周囲を包み込む。


 ルイは二人の背後に立ち、静かに言った。

 「この塔に灯る光は、誰かの“生きたい”という声が集まって生まれます。

  あなたの灯も、必ず誰かの道を照らすでしょう」


 カイは息を吐き、静かに目を閉じた。

 胸の奥から、あの日の声が響いた。

 ――《生きてるって感じがするからさ》


 もう涙は流れない。

 その代わりに、目を開けた時には強い光があった。

 ハルが隣で同じように光を見つめている。


 二人の灯は、海の上で重なり、やがて星の道を照らした。

 歩き続ける者の心に、静かに寄り添う灯となって。


 ルイが静かに言った。

 「夜の川原から始まった旅は、いつか必ず“誰かの朝”に繋がります。

  ――あなたたちの灯も、きっとそうなるでしょう」


 その言葉に導かれるように、カイとハルは塔を降りた。

 岬の先に広がる星の道は、ゆっくりと夜に染まり始めていた。

 二人は並んで歩き出した。

 灯を胸に抱きながら。

灯の塔で触れた光は、カイとハルの胸の灯と共鳴し、

“生きる”という旅が誰かへ繋がる未来を示していた。

二人の歩みは今、静かに新たな章へ進み始める。

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