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夜の川原に降りてくる列車  作者: たむ


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第76話 星影の道、風よりも遠く

カイとハルの旅は、朝の街を離れ、星影の降る丘へ向かう。

そこで出会うのは、過去と未来の境に立つ“影の案内人”。

二人の絆が、新たな光を呼び覚ます。

 朝の街を出てから、どれほど歩いただろう。

 陽は高く昇り、やがて傾きはじめ、世界はゆっくりと夕暮れの色へと染まっていった。

 カイとハルは川沿いの小道を歩き続けている。

 水面はオレンジと青を混ぜたような色になり、鳥たちは巣へ帰っていく。


 「旅人さん、いや……カイさん」

 ハルが言いかけ、少し照れたように笑った。

「もう“旅人さん”じゃないですよね」

 「そうかもしれないな。僕もこの街の“住人”になりつつある気がするよ」

 カイが笑うと、ハルもつられて笑顔になった。

 その横顔には、自分が風に託した手紙が届いた日のあの光が宿っているように見えた。


 「今日はどこまで行くんですか?」

 「風の地図が示す方角へさ。……ほら」

 カイは胸ポケットから銀色の懐中時計を取り出した。

 “時刻なき鉄道”の紋章が刻まれたその時計は、彼だけの「時」を刻み続けている。


 針は夕方を指している。

 だが、進むべき方向を示すように、針が一瞬だけ震え、北西を目で追うように動いた。


 「また光った!」

 ハルが目を輝かせた。

 「ねえ、カイさん。時計って、時刻だけじゃなくて……道も教えてくれるんですね」

 「僕も最近気づいたよ。

  これは“時間”じゃなくて、“心”を測る道具なんだ」


 ハルはしばらく沈黙し、遠くの空を見つめた。

 そこには薄い月が浮かびはじめ、夜の幕がそっと引かれていく。


 「行こう」

 カイが言った。

「この先に、“星影の丘”があるらしい」

 「星影……?」

 「昔、この街で別れた旅人たちが、また再会する場所だって」


 ハルの表情に、どこか期待と不安が入り混じる。

 その気持ちはカイにも分かった。

 “再会”という言葉は、時に心をゆらす。

 期待と痛み、その両方を呼び起こすからだ。


 夕暮れの道を歩き続けると、やがて大地が開けた丘に出た。

 丘の上には背の低い草が風に揺れ、乾いた音を立てている。

 空には早くも大粒の星が灯り、夜が本気で世界を包みはじめていた。


 「わあ……」

 ハルの声が震えた。

 彼の前には、星が地へ落ちてきたかのような光景が広がっていた。

 小さな光の粒が風に舞い、地面に降り、また浮かび――まるで生きているようだ。


 「カイさん、これ……何ですか?」

 「“星影の道”だよ。

  旅人の記憶が光になって流れてくるんだ」


 ハルはそっと光に手を伸ばし、掌で受け止めた。

 光の粒は温かく、すぐに溶けて風に帰っていく。


 「……生きてるみたい」

 「そうだね。

  誰かの想いが、いま僕たちの道を照らしてるんだ」


 二人が歩き始めると、光の粒が足元に集まり、まるで“導くように”進むルートを描いた。

 星の川のような道。

 柔らかな光が、夜の静寂を破らず穏やかに流れていく。


 やがて丘の頂上にたどり着くと、そこに“影”が立っていた。

 男女ともつかない、年齢の分からない柔らかな輪郭をしている。

 まるで夜の中に滲み出たような、不思議な存在。


 「ようこそ、星影の丘へ」

 影の声は、風のように軽く、でもどこか深みがあった。


 「あなたは……?」

 カイが尋ねると、影は優しく言った。


 「私は“影の案内人”。

  旅で拾ったものを、次の旅人へつなぐ役目を持つ者」


 影は二人を見つめ、静かに続けた。

 「カイ。

  あなたは夜を越え、朝を歩き、風に言葉を託した。

  その旅で何を得ましたか?」


 カイは胸に手を当てた。

 懐中時計の音が小さく響く。


 「……ひとつだけ、確かなものがあります」

 「聞きましょう」

 「僕はもう、ひとりじゃない」


 影は満足そうに頷き、その視線をハルへ向けた。


 「では、ハル。あなたは?」

 ハルは少し顔を上げ、息を吸って言った。

 「僕は……生きてるって感じが、ようやくわかったんです。

  痛みがあっても、怖くても。

  誰かが想っていてくれたら、それで前に進めるんだって」


 影は微笑んだ。


 「ならば二人は、“次の道”へ行ける」

 「次の……道?」

 カイが問い返すと、影の足元から光が溢れた。

 星影の道が、夜空へ続く一筋のレールとなって広がっていく。


 「あれは……列車の」

 「そう。

  “時刻なき鉄道”の続きのレール。

  けれどもう夜の列車ではない。

  あなたたち自身が作る“未来の線路”です」


 カイの胸の時計が光った。

 ハルの手の中にも小さな光が灯る。


 「二人で進みなさい。

  過去を越え、未来を照らす旅人として」


 影は風に溶け、星の粒となって舞い散った。

 丘には二人だけが残された。

 だが、孤独はなかった。


 「行こう、ハル」

 「うん!」


 二人は星影の道をゆっくりと歩き始めた。

 光が足元で弾け、夜空がそれに呼応するようにきらめく。


 風は優しく、

 星は温かく、

 二人の影は、まっすぐ未来へ伸びていた。


 ――その旅はまだ続く。

 “時刻なき鉄道”の物語は、静かな夜とともに新たな章を迎えていた。

星影の丘で出会った案内人は、

カイとハルの旅が“未来の線路”へ向かうことを示した。

二人はもう迷わない。光は、彼ら自身の足元から生まれている。

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