表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜の川原に降りてくる列車  作者: たむ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/100

第73話 星降る坂道、静かな誓い

風の街を離れ、カイとハルは新しい坂道に足を踏み入れる。

夜空から星が降るような静かな時間の中、二人はそれぞれの“これから”を胸に誓う。

 坂道に足を踏み入れた瞬間、空気がひんやりと変わった。

 日暮れの風に混じるのは、夜の匂い――どこか懐かしい、旅の始まりを思わせる気配だった。


 「カイさん、見て。星が……降ってきてるみたいだよ」


 ハルが指差した空には、夜へと変わりゆく薄紫の天蓋があった。

 そこに小さな光の粒がふわりと降りてきては、坂道の石畳にそっと触れて消える。


 「星降坂ほしふりざか……昔、旅人が名付けたらしいよ」

 カイは微笑んだ。

 「この坂を登ると、願いが一つだけ静かに叶うんだってさ」


 「願い……」

 ハルは足を止めて、胸に手を当てた。

 風に揺れる髪、少し紅潮した頬。

 その目は、夕暮れと星の光を映して揺れていた。


 ハルには、まだ語っていない想いがいくつもある。

 旅の途中で出会った人の優しさ。

 自分の中に眠っていた記憶の影。

 そして――カイが風に託した“手紙”の温度。


 「カイさんは……もう願い、決まってる?」


 不意の問いに、カイは少しだけ目を細めた。

 坂の上に広がる空は、まるで列車の走る夜の川原のようだ。

 光が滲み、薄く揺れている。


 「うん。一つだけあるよ」

 カイはゆっくりと言葉を選んだ。

 「“また、生きたいと思える朝が来るように”。

  そして――その朝を、誰かと笑えるように」


 ハルは目を伏せた。

 その頬が照らした星の光は、どこか涙に似ていた。


 「僕も……ひとつだけ」

 ハルは胸に手を置き、空を見上げた。

 「忘れたくないんだ。

  手紙を読んだときの気持ちを……

  あの言葉をもらった嬉しさを……

  それから、カイさんと出会った日のことも」


 その声は震えてはいなかった。

 むしろ、静かに強かった。

 風の道を越えてきた少年は、確かに心に“誰か”を宿していた。


 坂道をのぼる二人の影が重なり、また離れ、そして再び重なる。

 それは“バトン”のようだった。


 「ハル」

 「うん?」

 「君は、これからどんな旅をしたい?」


 ハルは少し考えてから、笑った。

 「誰かの“迷いの灯”になりたい。

  僕も、ユウさんの言葉を受け取ったみたいに……

  今度は僕が、誰かの背中を押せるようになりたい」


 その言葉に、カイは胸が熱くなるのを感じた。

 あの日ユウが言ってくれた言葉。

 「行けよ、カイ」

 あの背中を押す声は、もう次の世代に受け継がれていた。


 やがて坂の頂上にたどり着くと、広い草原が広がっていた。

 その中央に、古びた一本の石柱が立っている。

 “願いを結ぶ柱”と刻まれた文字が淡く光っていた。


 カイとハルは石柱の前に立ち、それぞれ願いを胸に閉じ込めるように目を閉じた。

 夜風が二人の髪を揺らし、星の光がそっと肩に落ちる。


 願いは声に出す必要はない。

 ただ“捧げる”だけで、光は受け取ってくれる。


 しばらくして、ハルが目を開けた。

 「カイさん」

 「どうした?」

「僕……この旅を終わらせたくない」

 「終わらせる必要はないよ」

 カイは微笑んだ。

 「旅は、歩くたびに姿を変える。

  君が生きている限り、ずっと続いていく」


 ハルは深くうなずき、星降る空を見上げた。

 そこには“時刻なき鉄道”の軌跡のような光が、ゆるやかに流れていた。


 「ねえカイさん」

 「うん?」

 「僕たち……いつかまた列車に乗ると思う?」


 「乗るさ。

  でも次は、夜じゃない。

  朝のレールを走る列車だよ」


 星の降る坂の上、二人の影は静かに寄り添った。

 その影は、確かに“過去”と“未来”が手を取るような形をしていた。

星降る坂で、二人はそれぞれの“願い”を胸に刻む。

過去から未来へ続く道は、決してひとりでは歩けない――

その小さな誓いが、夜を超えて光へとつながっていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ