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夜の川原に降りてくる列車  作者: たむ


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第66話 星影の道、風の灯を抱いて

夜と朝のあいだを歩き続けてきたカイは、

ついに“星影の道”へ足を踏み入れる。

そこは風の灯が揺れ、記憶と未来が交わる場所だった。

 夕暮れの光が静かに落ち、街全体が深い藍色に染まりはじめていた。

 昼間の賑わいは去り、広場には柔らかな風だけが通り抜ける。

 カイは街外れの丘に立ち、ハルと並んで空を見上げていた。

 夜の気配がゆっくりと降りてきて、星がひとつ、またひとつと灯っていく。


 「……綺麗だね」

 ハルの声は、風に溶けるほど小さかった。

 「うん。こんな星の出方、初めて見た」

 カイは目を細めた。

 星々は列をなすように並び、まるで空にひかれたレールのようだった。


 ――星影の道。

 街の古い言い伝えでは、夜と朝の境目にだけ現れる光の道。

 そこを通る者は、過去の声を聞き、未来の“鼓動”を見るという。


 カイは胸元の懐中時計に触れた。

 針は静かに刻んでいる。

 「行こうか、ハル」

 「うん……でも、どこへ?」

 「わからない。でも、きっと行くべきところなんだと思う」


 丘を降りると、星光が濃く集まる場所があった。

 まるで空から落ちてきた星たちが、道の形を描こうとしているようだった。

 足元に近づくと、星の粒がふわりと浮き上がり、二人を包む。


 「これ……光の道?」

 ハルが息をのむ。

 カイは静かに頷き、一歩を踏み出した。

 足元の星が、歩みに合わせて淡い音を鳴らす。

 それは小さな鈴のようでもあり、遠い列車のレール音のようでもあった。


 しばらく歩くと、風が方向を変えた。

 暖かく、どこか懐かしい匂いを含んだ風だった。

 ハルが振り向く。

 「ねえ、カイ……今、誰かの声がしなかった?」

 カイは立ち止まった。

 確かに聞こえた。

 「ああ……聞こえる。

  でも、それは……」


 風の向こうから、一つの声がした。


 ――「ありがとう、カイ」


 ユウだった。

 はっきりと、確かに。

 耳ではなく、心の奥で響く声。


 「ユウ……」

 カイは息を呑んだ。

 声は続く。


 ――「もう心配はいらない。

   お前は、お前の時間を歩けるよ」


 胸の奥で懐中時計が鼓動した。

 カイはその場に膝をつき、目を閉じた。

 涙ではなく、温かい光が頬を流れるように感じた。


 ハルは横で静かに立っていた。

 「カイ……その人、君の大切な人なんだね」

 カイは頷いた。

 「大切で……そして、僕の“始まり”なんだ」


 風が星を揺らし、道がさらに奥へと続く。

 その先には、淡い光の門が浮かんでいた。

 輪のような光が脈打ち、どこかへつながる扉のように見えた。


 「行こう」

 カイは立ち上がった。

 「僕たちの、次の時刻が待ってる」


 ハルは迷ったように足を止めた。

 「……僕も行っていいの?」

 カイは笑った。

「ハルはもう、風の道を歩き始めてる。

  一緒に行くのは、自然なことだよ」


 ハルはうれしそうに頷き、カイの隣に立った。


 二人が光の門へ近づくと、星々が一斉に輝きを増した。

 空のレールは伸び、門の向こうへと吸い込まれるように流れていく。

 まるで“時刻なき鉄道”が姿を変え、別の旅路として現れたようだった。


 「カイ」

 風の中から最後の声がした。

 「行け。

  お前の生きる時間は、ここからだ」


 その言葉を受け、カイは迷いなく進んだ。

 ハルと並んで光の門をくぐる。

 まばゆい瞬間、夜がひらけ、星が走り、風がふくらむ。


 ――世界が、変わった。


 そこはまだ夜でも朝でもない、透明な光に満ちた場所だった。

 遠くで水の音がして、空には巨大な星の列車が絵のように走っていた。

 ハルは驚いて息を呑んだ。

 「ここ……すごい」

 「うん。たぶん……僕たちに必要な“次の景色”なんだ」


 懐中時計が鳴った。

 カイはそれを胸に当て、力強く歩き出した。

 ハルもその背に続く。


 二人の影は、星光の地面に長く伸び、

 未来へと続く静かなレールになっていた。

星影の道で聞いた“最後の声”は、

カイにとって別れではなく、新たな鼓動だった。

風の灯を抱き、彼とハルの旅は次の世界へ進む。

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