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夜の川原に降りてくる列車  作者: たむ


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第65話 光の欠片、地図の呼吸

風の道を歩き続ける二人は、ついに“光の地図”の源流に辿り着く。

そこは息づくように脈打つ大地――過去と未来が重なる場所だった。

 丘陵の向こうに広がる平原は、まるで巨大な呼吸をしているかのようだった。

 草が波のように揺れ、地面の下から柔らかな光が脈打つ。

 カイとハルはその中心へ向かって歩いていた。


 「カイ、あれ……光ってるよ」

 ハルが指差した先に、巨大な“光の池”があった。

 水ではない。

 大地の傷口から溢れたような、揺らぐ光の液体――それがゆっくりと流れ、土の表面を照らしている。


 「これが……光の地図の源か」

 カイは息を飲む。

 風の道で拾った“光の欠片”が胸ポケットの中で微かに震えた。


 ハルは池の縁へ駆け寄った。

 少年の影が光の上に落ち、その影に触れた瞬間――

 池が波立ち、半透明の像が浮かび上がった。


 「……誰?」

 ハルが後ずさる。


 光の像は少年の姿だった。

 だが、その瞳には深い影が宿っている。

 その姿を見た瞬間、カイの胸に強い痛みが走った。


 「……ユウ?」

 似ている。

 完全ではないが、面影がある。

 けれどその表情は、ユウの温かさとは異なり、どこか“断たれた未来”のような冷たさを帯びていた。


 ハルが小声で言う。

 「カイ、この子……泣いてる」


 確かに、光の少年の頬を伝うように、小さな滴が地面に落ちていた。

 それは光の涙となり、池の中へ吸い込まれていく。


 カイは一歩、池へ近づいた。

 光の少年が、急に口を開いた。


 「……置いていかないで」


 その声は、まぎれもなくユウの失われた記憶の声だった。

 かつてカイが聞くことのなかった声。

 ユウが心の奥で押し込めていた、最後の弱音。


 ハルが揺れる声で言った。

 「カイ……この子、ユウの“影”なの?」

 「……分からない。けど、これは……ユウが抱えていた痛みだ」


 カイの胸の奥が熱くなる。

 光の地図――それは“旅人たちが置いていった想いの残滓”と聞いたことがある。


 ユウが亡くなったあの日、カイに見せなかった“最後の想い”もまた、この地に降り、形になっていたのだろうか。


 光の少年がまた口を開いた。

 「カイ……僕を、忘れないで……」


 ハルが思わずカイの腕をつかんだ。

 「違うよ! ユウはそんなこと言わないはずだよ!」

 「……そうだな」

 カイは目を閉じ、深く息を吸った。


 そして光の池に向かって、まっすぐ声を出した。


 「ユウ。僕は、お前の全部を抱えて生きていく」

 「……全部?」

 「強さも、弱さも、言えなかったことも、

  最後に言いたかったことも。

  その全部を“いま”と一緒に歩いていく」


 光の池が静かに揺れた。

 光の少年の頬から流れる涙が止まり、かわりに穏やかな微笑みが浮かんだ。


 「……ありがとう」

 その声は、確かにユウのものだった。


 少年の姿は光に溶け、池の中に還っていく。

 池の輝きが増し、辺りの草原が一斉に光を帯びた。

 大地全体が“ひとつの地図”であるかのように、線が浮かび上がる。


 ハルが息を呑む。

 「これ……通路だ」

 「未来へ続く道だ」

 カイは頷く。


 手の中の“光の欠片”が強く輝き、空中に浮かび上がる。

 そして光の線路の上にそっと落ち、次の方向を示した。


 それは――

 “ハルの故郷”の方角だった。


 「……僕の?」

 ハルが目を見開く。


 カイは優しく少年の肩に手を置いた。

 「行こう、ハル。

  お前自身の“影”も、きっとどこかで待ってる」


 ハルはゆっくり頷いた。

 その瞳は、かつてのカイと同じように揺れていたが、

 その奥には――たしかに新しい光が宿っていた。


 二人は光の道へ踏み出した。

 大地の地図が呼吸するように輝き、その中心で一筋の風が流れる。


 ――どこへでも行ける。

 風は、そう告げているようだった。

光の池が映し出したのは、ユウの“最後の影”。

それを受け止めたカイは、未来へ進む道を確かに見つけた。

次は、ハル自身の“物語の入口”へ――。

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