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夜の川原に降りてくる列車  作者: たむ


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第51話 光降る岸辺、再会の気配

朝の街を発って歩き続けた二人は、ついに“光の川”へ辿り着く。

その岸辺でカイは、ずっと胸の奥にあった“答え”と向き合うことになる。

 街を離れてから、どれほど歩いただろう。

 陽はゆるく昇り、白い雲がゆっくりと形を変えながら空を渡る。

 カイとハルは並んで歩き、草の匂いのする風を胸いっぱいに吸い込んでいた。

 旅は静かだ。

 足音がリズムとなり、心臓がそれに合わせて動く。

 歩くたび、胸の奥に積もっていた重さが少しずつ軽くなるのがわかる。


 空は青く澄み、遠くの山々の稜線が薄く白く輝いている。

 ハルは時折振り返っては、カイの顔を見て微笑んだ。

 「疲れてませんか?」

 「いや、大丈夫だよ。むしろ……気持ちがいい」

 風に乗った草花の匂いが、どこまでも優しい。


 やがて小高い丘を越えたとき、二人は息を呑んだ。

 眼下に広がっていたのは――光の川だった。

 白とも銀とも言えぬ光が流れ、川の表面には百合の花が無数に揺れている。

 そのひとつひとつが淡い光を放ち、風が吹くたびに揺らいでは音のない響きを奏でていた。


 「ここ……どこかで」

 ハルが呟いた。

 カイは胸が熱くなるのを感じた。

 「うん、知ってる。ここは……僕が昔、ユウと来た場所に似てる」


 記憶が蘇る。

 冬の川。

 冷たい水の匂い、ユウの笑い声、あの日の風。

 「生きてるって感じがする」

 あの声が、光の川の向こうで囁いたように聞こえた。


 ハルが川岸へ歩み寄り、しゃがみ込んだ。

 「この花……あの時と同じ香りがします」

 「祈りの花だよ」

 カイがそっと言うと、ハルは目を丸くした。

 「じゃあこれ、誰かが誰かを想う気持ちが流れてきたってことですか?」

 「そうだね。そして……多分、届けられなかった想いも」


 川の中心で、ひときわ強く光る花があった。

 カイは吸い寄せられるようにそちらへ歩いた。

 その花は、他よりも少しだけ大きく、白い花弁の先が金色に光っている。

 「……これは」


 胸の奥が強く鳴った。

 彼が何かを口にするより早く、風が吹いた。

 川面がさざ波を立て、光が一斉に跳ね上がる。

 その瞬間――


 聞こえた。

 懐かしい声が。

 ずっと胸の奥で繰り返していた声が。


 ――“カイ”


 振り返ると、そこには誰もいない。

 だが確かに聞こえた。

 呼ばれた気がした。

 何度も夢に見た優しい声で。


 「今……ユウの声が」

 呟くと、ハルがそっと隣に立った。

 「僕にも聞こえました。

  なんだかあたたかくて、切なくて……」


 カイは拳を握った。

 息が震えている。

 涙はこぼれない。

 ただ、胸の奥で何かが静かにほどけていく。


 と、その時。

 川面の光が集まり、ひとつの形を作り始めた。

 輪郭が揺れ、白い影のような、人の姿に変わっていく。

 ハルが息を呑む。

 カイも、動けなかった。


 その光の人影は、ゆっくりと手を伸ばした。

 声はない。

 しかしその仕草には、確かな意味があった。

 ――“大丈夫だ”

 ――“もう、行ける”


 カイは一歩踏み出した。

 胸が締めつけられる。

 けれどその痛みは、悲しみではなく確かな“想い”だった。

 光の影が、微笑んだ気がした。


 「ユウ……僕、やっと……」


 もう言葉は続かなかった。

 光の影はそっとカイの肩に触れるように手を伸ばし、

 そして、風に乗って消えていった。


 残されたのは、川面に揺れる百合の香り。

 そして――銀色の小さな羽が一枚。

 それは光に溶けながら、カイの足元にふわりと落ちた。


 カイはそれを拾い上げ、胸に当てた。

 「ありがとう。届いたよ。

  僕は、生きるよ。君と一緒に」


 風が吹く。

 ハルが静かに肩を寄せた。

 「カイさん。一緒に行きましょう。

  ここから、僕たちの旅を」


 カイはゆっくり頷いた。

 川が静かに、光を流しながら彼らの背を押していた。


 光の川のほとりで、

 二人の影はゆっくりと伸び、

 やがて一つの形になっていく。


 新しい物語が――いま始まりつつあった。

光の川でカイが見た“姿”は、別れではなく新しい旅立ちの合図だった。

ユウの想いを胸に、カイとハルの歩く道は、ここからさらに広がっていく。

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