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夜の川原に降りてくる列車  作者: たむ


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第50話 光のレール、未来へ

長い夜と数えきれない夢を越え、カイとハルはついに“未来の駅”へ辿り着く。

そこに待つのは終着か、さらなる始まりか――。

旅のレールが、いま光を放ちはじめる。

 朝の街を発ってから、どれほど歩いたのだろうか。

 空は一度青を深め、黄金へ傾き、やがて静かな薄紅色を帯びていた。

 カイとハルの足音は、白い草原の道を踏みしめながら軽やかに続いている。

 風は優しく、遠い鳥の声が響き、世界の輪郭が淡く色を変えていく。


 「ねぇ、カイさん」

 ハルが落ち葉を拾いながら言った。

 「ぼくたち、どこまで歩くんだろうね」

 「さあ……でも、終わりが決まってる旅も悪くないけど、終わりが見えない旅も、案外いいものだよ」

 「うん。ぼくもそう思う」


 ハルは足元の影を覗き込み、続けた。

 「影って、ふたりで歩くと重なるんだね。これがぼく、こっちがカイさん」

 「そしてどこかでユウも歩いてる」

 カイはそう言って、影の先を見つめた。

 夕陽に伸びた影は、確かに三つの形を描いているように見えた。

 まるで、この旅がずっと前から三人で続いているかのように。


 やがて道が開け、丘の上に白い塔が現れた。

 それは石と光でできたような不思議な建物で、塔の先端には金の輪が浮いていた。

 塔の下には駅のようなプラットホームがあり、古い木の看板が掲げられている。


 《未来駅みらいえき


 カイは思わず息を飲んだ。

 「未来……」

 その言葉はどこか胸を強く叩いた。

 夜の列車に乗っていたときは、未来なんて言葉がこんなにも温かいとは思わなかった。


 「ねぇカイさん。あれ……レールじゃない?」

 ハルが指差した先には、塔の下から空へ向かって伸びる光の線があった。

 青と金が混じりあうその線は、確かに列車のレールのようで、しかも生きているように脈動している。


 カイは近づき、そっと触れた。

 指先に、かつて“時刻なき鉄道”の振動が伝わる。

 懐かしく、そして新しい。

 夜空ではなく、夕暮れの空へ向かって伸びるレール。

 「これは……未来へ続く道なんだ」


 塔の階段を登ると、そこにひとりの人物がいた。

 白いスカーフを巻いた“渡し守”の少女だ。

 風の中で静かに佇み、カイの手にある銀の懐中時計へ視線を落とした。


 「カイ。あなたの時刻は、ちゃんと動き続けていますね」

 「君のおかげだよ」

 少女は首を振った。

 「いいえ。それはあなたの心が旅を続けているから。

  そして――その隣にいる少年も、自分の“時刻”を持ち始めている」


 ハルは少し恥ずかしそうに笑った。

 「ぼく、風から手紙をもらったからかな」

 「ううん」

 少女はハルの胸へそっと手を当てる。

 「あなた自身が“生きたい”と思ったからよ」


 その瞬間、塔に刻まれた複雑な文様が光を放ち、風が逆巻いた。

 光のレールが強く輝き、塔の上に小さな白い車両が姿を現す。

 夜の列車とは違う――明るく、静かで、柔らかな光を湛えた車両。


 「これが……未来の列車?」

 カイの問いに、少女は頷いた。

 「ええ。夜の川原に降りてくる列車ではなく、朝を迎えた旅人のための列車です。

  あなたが選ぶなら、どこへでも連れていく」


 カイは懐中時計を握りしめた。

 針は今を指している。

 止まることなく、確かに進んでいる。


 「どうするの?」

 ハルが隣で尋ねた。

 その目は不安ではなく、静かな期待に満ちている。

 カイはゆっくり息を吸った。


 「乗ろう。

  けれど――これは最後の旅路じゃない。

  未来へ向かって、また歩いていくための旅だ」


 ハルは嬉しそうに頷いた。

 「ぼくも、一緒に行っていい?」

 「もちろんだ。お前はもう、ひとりじゃない」


 二人が車両に足を踏み入れた瞬間、光のレールが唸りをあげた。

 塔の輪が回転し、風が二人を包み込む。

 少女は外から声をかける。


 「気をつけて。

  未来は誰にも決まっていないけれど――

  あなたが選ぶたびに、それは形を変えていく」


 車両は静かに浮かびあがり、光のレールの上を滑りはじめた。

 夕暮れの空が広がり、雲が金色に染まる。

 カイとハルの影は、それぞれ一つの線としてレールと並び、前へ前へと伸びてゆく。


 列車が高く昇ると、地上の街が小さく見える。

 広場、時計塔、川、そして白い花の咲く丘。

 すべてが優しい光で包まれていた。

 カイはふと、風に向かって呟いた。


 「ユウ……ありがとう。

  僕はもう迷わない。

  ちゃんと、“生きる方”へ進むよ」


 風が頬を撫でた――まるで返事をするように。


 列車は加速し、未来へ続く空を駆けていく。

 その光はどこまでも伸び、二人の影を柔らかく包みながら、

 新しい物語の始まりを告げていた。

カイとハルは“未来駅”から再び旅立った。

終わりではない――これは新しい朝へ向かう、第二のレール。

物語は静かに続き、その先でまた誰かの心を照らしていくだろう。

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