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夜の川原に降りてくる列車  作者: たむ


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第47話 光の路地、すれ違う未来

始まりの街の奥深く、朝でも夜でもない光が差し込む路地がある。

そこでカイとハルは“未来の影”と出会い、互いの心に隠れた不安を知る。

 始まりの街に来てから、いくつもの朝を過ごした。

 太陽の昇る位置は毎日少しずつ違うが、この街の空気はいつも同じように澄んでいる。

 けれど、今日はどこか違った。

 風のにおいが変わっていた。


 「ねえ、カイ」

 街の大通りを歩きながら、ハルが言った。

 「街の奥のほうに、“光の路地”って呼ばれる場所があるの知ってる?」


 「光の路地?」

 「うん。朝でも夜でもない時間が流れるって、噂になってる」

 ハルの瞳は、いつものように好奇心の光を宿していた。


 カイは少し考えたあと頷いた。

 「行ってみようか」

 「うん!」


 二人は街の細い通りを抜け、パン屋の裏口を通り、石畳の小道を進んでいった。

 通りの影に入るたびに、風が音を変える。

 カイは何となく胸の奥がざわつくのを感じていた。


 そして辿り着いたのは、薄い光に満ちた路地だった。

 空は見えない。

 けれど、路地全体が淡い金色に包まれていた。


 「……ここだけ、時間が止まってるみたいだ」

 カイが呟くと、ハルは耳を澄ませた。

 「ねえ、聞こえる?」


 遠くで、誰かが歩く音がした。

 乾いた石畳を踏みしめる足音。

 しかし姿は見えない。


 次の瞬間、光が揺れ、人影が現れた。


 「……あれ?」

 ハルが目を見開いた。


 カイも息を呑んだ。

 現れたのは、二人に背を向けて歩く“誰か”だった。

 白いシャツに、黒いパンツ。

 その背中は……どこか、カイ自身のように見えた。


 「カイ、あれ……」

 「分かってる。僕にも見えてる」


 ハルがカイの袖を握る。

 その手は少し震えていた。

 「もしかして……未来のあなた?」


 カイは首を横に振った。

 「わからない。でも、ただの幻じゃない気がする」


 人影はゆっくりと路地の奥へ歩いていく。

 その瞳は見えない。

 けれど、肩にのしかかるような“重さ”が遠くからでも伝わってくる。


 ――未来の悲しみかもしれない。

 ――あるいは、選ばなかった道の自分か。


 カイは一歩踏み出した。

 だが、その瞬間、人影が振り向いた。

 顔は光に隠れて見えない。

 ただ、口だけが静かに動いた。


 『戻れ』


 その声は、カイ自身の声だった。

 胸の奥で、ドクンと何かが脈打つ。


 「戻れって……? どこに?」

 カイは一歩前へ。

 ハルは慌てて腕を掴んだ。

 「カイ、だめだよ。行っちゃだめ」


 人影の足元に、黒い亀裂が走った。

 空気が変わる。

 温かかった光が、一瞬だけ冷たい闇に変わった。


 「ハル、下がって」

 「でも……!」


 亀裂は徐々に広がり、路地の石畳を飲み込もうとしていた。

 その奥から、風が吹き上がる。

 どこにも繋がっていない“風の穴”。

 落ちれば帰って来れない何かだと、本能が教えてくる。


 カイはハルの肩を押した。

 「ハル、逃げろ!」


 路地の光が強くなり、黒い影を押し戻そうとする。

 そのとき――人影が最後にもう一度だけ言った。


 『守れ』


 光が弾ける。

 路地全体が真っ白になり、黒い影も亀裂も一瞬で消えた。

 カイは思わず地面に手をつき、荒い呼吸を繰り返した。


 「カイ!」

ハルが駆け寄ってくる。

 「大丈夫!? 何が起きたの……?」


 カイは胸に手を当てた。

 鼓動が強い。

 けれど、不思議と怖くはなかった。


 「……守れ、って言ってた」


 「守る……誰を?」


 カイはゆっくりとハルの方を見た。

 その瞳は不安で揺れている。

 まだ幼さの残る顔。

 ユウとは違うけれど、どこか似ているやさしさを持っている。


 「たぶん……君だ」


 ハルは息を飲んだ。

 光の路地は、まるで何もなかったかのように静けさを取り戻していた。

 しかし、カイの胸の中には確かに“予感”が残っている。


 未来には、まだ乗り越えなければならないものがある。

 そして――ハルを守る理由が。


 街の時計塔が、午後の時刻を告げた。

 その音は、光の路地に残った不穏を追い払うように響いた。


 「帰ろう、カイ」

 ハルが言った。

 その声はどこか強くなっていた。


 「うん、帰ろう」


 二人は光の路地を抜け、街の通りへ戻っていった。

 その背中に、風がそっと寄り添う。

 まるで、再び始まろうとする旅を見守るように。

光の路地で見た“未来の影”は警告か、それとも道しるべか。

カイの胸には新たな緊張が宿り、ハルとの旅に静かな波が生まれ始めていた。

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