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夜の川原に降りてくる列車  作者: たむ


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第45話 夕映えの道、揺れる面影

夕暮れの街外れで、カイとハルは一人の旅人と出会う。

その旅人は“時刻なき鉄道”を知っていた――

過去と未来をつなぐ、新たな気配が近づく。

 街に夕暮れが落ちようとしていた。

 始まりの街の空は、まるで薄紅色の絵の具を溶かしたように広がり、家々の影がゆっくりと長く伸びていく。


 カイとハルは、川沿いの道を並んで歩いていた。

 今日の風は少し強く、木々がざわざわと揺れている。

 昼間は子どもたちの声で賑わっていた道も、今は静けさだけが残り、二人の足音だけが淡く響いていた。


 「夕暮れって、なんだか特別な時間ですね」

 ハルが空を見上げながら言った。

 「朝ほど明るくなくて、夜ほど暗くない。

  どっちにも行ける感じがする」


 カイは微笑んだ。

 「そうだね。

  僕も子どもの頃は、この時間が一番好きだったよ」

 「わかる気がします。

  どこからか、誰かが帰ってきそうな気がする時間……」


 そう言ったハルの横顔は、ユウの面影を微かに宿していた。

 それを見つめるたびに、カイは胸の奥にあたたかい痛みが広がるのを感じる。

 失ったはずのものが、形を変えて隣にいる――そんな不思議な感覚だった。


 川の向こうから、一羽の白い鳥が飛び立った。

 夕陽を背に羽を光らせながら、街の上をゆっくり旋回している。


 「ねえ、カイさん」

 「ん?」

 「いつか……また列車に乗るんですか?」


 カイは少し考えてから答えた。

 「そうだな、たぶん乗るよ。

  列車はいつだって“まだ行ける人”を乗せるからね」


 ハルは安心したように笑った。

 「僕も一緒にいいですか?」


 カイは笑って頷いた。

 「もちろん。

  でも次は、きっと夜の列車じゃない。

  光の中を走る、“新しい”鉄道だよ」


 風が吹き、二人の前に落ちていた白い花びらがふわりと舞い上がった。

 その瞬間、遠くの道の先にひとつの影が立っていることに気づいた。


 「……誰かいる」

 カイが呟く。


 逆光の中、旅装束の人物が静かにこちらを見ていた。

 背中には小さなリュック、肩には古びた外套。

 髪は長く、風に揺れている。

 ゆっくりと歩いてきたその人は、夕陽の中でようやく顔が見えた。


 年齢はカイより少し上くらい。

 けれど、不思議な雰囲気を纏っている。

 瞳は深い湖のようで、彼自身の旅の深さを語っているようだった。


 「君たちが……カイとハルかい?」

 落ち着いた声だった。


 「どうして僕たちの名前を?」

 カイが一歩前に出る。


 旅人は微笑んだ。

 「“時刻なき鉄道”から聞いたよ」


 カイは息を呑んだ。

 ハルも驚いた表情で旅人を見た。


 「あなたも――乗ったんですか?あの列車に」

 ハルが尋ねる。


 旅人は頷いた。

 「だいぶ昔にね。

  あの列車は、時を忘れさせ、また思い出させてくれる。

  僕もそこで大切な人と別れ、大切なものを受け取った」


 カイの胸がざわついた。

 旅人の瞳の奥にあるもの――

 それは、ユウと別れた後、自分が抱えたあの深い影とよく似ていた。


 「僕は今、探し物の旅をしている。

  そして……次の旅人を探すためにも、ここに来た」


 「次の旅人?」

 カイが尋ねると、旅人はまっすぐハルを見た。


 「君だよ、少年」


 ハルが目を丸くした。

 旅人はゆっくりとうなずいた。


 「君の中には“誰かの祈り”が宿っている。

  手紙が届いた時点で、君の旅は始まっているんだ」


 夕暮れの風が強くなり、川面が金色に揺れた。


 ハルはカイに目を向ける。

 「僕……行くべきなんですか?」


 カイはしばらく沈黙した。

 けれど、やがてハルの肩に手を置いた。


 「行っておいで。

  旅は怖くないよ。

  君の中には、ちゃんと“道”がある」


 ハルの目に涙が少し滲んだ。

 旅人はそんな二人を見ながら、穏やかに笑った。


 「少年。

  夜の川原に行けば、列車は必ず迎えに来る。

  それが“時刻なき鉄道”の約束だからね」


 その言葉の直後、

 夕陽の中で風が突然、温かい光を含んで吹いた。

 三人の影が長く伸び、川面に重なった。


 カイは旅人を見つめた。

 旅人の表情の奥にあるのは、

 過去を越えた者だけが持つ、深い静かな光だった。


 ハルの旅が、いよいよ始まろうとしている――

 その予感が、確かに夕暮れの空気を満たしていた。

夕暮れに現れた旅人は、ハルの新たな旅路を告げる存在だった。

“時刻なき鉄道”の物語は、形を変えながら二人の未来へ続いていく。

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