表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜の川原に降りてくる列車  作者: たむ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/100

第44話 星明かりの丘、風の灯台

夜の気配が少しずつ戻る頃、カイとハルは“風の灯台”へ向かう。

そこは旅人たちが最後に立つ丘――星々が道標となる場所だった。

 夕暮れの光が街の屋根に落ち始め、遠くの鐘がゆるやかに鳴っていた。

 昼間は澄み渡っていた空も、今は紫と藍の間を行き来している。

 カイとハルは並んで歩き、街の外れにある丘へと向かっていた。

 そこには、“風の灯台”と呼ばれる古い塔があるらしい。


 「灯台って、海にあるものじゃないの?」

 ハルが尋ねると、カイは笑った。

 「そう思うよね。でも、この街の灯台は風のためにあるんだって。

  旅人たちが“次に進む方向”を見つけるための道しるべなんだ」


 丘に続く道は、薄い金色に照らされていた。

 歩くたびに足元の草が揺れ、その揺れが夜の匂いを運んでくる。

 静かな時間。

 けれど二人の胸の奥には、小さな期待が灯っていた。


 「ねえ、カイ」

 「ん?」

「僕、風に手紙を届けてもらってから、少し変わった気がするんだ」

 「どう変わったの?」

 「胸の奥があったかい。

  一緒に歩いているのはカイだけど……時々、誰かもう一人がいる気がする」


 カイは足を止めた。

 ハルの横顔は夕陽に照らされ、ユウに似た雰囲気を帯びていた。

 「それはたぶん……君が君自身の“影”を受け入れ始めた証だよ」


 丘を登りきると、そこには古い石造りの灯台が立っていた。

 高くはないが、夜風を受けて揺れる草原の中央でひっそりと佇んでいる。

 塔の窓から漏れる光は白く、どこか懐かしい色をしていた。


 階段を上ると、静寂に包まれた展望台に出た。

 目の前には、無数の星が広がっている。

 まるで夜が息を吹き返したようだった。


 「わあ……!」

 ハルの目が輝く。

 その無邪気さに、カイは胸の奥が温かくなるのを感じた。


 遠くの空には、細い光の線が一本伸びていた。

 それはまるで列車のレールのように、夜空を横切り続けている。


 「カイ、あれ……」

 「うん。僕も見える。

  “時刻なき鉄道”だ」


 二人が見上げていると、不意に灯台の光が強くなった。

 風が集まり、塔の中心で小さな渦を巻く。


 ――カラン、と金属が触れ合うような音がした。


 その音は、懐かしい“あの列車”の鈴の音に似ていた。


 風が渦を描き、その中央に淡い姿が浮かび上がった。

 人影。

 ぼんやりと揺れたあと、輪郭が少しずつ形を持ち始めた。


 「誰……?」

 ハルが息を呑む。


 姿が光に照らされ、はっきりとした形になる。


 ――そこには、ユウが立っていた。


 カイの胸が激しく脈打った。

 「ユウ……なの?」


 ユウは優しく笑った。

 けれど、その声は風の中に溶けていて、はっきりとは聞こえない。

 それでも、確かに言葉は届いた。


 『二人とも、よく来たね』


 ハルは無意識に一歩前に出た。

 「君……僕、知っている気がする……」


 ユウはハルの肩にそっと触れた。

 「ハル、君は“続き”なんだ。

  カイが守りたかった光であり、僕が託したかった願い」


 カイは目を見開く。

 「続き……?」


 ユウは穏やかに頷いた。

 『僕が生きられなかった“これから”を、

  君たち二人が歩くんだよ』


 その声は悲しみではなく、祝福の響きを持っていた。

 風が塔を包み、星々が音もなく瞬く。


 「ユウ……僕、ずっと君に会いたかった」

 『会えたよ。

  でもねカイ、ここからは君の時だ。

  僕の影を追うんじゃなくて、君自身の“朝”を進むんだ』


 カイの胸の奥で何かがほどけた。

 涙が落ちそうになったが、彼は笑った。

 「ありがとう。

  僕、ちゃんと生きるよ。君の分までじゃなくて……君と一緒に」


 ユウはやさしい笑顔を浮かべた。

 『それでいい。

  僕は風になって、君たちを追いかけるから』


 風が強く吹き、影が揺れる。

 ハルは両手を胸の前で握りしめた。

 「ユウ……僕も生きる。

  君が感じたかった朝を、ちゃんと見てみたい」


 ユウは満足そうに目を細めた。

 『二人なら、大丈夫。

  “時刻”はもう、君たちのものだから』


 風の渦が白く光った。

 ユウの姿は徐々に透けていく。


 カイは一歩踏み出した。

 「また会える?」


 ユウの声が、風の向こうから届いた。

 『夜の川原に来ればいい。

  列車は何度でも、君を迎えに行くよ』


 光の粒となってユウの姿が消えた。

 風だけが、優しく二人を包んでいた。


 ハルがそっと呟いた。

 「……行っちゃった」

 カイは頷いた。

 「でも、終わりじゃない。

  これからが始まりだよ」


 風の灯台の光が弱まり、夜空に星がひときわ明るく瞬いた。

 丘の上には、二人分の影が寄り添うように伸びていた。

風の灯台で再び現れたユウの影。

それは別れではなく、二人への祝福だった。

カイとハルの“これから”は、星明かりの下で静かに始まっていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ