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夜の川原に降りてくる列車  作者: たむ


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第41話 星明かりの広場、静かな対話

夕暮れの気配が消えたあと、夜の街に星が降りた。

静かな広場で、カイとハルは“次の旅”について語り合う。

風はふたりの言葉を拾い、どこか遠くへ運んでいった。

 夜の帳が静かに街を包み込んでいった。

 昼間のにぎわいが消え、窓の灯りだけがあたたかく揺れている。

 川沿いの並木道では葉がさらさらと鳴り、遠くで子どもたちの笑い声が小さく余韻を残していた。


 カイとハルは並んで歩き、やがて広場へと出た。

 そこは昼間とはまるで違う表情を見せていた。

 噴水は止まり、水面は鏡のように澄み、星の光を反射している。

 時計塔の針は夜九時を指していたが、その動きはどこかゆるやかで、

 “時間”そのものが静かに呼吸しているようにも見えた。


 「夜の街、すごくきれいですね」

 ハルが目を輝かせる。

 「昼よりも好きかも。なんだか、いろんな声が聞こえる気がする」


 カイは笑った。

 「僕もだ。夜になると、思い出がよく聞こえてくるんだよ」

 「思い出?」

 「うん。ユウの声だったり、昔の自分の声だったり」


 ハルは噴水のふちに腰掛け、足をぶらぶらさせながら夜空を見上げた。

 「カイさんは、また旅に出るつもりですか?」

 「……多分ね。でも、次は列車じゃない。歩いて行くよ」

 「どうして?」


 カイは静かに息を吸い、星空へ視線を向けた。

 「夜の列車は、僕に“過去を越えろ”と教えてくれた。

  けれど、これからの旅は“未来を生きろ”っていうものだからさ。

  自分の足で歩かないと、きっと意味がない」


 ハルは少し考え込み、やがて問うように言った。

 「僕も……いっしょに行っていいですか?」


 その言葉は、噴水の水面に静かに落ちて波紋をつくった。

 カイは目を丸くした。

 「ハルも旅をするの?」

 「はい。カイさんの手紙を読んでから……

  僕、自分でもどこかへ行きたくなったんです。

  誰かの言葉に救われたなら、今度は自分の言葉を誰かに届けたいって」


 カイの胸が静かに熱くなった。

 ユウから受け取った“生きるバトン”が、今度はハルへ渡っている。

 こうして命は続いていくのだと、深く実感した。


 「もちろんだよ」

 カイは言った。

 「ハルが望むなら、一緒に行こう」

 ハルは顔を輝かせた。

 「やった! 本当に? 本当にいいんですか?」

 「もちろん。僕も一人では、少し心細かったから」


 その言葉に、ハルは照れたように笑った。

 夜風がふたりの間を通り抜け、どこか懐かしい香りを運んできた。

 木々がざわめき、星が揺れた。

 それはまるで――誰かが祝福しているように思えた。


 「でも、どこへ向かうんですか?」

 ハルの問いに、カイは空を指さした。

 「ここから北へ、光の丘があるらしい。

  そこには“新しい朝を呼ぶ鐘”があるとか」

 「それって、カイさんが黎明で聞いたような鐘?」

 「もしかしたら、似てるかもしれないね」


 広場の時計塔が、やわらかな音で時を告げた。

 夜十時。

 その音は昼間よりも深く、どこか遠くに響くようだった。


 「今夜はここに泊まって、明日の朝に出発しよう」

 「はい!」

 ハルは嬉しそうに立ち上がり、カイの手を取った。

 「カイさんと歩けるなんて、楽しみです!」


 カイは微笑み返した。

 「僕もだよ。

  誰かと同じ道を歩くって……

  こんなにも温かいことなんだな」


 ふたりは広場を離れ、街の灯のほうへ向かった。

 空には無数の星が瞬いている。

 その光はまるで、時刻なき鉄道のレールが夜空に広がったようにも見えた。


 街灯が路地を照らす。

 カイは歩きながら、ふと振り返った。

 噴水の水面に映った二人の影が、夜の中で静かに揺れていた。

 その影は重なり、また離れ、ゆっくりと未来へ延びていた。


 「ハル」

 「はい?」

 「旅に出る前に、ひとつだけ教えてほしい」

 「なんですか?」


 カイは静かに言った。

 「君が手紙を読んだとき……

  どうして涙が出たんだと思う?」


 ハルはしばらく歩いていたが、立ち止まって答えた。

 「きっと……僕の中にも誰かがいたからだと思います。

  名前はわからないけれど、

  ずっと会いたかった誰かが」


 風がふたりの間を通り抜け、夜の匂いを残した。

 その匂いは冷たくなく、どこか懐かしかった。


 カイは小さく頷いた。

 「そうか。それなら――その人にもきっと届いたんだ」


 ふたりはふたたび歩き出した。

 夜は深く静かに彼らを包み込み、温かな灯が未来への道を照らしていた。

星明かりの広場で交わした言葉は、

ふたりの新たな旅を照らす灯となった。

ユウから始まった“光の継承”は、今カイからハルへ――

未来へ伸びるレールは、静かに夜空で輝いている。

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