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夜の川原に降りてくる列車  作者: たむ


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第32話 夕風の門、光の呼び声

夕暮れの丘へ続く道を歩くカイとハル。

その先に現れたのは、光に包まれた不思議な“門”。

門が開くとき、二人の旅はまた新しい局面へ向かう。

 柔らかな夕陽が、街を金色に染めていた。

 カイとハルは、いつもの時計塔の前で一度深呼吸し、それから街外れの丘へ向かって歩き出した。

 風は穏やかで、どこか夏の終わりの匂いがした。

 ハルの手には、小さな木の笛。彼はそれを握ったまま、時折空へと視線を向けていた。


 「カイさん、今日はどこまで行くんですか?」

 ハルの問いに、カイは笑った。

 「どこまでも、風が続くところまでさ」

 「風が続くところ……それ、いいですね」


 ハルはうれしそうに足を速めた。その様子がまるで、かつてのユウに重なって見える。

 違う命、違う存在。それでも、どこか懐かしい温度を宿した歩き方だった。


 丘のふもとに着くころ、空はすっかり茜に染まっていた。

 草原を通る風が二人の影を揺らし、長く伸びた影はまるで一つの線のようにつながっている。

 そのとき、カイはふと立ち止まった。


 「……聞こえるか?」


 「え?」

 ハルが耳を澄ませる。

 すると、風の中に紛れるように、小さな鈴の音が聞こえた。


 チリン……チリン……。


 丘の上から響いていた。

 カイはその音に覚えがあった。

 “風の道”で聞いた、あの風見鶏の音だ。


 「行こう、ハル」

 「うん!」


 二人は丘を登った。

 夕焼けに染まる草原を駆け抜け、やがて丘の頂に立つ。


 そこには――ひとつの“門”があった。


 木でも石でもない。

 光そのものが形をとったような、淡い金色の輪。

 風が吹くたびに揺れ、周囲には細かな光の粒が舞っている。


 「これ……なんですか?」

 ハルが驚きに声を震わせた。


 カイはその光景をじっと見つめていた。

 ユウと旅していた頃は決して見なかったもの。

 “眠り町”へ向かう旅でもなかったもの。


 それは、まったく新しい道の入り口だった。


 「これは多分……“門”だ。

  僕たちが歩いてきた先に、次の旅路があるってことなんだろう」


 ハルは一歩近づいた。

 門の中央は淡く揺れていて、向こう側の景色が不思議に歪んで見える。


 「僕たち、これを通るんですか?」


 「そうだな。でも焦る必要はない。

  門はきっと、僕たちの“時”を見て開くものだ」


 ハルはしばらく門を見つめたあと、手に持っていた木の笛をゆっくり唇に当てた。

 そして、そっと息を吹き込む。


 高く、澄んだ音色が夕暮れの丘に広がった。

 風が揺れ、光の粒が舞い、門の輝きがひときわ強くなる。


 カイは思わず息を呑んだ。

 笛の音に呼応するように、門の中央がゆっくり開き始めたのだ。


 「カイさん! 開いてる、見て!」

 「……すごいな、ハル。君の音が門を開いたんだ」


 ハルは照れくさそうに笑った。

 「なんでだろう……わからないけど、この笛を吹かなきゃって思ったんです。

  風がそう言ってるみたいで」


 その言葉に、カイは確かな“導き”を感じた。

 風はいつも、誰かの想いを運ぶ。

 ユウの祈りも、ハルへ届いたカイの手紙も、そうして時を越えた。

 ならばこの門もまた、何かの“想い”が生み出したものに違いない。


 門の向こうから、やわらかい風が流れ込む。

 それはどこか懐かしい匂いを伴っていた。


 ――白い樹の丘。

 ――冬の川。

 ――夜の鉄道。


 そして、ユウの笑顔。


 「ユウ……」

 カイは小さく呟いた。

 その名を呼ぶと、門の向こうで微かな光が揺れた。

 まるで返事のように、夕風が頬を撫でる。


 ハルがそっとカイの袖を引いた。

 「ねえ、カイさん。僕たち、行こうよ。

  なんだか向こうに“誰か”が待ってる気がする」


 「そうだな……」


 カイは一度空を仰ぎ、深く息を吸った。

 空は茜から群青へ変わりつつある。

 そのグラデーションが、まるで“昼と夜の境目”にいることを教えてくれる。


 「行こう、ハル」

 「うん!」


 二人は並んで門へ歩み寄った。

 近づくたび、光は柔らかく脈打ち、笛の音の余韻と混ざるように響く。


 門に手を伸ばす。

 指先に触れた光は冷たくなく、むしろ温かかった。

 それは、どこかで感じたことのあるあの温もり――

 失われても胸に残り続ける、優しい記憶の体温。


 門を一歩くぐると、夕風が背中を押した。

 光が二人を包み込む。

 ハルの手がぎゅっとカイの指を握る。

 その強さが、彼の旅路がひとりではないことを教えてくれた。


 そして――

 二人は新しい世界へ踏み出した。


 門の向こう側には、夜ではなく、朝ではなく、

 どこまでも透き通った“光の道”が広がっていた。

光の門をくぐったカイとハル。

そこは“時刻なき鉄道”すら知らない、まったく新しい世界だった。

二人の旅は、また静かに次の章へ進み始める。

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