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夜の川原に降りてくる列車  作者: たむ


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第29話 光の岸辺、揺れる面影

夕暮れの道を歩くカイとハル。

その先に現れたのは、金色に揺れる“光の岸辺”。

そこでカイは、過去と未来の境目に立つことになる。

 夕陽が傾き始める頃、二人の影は長く伸びていた。

 朝の街を出てから、どれほど歩いただろう。

 石畳はやがて土の道へ変わり、草原を抜け、丘を越え――

 今、彼らは大きな川のほとりに立っていた。


 川は金色だった。

 夕陽をそのまま飲み込んだように、輝きながら緩やかに流れている。

 川辺の草は淡い光を宿し、風が吹くたびにさざ波のように揺れた。


 「……ここ、すごいね」

 ハルが目を丸くした。

 その顔は幼い好奇心で満たされている。


 「うん。まるで別の世界みたいだ」

 カイもそう言いながら、懐中時計に目を落とす。

 針は静かに進んでいる。

 ――“今”が確かに刻まれている。


 岸辺には小さな桟橋があった。

 古い板で組まれているが、不思議と朽ちた様子はない。

 水面に伸びるその影は、まるで“もう一つの道”のようにも見えた。


 「カイさん、あれ……」

 ハルが指先で示した先、川の向こうに白いもやが立っていた。

 その靄は、まるでかつてカイが渡った“霧の駅”に似ていた。

 記憶の向こうで、それは確かに見た光景だ。


 「ここ……来たことある気がするの?」

 ハルの問いに、カイは息を呑む。


 「わからない。でも……似てる。

  夜の列車が降りてきた川原に」


 そう呟いた瞬間、川の奥から汽笛のような音が聞こえた。

 夕暮れの風に混じって、どこか遠く、懐かしい響きで。


 「列車……?」

 ハルは目を輝かせた。

 しかし、カイは胸の奥がざわつくのを感じた。


 ――この川は、境界だ。


 どこかでそんな声がしたような気がする。


 川べりに近づくと、ふたりの足元に白い花が落ちていた。

 薄い花弁が光に透け、百合によく似ている。

 だが“祈りの花”よりも細く、透明に近い光をもつ。


 「これ……名前、知ってる?」

 ハルが尋ねる。


 カイは首を振った。

 けれど胸の奥がざわめく。どこかで見た覚えがある。

 列車の窓から、追憶の原へ向かう途中……

 まるで道を照らすように舞っていた光の花。


 ――『祈りが帰る場所に咲く』


 かつて影が言った言葉が蘇る。


 川面に視線を向けると、水の中に揺れる影があった。

 自分の影、ハルの影……その隣に、もう一つの影が揺れている。


 「ユウ……?」


 思わず名前が漏れた。

 だがハルは驚いた顔をして、


 「え……誰かいるの?」


 ときょとんとするばかり。


 影は揺れている。

 風が吹くたびに、影は伸び、縮み、そして――

 声にならない声を発しているようだった。


 『行け』

 『大丈夫』

 『まだ続く』


 川の音が、そう囁いている気がする。


 ハルがカイの袖を引いた。

 「ねえ、この川……渡れるの?」


 「わからない。でも……」

 カイは川面を見つめた。

 その奥の白い靄は、まるで“続き”を呼んでいるように揺れている。


 ふと、足元に置いた懐中時計がかすかに震えた。

 針が、音もなく止まった。


 「え……?」


 驚くより先に風が吹き抜ける。

 川の向こうから、淡い光が駆けてくる。

 それは列車の白い灯にも似ていた。


 ハルが不安そうに口を開いた。

 「カイさん……これって、もしかして……帰る道?」


 カイは静かに微笑む。

 「いや……“帰す道”かもしれない」


 川面が大きく揺れ、一瞬だけ水鏡のように澄みわたる。

 そこには、懐かしい笑顔が映っていた。


 ――ユウ。


 声は届かない。

 だが、影が言っていたことは確かだ。


 “旅は終わらない。

  終わるのは、迷うことだけだ。”


 カイは深く息を吸い、川辺にひざまずいた。

 手のひらを水面に触れようと伸ばす。

 その瞬間、懐中時計が再び動き出した。


 ――チリ……ン。


 小さな音を立てて、針が“今”に戻る。


 川面のユウの影は、そっと消えた。

 まるで「大丈夫だ」と言うように。


 カイは立ち上がる。

 夕陽の光が二人を照らしていた。


 「さあ、行こう。

  この先に何があっても、もう怖くない」


 ハルはうれしそうに頷き、笑った。

 その笑顔には、確かにユウの面影が宿っていた。


 二人は夕陽の道を進む。

 川の光が揺れ、風が優しく背中を押した。


 ――旅は続く。

 夜を越え、朝を渡り、光の向こうへ。


 新しい時刻を刻むために。

光の岸辺で見た“影”は、過去の残響であり、未来への導きだった。

カイは旅の続きを確かに選び、ハルとともに新たな道を踏み出す。

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