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夜の川原に降りてくる列車  作者: たむ


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第28話 風灯(ふうとう)の岬、静かな誓い

旅を続けるカイとハルは、風が絶えず吹きつける岬へ辿り着く。

そこには夜の名残を封じる“風灯”があった。

 風が絶え間なく吹いていた。

 空は晴れているのに、海の色はどこか深く、

 遠くの水平線は銀の糸のように細く光っている。


 カイとハルは、その岬に立っていた。

 街を離れ、道を進むこと数日――

 彼らの足は自然とこの場所へ導かれたように思えた。


 「ここが……“風灯の岬”?」

 ハルが帽子を押さえながら言う。

 風に吹き飛ばされそうなその声は、海に溶けていく。


 「そうだと思う」

 カイは頷いた。

 「昔、この岬には“夜を封じる灯”があったって聞いたことがある。

  夜に迷った旅人がここに来て、灯の前で願うと、

  その夜は二度と訪れなくなる――って」


 ハルは目を輝かせた。

 「それ、本当かな」

 「さあ……でも、この風なら何でも空に飛ばしてくれそうだろ?」


 二人は笑い合う。

 その笑い声は、あの日の“ユウの笑顔”を思い出させた。


 やがて岬の先端に小さな石造りの塔が見えてきた。

 塔の上には、古いガラスの灯籠が吊られている。

 灯りはついていない。

 けれど、ガラスには無数の風紋のような模様が刻まれ、

 触れると微かに温かかった。


 「これ……生きてるみたいだ」

 「“風灯”ってやつだよ」

 カイが言う。

 「火じゃなくて、風を灯すんだ。

  誰かの願いが風に触れると、光になるって」


 ハルは息を呑んだ。

 「じゃあ、カイ。何かお願いしないの?」

 「……うん。あるよ」


 そう言いながら、カイはポケットから小さな紙切れを出した。

 それはハルと旅を始めた日の朝、

 カイがふと胸の奥に浮かんだ“新しい願い”を書き留めたものだった。


 紙にはこう書かれている。


 《これから出会う誰かの夜を、少しでも照らせますように》


 ユウとの旅、

 自分自身との和解、

 風に託した手紙――


 それらすべてが結びついて、

 カイはようやく“自分の役目”のようなものを感じ始めていた。


 「カイ……」

 ハルが隣で静かに呟く。

 「それ、すごくいいね。僕も……何か書いていい?」

 「もちろん」


 ハルは風に髪を揺らしながら、真剣な顔で紙切れを一枚もらう。

 そして、ゆっくりとペンを走らせた。

 書き終えると、彼は照れたように笑って見せた。


 カイが覗き込むと、こう書かれていた。


 《僕を呼ぶ誰かの声を、ちゃんと聞けますように》


 それは、彼が“ハル”として生きていくための願いだった。

 ユウの記憶と重なりながらも、

 ハルは“別の誰か”として歩き出そうとしている――

 その証のようだった。


 二人は書いた紙を風灯の下にそっと置いた。

 風が吹き抜ける。

 すると、灯籠の中で何かが微かに揺れた。


 ガラスの奥に、小さな光が生まれた。


 「……灯った?」

 ハルが息を呑む。

 「風が願いを拾ったんだ」

 カイは静かに答えた。


 光は揺らめき、まるで呼吸するように大きくなっていく。

 灯籠の中で生まれた風の光は、

 やがて外へ溢れ、岬全体を満たし始めた。


 風が金色に輝いている――

 そんな光景、カイは生まれて初めて見た。


 「きれい……」

 ハルは目を細め、光に手を伸ばす。

 光は指先を包み、暖かな風として流れていく。


 すると、風の中に声が混じった。

 カイとハル、どちらにも聞こえる声。

 それは懐かしく、優しく、強い声だった。


 ――『前に進め。

   二人なら行ける。

   夜はもう、後ろにある』


 カイは目を閉じ、深く息を吸った。

 「ユウ……ありがとう」


 風灯の光は一度だけ強く輝き、

 やがて静かに消えていった。


 塔の上に残った灯籠はもう光っていなかったが、

 二人の胸の中には確かな灯りが残っていた。


 ハルが言った。

 「カイ……これからも、一緒に歩いてくれる?」

 「もちろんさ」

 カイは笑った。


 岬の先には、次の町へ続く細い道が見える。

 風が背を押してくる。


 二人の影は並び、

 やがて長い夕暮れの光の中へと伸びていった。

風灯が拾った願いは、

カイとハルの“これから”を照らす光となった。

二人の旅は、もう過去ではなく未来へ――風とともに続いていく。

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